よく「ツルハシを売る」という例えがある。
ツルハシを売るってのはどういうことかっていうと、ゴールドラッシュの時に金を掘るのではなくて、金を掘る人にツルハシを売った人が一番、実は儲けたのだ、みたいな話だ。あとはジーンズを売った人とかね。そういう意味で、何かをするための道具を売るのだということの例えとして、そういう言葉を使うわけなんだけれども。
例えば今、これはAIの話なんだけれども、大規模言語モデルが普及したことによって、少なくともソフトウェアについては、何かを作るというハードルがすごく下がっている。民主化されている。民主化とは何なのか、本当の民主化とは何なのか、みたいなことは考えてみたいところだけれども、そういう難しい言葉を使って定義をほじくり返さなくても、少なくともみんなが、大規模言語モデルを専門的な知識がなくても使えるようになって、それを使ってソフトウェアを実装することができるようになったというのは、これはもう間違いない。たくさんの人ができるようになった。そしてそれは、専門知識がなくてもできるようになったとは思う。
では、この時代においてツルハシとは何なんだろうか。もちろん一つは、大規模言語モデル、もしくはそれを使うツールなんだけれども、これはやや抽象的かつ汎用的すぎて、もう少し違うことを考えてみよう。
その大規模言語モデルを使って何かを作るという場合、特に最近、ドメインエキスパートについて考えたんだけれども、例えばエンジニアというのは、必ずしもその作るものの対象について詳しいわけではないこともある。もちろん詳しいことが理想なんだけれども、人間のリソースや分業ということを考えると、エンジニアは作るということに詳しいし、どういう課題があるのかということには別の人が詳しい、というのは分業としては全然あり得るわけだ。少なくとも従来の組織においてはね。
だけど、それゆえに、どこに問題があるのかということに詳しい人はエンジニアリングができなかったりするし、逆にエンジニアは、どこに問題があるのか、何を作ったらいいのかに詳しくないということは、分業として今までは存在した。では、いろんな人が低いコストで、簡単にある程度のソフトウェアを作れるようになった場合、少なくともある程度のソフトウェアについては、そのエンジニアリングの部分が……。まあ、エンジニアリングっていうと、単純にソフトウェアを実装することだけではないので、狭い意味で言うと、ソフトウェアを実装するということだけに関して言うと、まあそうは言っても、今のAIはもっと広範でいろんなことができるけどね。プログラムを書くということだけでなくて、いろんな仕組み全体をいじって成立させることができる。
だけど、まあとにかく、どういう問題があるのかということを知っている人、いわゆるドメインエキスパートだと思うけれども、言葉の定義に左右されるのも面倒くさいので、いったんそういう言葉は使わないとして、問題に詳しい人、問題がどこにあるのかわかっている人、そしてそのために何を作ったらいいのかわかっている人、そしてそれを作る人。その中で、それを作る人というものは、今AIによって置き換えられつつある。ある特定の分野においてはね。
もちろん、世の中はソフトウェアだけで動くわけでは全くない。ほとんどのものは現実世界にあって、ほとんどのものはハードウェアなわけだから、そんなことはないんだけれども、少なくともまずソフトウェアについてはそうだとしよう。
で、じゃあその場合に、ツルハシを作る人。ツルハシを作る人は、AIに置き換えられてしまった。しかし、じゃあまあツルハシを作ろうといっても、なんだろうな。ゴールドラッシュの時にツルハシを売ったっていうのは、例え話としてあまりにもわかりやすい。わかりやすいし、今となっては必然のように思えるけれども、当時、金を掘るためにツルハシが必要である、それがボトルネックになっていて、それがみんなに求められているのだということに気づけた人っていうのは、どのくらいいたんだろうか。
まあ正直言って、当時のことは何もわからないけれども、現代に置き換えて考えると、何かの問題があるかないかどうかわからない。とにかく環境があるとして、そこに対して「これはツルハシを売ればいいんだな」と思う時点で、その人はその業界に非常に詳しいというか、詳しくないと、ここにツルハシを売ればいいんだなと気づくことはできない。
当たり前のことではあるんだけれども、ツルハシの例えからは、そのドメインエキスパートの視点が抜けていると思っていて。当たり前なんだけれども、当たり前なんだけども当たり前すぎて、そこには専門知識があるのだ。ツルハシを売ればいいと気づくことにも専門性が必要なのだということ。
そして逆に言えば、現在ではツルハシを作ることは簡単になったかもしれないけれども、でもやっぱりツルハシを作ればいいのだと気づけることには、現代においても価値や優位性や専門性が必要なのではないかということだ。
だからこそプログラマー、ソフトウェアを作る人、ソフトウェアエンジニアは、ソフトウェアエンジニアリングのドメインに一番詳しいので、まずソフトウェアエンジニアリングにおけるツルハシを作るロボットを作ったのだ、ということになる。
だからやっぱり、自分が一番詳しい領域、自分が一番ドメインエキスパートだなと思う領域について、何かを作っていく。ツルハシを作っていくというか、その前にツルハシを見つけていくってことなのかな。
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