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IDEAS FOR GOOD · Aug 16, 2026

NEW: 「あの日のおばの骨」の温度を想う。言葉が流れていく時代に、長崎の被爆者の証言が教えてくれたこと

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IDEAS FOR GOOD · IDEAS FOR GOOD

こんにちは、IDEAS FOR GOOD編集部です。新たな1週間の始まりに、今回はお盆期間の特別編として、一つの記事の内容をそのままお届けします。

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夜、込み上げてくる何かを押し殺しながら、静かにベッドに入った。だけど、翌朝目が覚めてしばらくすると、前日の晩に聴いた歌を思い出し、涙が止まらなくなった。

…死んだ彼らの残したものは

生きている私 生きているあなた

他には誰も残っていない

他には誰も残っていない…

──『死んだ男の残したものは』(作詞:谷川俊太郎、作曲:武満徹)

耳の奥に残るその歌詞が胸を締め付け、気づけば、鼻水と涙で顔がびしょびしょになった。日焼け止めもアイシャドウも消えたけれど、そんなことはどうでもよかった。

それは、悲しみだけの涙ではなかった。

前日の夜、私は多くの外国人観光客や仕事終わりの人々でごった返す渋谷の街にいた。「平和な未来」をつくるために開かれた対談プロジェクト「Dialogue for Peace」に参加するためだ。被爆者の記憶を未来へと手渡すべく、これまで核問題や平和運動に触れる機会の少なかった人々ともフラットに出会うために始まった企画で、今後もさまざまな地域で開催していくという。

その日のゲストは、長崎の原爆被爆者であり、日本原水爆被害者団体協議会代表委員の田中熙巳(てるみ)さん、音楽家・文筆家の寺尾紗穂さん、アーティストのコムアイさん。トークセッションと弾き語りライブという「対話と音楽」で開かれた場だ。

左からコムアイさん、田中熙巳さん、寺尾紗穂さん

イベントが始まってまもなく、田中さんは、13歳だったあの日、長崎で経験した原爆投下の光景を静かに語り始めた。

「爆撃の音がしたとき、すぐに目と耳をふさいだ」

「山を越えて見下ろした街は、真っ黒になり、やがて空全体が真っ赤に染まっていった。『これが戦争なのか』と思った」

一人の人間が、そんな悲惨な経験をくぐり抜けて、いま目の前にいる。脳裏に焼き付くような言葉の描写に、胸が苦しくなる。それから田中さんは、「本当に戦争になったら、あの状態が周りに広がっていって、やがては世界中に広がっていくんだ」と言い、その後、こんな言葉をつぶやいた。

「たまたま国が違う、たまたま格差がある、そんなことで戦争をして『自分が上に行こう』とする考えは、もう80年前に捨てるべきだった」

想像を絶するような体験をした人の言葉と世界の今を並べたとき、その言葉は重く重く響いてきた。

核兵器をめぐる議論では、よく大きな数字や概念が飛び交う。「地球上に存在する1万2000発の核兵器」「広島と長崎で失われた21万人の命」「核の非人道性」「核抑止力」。

けれど、どれだけ重大な言葉であっても、何度も耳にするうちに私たちの意識をすーっと通り過ぎ、いつの間にか「聞き慣れて」しまうことがある。田中さんは、その言葉の背後にある「中身」を想像することの大切さを訴えていた。

「『非人道的だから使っちゃいけない』という言葉だけで終わらせてしまったら、本当の恐怖や非人道性の中身は伝わらない。どういう殺され方をするのか、どういう生活を強いられるのか。言葉で表現できるような形として据えていかないと、信念にはつながらない」

田中さんは、原爆投下から三日目、焼け跡に入り、爆心地近くで探し当てたおばの遺体を自ら焼き、その骨を拾った。何十人もの怪我人や遺体を見て感覚が麻痺していたはずなのに、焼かれて骨の形になったおばを目の前にしたとき、涙が止まらなくなったという。

一人の人間が体験した命の「手触り」は、数字や大きな言葉を聞くだけでは、実感することは難しい。言葉が溢れ、滑り落ちていく時代だからこそ、私たちは一人の証言の重みに耳を傾け、その向こう側にある具体的な苦しみやぬくもりに、想像力を働かせ続けなければならないのだろう。

話が戦後の暮らしに及んだとき、田中さんは1週間何も口にできないほどの「大貧乏」を経験したと明かしてくれた。戦争で父親を亡くし、収入がゼロになった中で、田中さんの生命をつなぎ止めたのは、近所の人々や学校の友人たちの助け合いだった。

「お金がなくても、食料がなくても、同級生やその親たちが『田中君、大変だから助けてあげなさい』とこっそり支えてくれた。みんなが貧しかったけれど、助け合いがあったから生きられたんです」

そう振り返りながら、田中さんは、今の社会に対して強い危惧を口にした。

「今の若い人たちを見ていると、何かあったら助け合うというつながりが非常に希薄になっているように見えます。競争社会のなかで、『偉くなきゃいけない』『金持ちにならなきゃいけない』と、小さい頃から競争させられている。

そういう社会では、本当の対話は実現しません。信頼がないと本音をいうことも難しいと思うからです。『本音を言うと自分を出し抜いて、あいつがいい思いをするんじゃないか』と疑えば、自分の本当の考えを言えなくなってしまいます。だから、子どものときから友達と信頼し合って、お互いに助けるというふうにして大きくなっていくというのが一番大事。死ぬまで誰かと競争するなど間違っていると思います。そんなのやめませんか」

競争社会の中でますます広がる「自分だけが良ければいい」という考え方。他の国に爆弾が落ちて人が殺されても、誰かが困っていても、自分たちさえ助かればいいと目をつぶる。

「それこそが、戦争を引き起こす原理そのものではないか」というコムアイさんのコメントに対して、田中さんはさらに社会の構造へと視野を広げてくれた。

「経済のことで言うと『新自由主義』が広がり、私たちはある程度自由になり、社会保障や制度としては立派な国になったかもしれません。ただ、格差は広がり、気持ちとしては『貧乏』になっている人たちがたくさんいるように見えます。

人間は多様であっていいはず。どんな仕事をやっていても良くて、それぞれが分担することで人間社会は成り立つ。それなのに分裂をして差をつける。それが今、社会にはびこっているのが一番良くないことだと感じます。本来、外国の人も私たちもみな同じ人間ですから」

国全体は豊かになった。一方で、人とのあいだに境界線を引き、分断が広がっているようにも感じる。その空気は、平和を遠ざけるものなのかもしれない。

では、戦争によって日常が断ち切られる前、田中さんの目には長崎の街がどのように映っていたのだろう。コムアイさんが「平和だった頃の記憶」を尋ねると、田中さんは戦前の長崎の記憶を愛おしそうに振り返った。

「テレビもスマホもなく、あるのはラジオだけ。竹馬や釘刺しのような素朴な遊びばかりだったけれど、本当に楽しかった。遊ぶことに罪はないですよね。長崎にはアメリカ人もオランダ人もいて、みんなお友達だった。

だけど戦争で『敵国』になった途端、会話さえできなくなってしまった。敵対は誰かに『作られていく』ものなんだと思います。普通はみんな、友達になれる人なんですよ。それをずっと追求していけば、戦争をしない平和な世界ができるんじゃないかと私は思います」

「自分さえ良ければいい」

そんな考えは、私自身の心の中にも少なからず存在している。それに、どれほどの善人であっても、誰もが常に、見知らぬ他者や起こりうる未来に想いを馳せられるわけではないだろう。では、他者への想像力や共感力は、いかにして養うことができるのだろう。経験したことのない誰かの痛みにどうすれば寄り添うことができるのだろう──トークの最中、そんな問いが胸に湧いてきた。

イベントの後、思い切って田中さんにその問いをぶつけてみた。まっすぐに私の目を見つめた田中さんから返ってきたのは、シンプルで、けれど重みのある言葉だった。

「答えを人に聞かずに、自分で考えなさい」

「しまった」と思うと同時に、とても大事なことに気づかされた。誰かに答えを委ねるのではなく、揺らぎながらも自ら探し続けること。それこそ、私たちが手放してはいけないものなのだ、と。

「平和」という言葉だけでは、きっと足りない。「核兵器」という言葉だけでも足りない。あの日、拾い上げられ、焼かれたおばの骨。その命の重さを想像し続けること。過去を生きた誰かが紡いでくれた「今」を、私たちは生きている。

絶望の中にも、希望はある。 被爆者・田中稔子さんがアートで問いかける「私たちの平和」

広島オープンした「Peace Culture Museum」。七宝作品が展示された民家で、被爆者・田中稔子さんに会いました。70歳にして平和証言を始めた彼女が伝える「平和のつくり方」とは?

平和の多様性。一人ひとりが考える、私にとっての「平和のテイギ」

「平和」という言葉を発するとき、それが意味するものは一人ひとりが過ごした場所や関わってきた人などによっても大きく違っている。一人ひとりの平和の「定義」を考え、頭をフル回転させて“IDEAS FOR PEACE”を生みだすことで、様々な面からピースフルな世界を描いていきたい。

ポッドキャスト
 

🪞 前川裕奈さんと考えるルッキズムの正体と私たちのジレンマ

私たちの日常には、美しさを基準に人や物事を評価する視点や、見た目にまつわる“無意識の呪い”があふれています。今回のゲストは、2026年7月に出版された新刊『つまり、それがルッキズム~23の事例と解説~』の著者、前川裕奈さん。

ルッキズムを単なる「個人の好みの問題」としてではなく、フェミニズムやエイジズム、さらには資本主義とも結びついた「社会の構造」として捉え、その正体を探ります。自分や他人の見た目に対する「好み」とどう向き合えばいいのか?世代やジェンダーの間にある価値観の違いを、どうすれば乗り越えていけるのか?そんなジレンマにも向き合いながら、誰もがのびのびと生きられる社会へのヒントを探ります。

編集部からのお知らせ

【9/3-4開催@横浜】循環型都市移行への道筋を共に問い繋がる「アジア太平洋循環型都市(APCC)フォーラム」参加者募集中

Sponsored by 横浜市

トップダウンによる規制先行とは異なる、現場の実践を積み上げる「アジアらしい循環型都市への移行」を目指して──2026年9月、横浜にて「アジア太平洋循環型都市フォーラム(APCCフォーラム)」が初開催されます。

横浜市が主導する「アジア循環型都市宣言(ACCD)」の署名都市をはじめとする国内外約30都市のリーダー、国際機関、最先端企業が集結。本フォーラムのポイントは、達成できた成果のアピールにとどまらず、都市が抱える課題や未解決の問いを持ち寄る「課題志向の対話」にあります。

「企業は自治体に何を求めるか」をテーマにした官民対話や、創設署名都市の取り組み・課題を網羅した調査データの初公表など、社会実装や市場形成に直結する議論が展開されます。歩む道や成長段階が異なる都市同士が共通の指針で語り合うことで、アジア全体の都市政策や開発支援を動かす大きな波を作り出します。

アジア市場での事業展開や循環型サプライチェーンの構築を目指す企業にとっても、都市のリアルなニーズを知り、直接つながる機会となるはずです。対面だからこその偶然の発見や出会いから新たな共創を生み出し、GREEN×EXPO 2027とその先へ続く循環の未来を共に創りませんか。

名称:アジア太平洋循環型都市フォーラム2026(Asia-Pacific Circular Cities Forum 2026)
テーマ:アジア太平洋地域における循環型都市移行への道筋〜都市の結束と具体行動をGREEN×EXPO 2027とその先へ〜
日時: 2026年9月3日(木)〜9月4日(金)
場所: パシフィコ横浜ノース
主催: 横浜市(共同主催:イクレイ日本)
費用: 無料(事前登録制)
言語: 英語(日英同時通訳、日本語のみのセッションあり)

詳細・お申し込みはこちら

  • 参加都市:アジア太平洋地域の約30都市(タイ・バンコク都、フィリピン・セブ市、ベトナム・ダナン市、横浜市 ほか)

  • 国際機関・団体:国連ESCAP、UNDP、世界銀行、CITYNET、世界経済フォーラム、エレン・マッカーサー財団、サークルエコノミー、公益社団法人2027年国際園芸博覧会協会(GREEN×EXPO協会)ほか

  • 登壇予定企業:竹中工務店、ヤマハ発動機、日本テトラパック、レコテック、JFEエンジニアリング ほか多数

【9/1@オンライン】誇張でも沈黙でもない第三の発信へ。 B Corpの実践から紐解く、 誠実な情報の届け方(Climate Creative Cafe 24)

実態以上の表現をしてしまう「グリーンウォッシング」や、批判を恐れて口を閉ざす「グリーンハッシング」。気候変動や環境負荷軽減をめぐる企業の情報発信において、この二つの狭間で頭を悩ませる担当者は少なくありません。完璧な正解を待つのではなく、不完全なプロセスまでも正直に開示していくための、企業の「情報発信の態度」が今まさに問われています。

本イベントでは、これからの日本社会において、どのように誠実なコミュニケーションを育てていくかという「実践の現場」に光を当てます。B Corp認証を運営するB Market Builder Japanの溝渕氏からは、情報の透明性を高め、ポジティブなインパクトを加速させるためのガイドラインなどをもとに、いま必要とされる発信の態度について。また、2025年にB Corp認証を取得した300年以上の歴史を持つ老舗・中川政七商店の羽端氏からは、伝統工芸と環境をつなぐ循環プログラム「C KOGEI」を立ち上げるに至った意思決定プロセスや、事業のビジョンと誠実に接続しながら活動を伝える姿勢について学びます。

誇張でも沈黙でもない「第三の発信」を、日本社会の文脈から探るとき、どのような可能性が開けるでしょうか。不完全さを抱えながらも、社会に対して誠実に向き合い、正しい自信を持って声を上げ続けるためのヒントを、共に探求してみませんか。

日時: 2026年9月1日(火)17:00〜18:30
場所: オンライン(Zoom配信)
登壇者:溝渕 由樹 氏(B Market Builder Japan) / 羽端 大 氏(株式会社中川政七商店)
費用: 無料

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【短編映画リペアカフェ・全国に上映拡大中】IDEAS FOR GOODオリジナルドキュメンタリーを鑑賞しませんか?

「修理したいのはモノだけじゃなかった」

お店では修理を受け付けてくれない壊れた家電や服、自転車など、あらゆるものを地域のボランティアが無料で直してくれる、オランダ発祥のリペアカフェ。実は彼らの役目は、モノを修理するだけではない。

離れ離れになった家族の「思い出」、疎遠になりつつある地域の「コミュニティ」、捨てることを前提に成り立つ消費社会の「システム」……

リペアカフェにはどのような人とモノが集うのか?壊れかけた「モノ以上のもの」を直す人々の物語がここにある。

企業、行政、教育機関、地域コミュニティ向けに『リペアカフェ』の自主上映プランをご用意しています。映画の上映会を通じて、リペアムーブメントを一緒に盛り上げませんか?

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