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デザインの手前 · Aug 5, 2026

グラフィックデザイナーは、なぜスタジオをひらくのか | LABORATORIES・加藤賢策さん

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デザインの手前 · デザインの手前

原田:先週まで、設計事務所・DAIKEI MILLS中村圭佑さんと、デザイナーの柳原照弘さんのおふたりをお迎えし、全4回にわたってデザイナーが運営する場についてお話を伺ってきました。中村さんが東京・亀有で運営されているSKWAT KAMEARI ART CENTER、そして柳原さんが神戸とフランス・アルルの2拠点で展開しているVAGUEというスペースの話を中心にいろいろ聞いてきましたが、今日はそのシリーズの延長線上で、中村さん、柳原さんとはまた違うアプローチで、最近場の運営を始められたデザイナーさんをゲストにお迎えしています。
LABORATORIES代表で、アートディレクター、グラフィックデザイナーの加藤賢策さんです。加藤さん、よろしくお願いします。

加藤:よろしくお願いします。

山田:よろしくお願いします。

原田:いま僕らは加藤さんが新しく開設された場に伺っています。ここは今年の5月ぐらいにオープンされたんですよね。

加藤:そうですね。実は昨年から借りてはいたのですが、実際に動き出したのは5月ぐらいで、そこから公に告知をした展示などが始まった感じですね。

原田:ここは、東京・富ヶ谷にあるLABORATORIESという加藤さんが代表をされているデザインスタジオから、少し離れた場所なんですよね。

加藤:そうです。筋1本違いの場所にあります。

原田:今日は、この5月にオープンされたNEWSTUDIOというスペースについてお聞きしていきたいと思っています。この場所はまだオープンされて間もないと思いますが、現在はどういう形で運営されているのでしょうか?

加藤:ここはそもそも、基本的にはオフィスなんですよね。ただ、本拠地としてのオフィスは別にあって、アネックスという位置づけです。基本的には僕が1人で奥で作業をしている場所です。展示やイベントはまだちょこちょこしかやっていないですが、企画の種のようなものは実は結構たくさんあります。まだ動かし始めたばかりなので、この1年ぐらいは試運転というか、可能性を探る時期になっていますね。

山田:普段はここで1人で作業されていて、スタッフの方との打ち合わせはここでされるのですか?

加藤賢策:株式会社ラボラトリーズ代表。アートディレクター/グラフィックデザイナーとしてグラフィックデザイン、ブックデザイン、WEBデザイン、サインデザインなどを手がける。主な仕事に、八戸市美術館シンボルマーク(2021)、世界のデザイン誌『アイデア』(誠文堂新光社)アートディレクション(2017-)、21_21 DESIGN SIGHT企画展「もじ イメージ Graphic 展」共同ディレクターおよびアートディレクション(2023)など。武蔵野美術大学非常勤講師。

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加藤:そういう時もあります。スタッフ8人が徒歩1、2分ほどの本社の方にいて、こちらに場所をつくってからは、僕がお昼と夕方6時に向こうに出向いて、いろいろ作業やチェックをするというルーティンができ上がりつつあります。例えば、何人かで打ち合わせがあったり、外からお客さんが来て打ち合わせをしたりするときは、ここでやることもあります。僕らはエディトリアルデザインの仕事で、編集者と一緒に作業をすることが多いので、この場で一緒に作業をしたり、長時間編集者と一緒にああでもないこうでもないと言ったりする場所としても使っています。

原田:前回まで出ていただいた中村さんと柳原さんは、主に空間やインテリア、それ自体をデザインされるお仕事なので、場の運営がご自身の普段の仕事にかなり直結すると思います。一方で、グラフィックデザイナーが半分とはいえひらかれた場を運営するというのは、少し観点が違うのかなと。最近グラフィックの領域だと、KIGIさんなどもそうした実験をされていますが、そこは事務所とはまた違う単独の場所として運営されています。それでいうと加藤さんの場合は、スタジオをひらくというアプローチに近いのかなと思いますが、そのあたりも含めて、グラフィックデザイナーが場をどのように運営していくのかという話をこれから詳しく聞いていきたいと思っています。
その前にまずは、加藤さんご自身のこれまでの活動や、最近のお仕事の領域などについて、簡単にお話しいただいてもよろしいでしょうか。

加藤:LABORATORIESや僕のデザインの仕事で言うと、ひとつはエディトリアルデザインがあります。例えば、誠文堂新光社から出ている『アイデア』というグラフィックデザインの雑誌がありますが、そのアートディレクションをもう10年近くやっていて、商業出版のブックデザインもよくやっています。もうひとつは、展覧会のグラフィックや、美術館周りのグラフィックデザインの仕事があります。美術館周りの仕事は空間に関わったり、最近だとSNSでビジュアルをつくったり、カタログをつくったりするところまでメディアを横断するので、ブックデザインとはまた違いますね。あとは、武蔵野美術大学に非常勤として勤めていて、その広報のアートディレクションもこの5年ぐらいやっています。

原田:少し前になりますが、21_21 DESIGN SIGHTで開催された『もじ イメージ Graphic 展』では、展覧会ディレクター3人のうちの1人として参加されていますよね。先ほどお話にあった『アイデア』も、だいぶ前だと思いますが、思想書の特集の企画など、デザインに加えて、企画や編集寄りの立ち回りもされている方なのかなというイメージがあります。

加藤:そうですね。グラフィックデザインの仕事は編集者にかなり近いというか、形を使った編集をしていると思うんですよね。手段は少し違うが、編集とはかなり親和性があり、編集者の知り合いもかなり多いですし、共通言語もあるかなと思っています。

NEWSTUDIO(2026) “Untitled (A Space in Tomigaya #7–241)”, 2026. ©︎ Gottingham. Image courtesy of Laboratories and Studio Xxingham

原田:そもそもなぜスタジオを開いたのか、まずは動機の部分から聞かせていただきたいです。構想としては結構前からあったのでしょうか?

加藤:そうですね。ずっと受注でデザインの仕事をやっていて、15年ぐらいになりますが、ずっと場所を持ちたかったんですよね。なぜと言われると少し困るのですが、自分としては、もう結構10年ぐらい経ってしまって遅かったなと思っているぐらいなんです。場所を持ちたいと思ったきっかけはいくつかあって、ひとつは東浩紀さんがやっているゲンロンカフェがあります。当時、僕は結構ゲンロンの近くで仕事をしていて、ゲンロンのデザインもしていたのですが、ゲンロンカフェが立ち上がるプロセスを見ていて、そこにはかなり影響を受けています。
グラフィックデザイナーの社会的な役割のような話もしなければいけないのかもしれないですが、僕は親がお店をやっていたので、そういう環境の影響もあるかなと思っています。

山田:もともと開かれた場所のようなものが割と身近にあったんですね。

加藤:そうなんですよね。でも、開かれた場所というのは、ただ場所がぽかんとあるだけだとやっぱりだめなんです。うちの父は焼き肉屋をやっていたのですが、小さい頃にお客さんにかわいがられたりしていました。お店に行くと父が厨房にいたり、客席にいたりして、そういうのを近くで見て育ったというのがあります。従業員の人も結構たくさんいて、そういう人たちに育てられたような感覚もあります。さらに街に出た時に、「あのお店の子なの?」という感じで、別の場所やコミュニティでそれをきっかけに可愛がられることもありました。そういう経験が子どもの頃から結構あって、それが大きいと思っています。外に開かれた場がなんとなく心地良いんです。例えばいまの事務所も、基本的にはうちで借りている場所ですが、必ず外部の人がいるようにしています。例えばプログラマーがいたり、うちの社員ではないけれど誰かがいるという感じです。

原田:いわゆる間借り的な形ですね。

加藤:そうですね。そういうことは常にやるようにしています。こちらにも実は1人いるのですが、ずっとスタッフとだけ顔を突き合わせて何かをやっていると、やっぱり閉じてしまうというか、自分の健康にも悪いような感じがあるんです。多分、単純にそういう環境が好きなんですよね(笑)。とはいえ、ただ場をつくるというのは多分違うし、うちの父が焼き肉屋をやっていたように、僕はたまたまデザイナーだったので、デザイナーであることを軸に場を開くべきだろうと。純粋にギャラリーをやるというのも違うし、いま自分がいることを軸に場所を開くことで色んな可能性が見えてくるんじゃないかなと思っています。だから、「ここでこういうことをしたいんです」という企画書を書いて進めるようなことではなくて、ここでこれから何をやるのか、この1年試運転しながら考えているという感じです。

原田:NEWSTUDIOというネーミングもニュートラルですよね。もしかするとLABORATORIESも同じかもしれませんが。例えば、前回までお話を伺っていたSKWATという場所は、スクワッティングから取られていて、名前が思想と結びついているところがありますが、NEWSTUDIOというニュートラルな名前はいまの加藤さんのお話ともつながるのかなと思いながら聞いていました。

加藤:そうですね。なんてことない名前がいいかなと思っていました。場所としては、あまり方向性が出ない名前にしたいと思っていました。今日このビルに来られた時に思ったかもしれませんが、両隣にピカピカのマンションが建っているんですよね。もともとここはずっと雑居ビルの並びだったのですが、多分両隣のマンションを計画した人は、このビルも買いたかったんだと思うんですよね。でも、多分頑固に売らなかったんでしょうね(笑)。両隣が富ヶ谷イーストガーデンとウエストガーデンという名前だったので、ここの名前を「富ヶ谷セントラル」にしようかなと思ったぐらいなんです(笑)。そうやって自動的に立ち上がってくる名前も面白いかなと思ったのですが、それもちょっとやりすぎかなと思って、NEWSTUDIOというニュートラルな名前になりました。

NEWSTUDIO(2026) “Untitled (A Space in Tomigaya #7–241)”, 2026. ©︎ Gottingham. Image courtesy of Laboratories and Studio Xxingham

山田:先ほど話に出てきたKIGIさんは、彼らのスペースが凄く自分たちらしいというか、デザインスタジオであると同時に、アーティストとしての活動もされているので、そういった視点を持っている人たちらしい空間になっているのかなと思います。

原田:彼らがデザインしたものも物販で売られていたりしますよね。

山田:そうですね。彼らに近いところにいるグラフィックデザイナーの方々が作品をつくる場、発表する場として、シェアしていくことも含めて、コマーシャルの仕事をしながら、一方で作品制作もしていきたいという価値観が強い人たちが、KIGIさんの周りには多いのかなと思います。そういったところもあって、空間にはその人らしさが出る。こちらにお邪魔してみると、僕たちは編集者でやっぱり本が好きなので、ここはコンテンツの場所なのかなという感じがします。僕は小説家の柴崎友香さんがデビューの時から凄く好きなのですが、滝口悠生さんや町屋良平さんなど世代が近い小説家の方々のイベントが少し前に行われていましたよね。グラフィックデザインの文脈で、現代小説、現代の物語を語ることがここで行われるというのは、凄くユニークだと思っています。グラフィックのアプローチから、そういうコンテンツを紐解いていくというか。その前に行われていた展示も編集的な視点の展覧会というか、そういった展示が行われていて、そのあたりがNEWSTUDIOらしさなのかなと。まだ始まったばかりなので、これからより「らしさ」が出てくるのだと思いますが。

原田:これまでに行われたものとしては、グラフィックデザイナーの鈴木哲生さんの絵本の展示と、小説家の方と書評家の方のトークイベントの2つになりますかね。

加藤:公開したイベントとしてはそうですね。基本的にはその2つとも、僕から「こういうことをやりませんか」と言ったわけではないんです。この場所を身内にお披露目をした時に鈴木さんがやって来て、もともと面識はあったのですが、「最近絵本をつくったので、ここで展示をして販促になるようなイベントができないかな」と言ってくださったのがきっかけでした。僕は鈴木さんに前から注目していましたし、凄く好きなので、ぜひということで実現した企画ですね。それは、デザイナーという同業者の関係性ででき上がったものですが、本なので出版社の方もいて、編集者の末松さんという方と3人でつくったようなところはありますね。もうひとつの小説家のトークイベントは、最近フィルムアート社から出た小説のシリーズに絡めたトークイベントでした。
そもそもグラフィックデザイナーは、いろいろな人と一緒に仕事をしますよね。出版社ともそうですし、企業の人とも仕事をする。デザイナーとしていろいろな人と渡り合うので、もともとあるつながりだけで企画をやっていくと、割とさまざまなイベントになっていくということはあると思います。デザイナーは、そういうポジションでもあると思うんですよね。展覧会をやるのは大変なので、かなり前からしっかり準備をしないといけないですが、もう少し気軽なトークイベントなどもここでやりたいと思っています。別に無料でもいいので、そういう場ができたらいい。デザイナーが何かをやるとなると展示になりがちですが、僕のイメージではデザイナーがつくる場所と、五反田のゲンロンカフェの中間ぐらいをやりたいと思っています(笑)。もう少し話をしたり、いま何に注目しているかを話したり、そういうレベルでもいいですし。スペースの片側が本棚になっていて、そこに本が陳列されているのですが、1冊の本をネタにみんなで話すような企画やフォーマットをこれからつくりたいと思っているんですよね。

原田:加藤さんがよくデザインされている本というのは、基本的には誰かの思想が形になったものですよね。ここで行われているトークというのも、もしかしたら「デザインの手前」的な話かもしれませんが、ものが生まれる手前の思考をキャッチボールするような場になっているのかなと思いました。また、鈴木さんの展覧会もプロセスをかなり提示されていましたよね。デザインが定着する前のプロセスをひらいていくようなことが、こういう場があるといろいろできるのかなとこれまでの事例を見て思いました。

加藤:そうですね。そもそもここはオフィスを開いているので、ある種仕事の現場であることがうっすら感じられる。それはやはりポイントになるかなと思っています。そのあたりはもちろん考えたいですが、受注の仕事を大っぴらにここでバンバンやるわけにはいかないところもあります。そういう仕事は本社でちゃんとやっていて、ここでは常にそういうものを見せているわけにもいかない。その難しさも少しありますよね。

原田:ご実家がお店をやられていたという話でいうと、場を開くことによって、スタジオで他の方が間借りをしている状況よりも不特定多数の人が来ることになるわけじゃないですか。そういう状況をつくりたかったというところは結構あったのですか?

加藤:そうですね。本当にまったく知らない人が来るような場所にするのかどうかというのはあって、その辺にはグラデーションがあると思っています。これまでに展覧会を1回やりましたが、鈴木さんにはフォロワーがたくさんいるので、展覧会をやると素性がなんとなくわかるような人が来るんです。でも途中で、イラストレーション系のメディアか何かのウェブサイトで一度紹介された後に、明らかにそれを見て来たなという人もいました。僕らの活動や鈴木さんのことをよく知っている人などSNSのフォロワー伝いで来る人たちは割と想像できる範囲ですが、その枠から外れると、パッと来て一瞬で帰っていく人もいたりする。多分そういう人は、拡散されたものを見て来た人なんだと。客層にもグラデーションがあるんですよね。実際にこういう場所を開いて広報してみると、そういうことが如実にわかる。場所を開くとそういうことが見えたりします。ただ、僕もとにかくいろんな人に来てほしいわけではないんです。ここは1階ならまだしも、雑居ビルの4階なんですよ。この滝のような階段を登ってくるので、それなりの覚悟がないとなんとなくは来られないというか。

原田:敷居は低くはないですね。

加藤:そうなんですよね。ここのポテンシャルとして、まず4階にあるからそんなに通りすがりの人は来ない。まずはそれがちょうどいいかなと思っています。でも鍵を開けていると、営業の人が突然入ってきたりするんですよね(笑)。よく来るなと。

原田:何の営業なんですか?

加藤:何の営業なんですかね。その時点で断ったりしているので、結局何の営業だったのかわからないんですけど、「お話ししてもいいですか?」みたいな感じで来たりします(笑)。

加藤:も、こういうふうに開かれた場所については、かつていろいろあっただろうなと思って調べたりしました。例えばアンディ・ウォーホルのファクトリーは本当に全開放していて、誰がいるのかもわからないような状態で、横ではシルクスクリーンを制作していて、一方でパーティーが行われている。そうした仕事場全開放のようなものもあると思いますが、最終的にアンディ・ウォーホルはそこで活動家の人に撃たれたりするわけですよね。開くというのは多分こういうことだなと。最後は撃たれるな、みたいな(笑)。そういうことはあるだろうと。だから、開き具合には多分いろいろあるんだろうなと思っています。ウォーホルは極端な話だと思いますが。

原田:グラデーションが出るところですよね。

加藤:うちの親がお店をやっていたことにもいろいろなグラデーションがあって、常連さんもいれば、一見さんもいる。そのグラデーションの中で、どちらかだけというのは少し違うかなと思いますが、実際にプロジェクトを動かすといろいろなことが見えてくるわけですよね。お客さんもそうですし、展覧会をやったら「この備品が必要なんだな」ということも見えてくる。意外とそういうことがいまは凄く楽しくて、例えばトークイベントをやるにも、開放しているとはいえ控室をつくらなければいけないという話があります。「これ、カーテン必要なんじゃないの?」とか。ここはあえて奥を見せるために、いまは半分金網で仕切られているんですけど、金網ではさすがに控室とは言えないのではないかということになって、急遽レールを使ってカーテンでもう少し遮蔽することを考えたりしました。ここの内装は、田部井美奈さんの回に番組に出ていた中原崇史さんにやってもらっていて、何かあるたびに「すいません、中原さん、これが必要で」と相談して、付き合ってもらっています。何かやるたびに必要なものが見えてくるという感じです。僕のやり方として、「こういうことをやる場です」と言って全部準備して、一気に告知してやることはやっぱり苦手なんですよね。だから何かやるたびにどんどん拡張されていくということの連続ですね。

山田:たしかに柳原(照弘)さんはお店もやられていますし、設計もされているから、例えば消防の許可を取らなければいけない、食品衛生で保健所の許可を取らなければいけないということが想像できると思います。編集という仕事もいまはかなり幅が広いので、僕もイベントのお手伝いをすることもあるのですが、そもそも会計でクレジットカード決済の準備をしているかというレベルから話していかないといけないこともあります。場をつくっていく現実的な部分で、どれだけ人が必要なのかということとかがありますよね。でも、そうやって自分の場らしいイベントのつくり方が生成されていくというか、プロンプトを与えていくわけではないですが、いろいろな与条件に合わせて自分のところらしさが出てくる。それこそSKWATもいまはイベント担当のスタッフがいるので上手に運営されていますが、最初の頃はそんなこともなかった。いろいろな経験が場をつくっていくのだと思います。

NEWSTUDIO(2026) “Untitled (A Space in Tomigaya #7–241)”, 2026. ©︎ Gottingham. Image courtesy of Laboratories and Studio Xxingham

原田:先ほどゲンロンカフェのようなという話もありましたが、本業がグラフィックデザインである加藤さんが場を開くことで、期待していることはどんなことなのでしょうか?

加藤:単純にこういう場所を持っていると、同世代の人たちも来ますし、結構下の世代の人たちも来たりします。本当に月並みですけど単純に刺激になるんです。人と出会う刺激がありますし、いまみんなが何を考えているのかもそこでわかったりする。本当に基本的なところでいうと、そういうことですよね。それが直接的に自分たちがつくるものに影響があるかというとそこはやっぱりわからないし、あまりその辺は考えなくてもいいかなとは思っています。でも僕もデザイナーを20年ぐらいやっていて、歳も取ってくると、ある種の飽きが来るわけですよね(笑)。飽きが来るというよりは、やり方を変えようかなとか。もちろんこれまでも、向こうから来る刺激もあれば、自発的に得る刺激もあって、そういうものをインプットしながらやってきました。でも、インプット自体の形を少し変えてみるということは、ひとつあるかもしれないですね。
場所のいいところでいうと、交流があって情報の交換があるということがありますが、もう1歩進むと、そこで起こったことをアーカイブしていくことがあると思うんです。アーカイブはもちろんデジタルでもできるかもしれないけれど、物理的な場があって、常にいろいろな情報が流れていく中で、それをストックしていくことも必要だと思っています。例えばゲンロンだったら雑誌があり、
シラスという媒体がある。だから場があることとアーカイブしていくことは、セットのように思っています。単に場があって、パーティーを毎日していればいいというのはやっぱり違う。ここはまだ始まったばかりですが、例えば毎年ここであったことを1冊にするとか、そんなにボリュームは出ないかもしれないですが、何か形にすることはやっていこうかなと思っています。
僕はグラフィックデザインの雑誌『アイデア』のアートディレクションを長くやっているので、海外のデザイナーとの交流もあって、最近は日本を訪ねてくるデザイナーも多いんですよね。そういう人たちと話していて、結構新鮮に思うことがあるので、例えば東京のグラフィックや日本のグラフィックデザインなど、いまのことだけではなく、過去にさかのぼった歴史的な資料などもアーカイブして、外から来た人が楽しめるような場にできたら面白いかなと思っています。ここで起こったこともアーカイブするし、この周辺で起こったことや歴史の層の中にあるものを、グラフィックデザインやデザインという視点で再編集して、ここでアーカイブしていく。ただ、アーカイブするといっても無限にスペースがあるわけではないので、やっぱり視点が必要だなとは思っています。いま言ったような場とアーカイブのセット機能は、ひとつわかりやすいところですかね。

原田:アーカイブはグラフィックデザインと密接で直接的につながると思うんですけど、いまの話でいうと、アーカイブされる要素自体が生まれてくるところに立ち会うという話もあるのかなと思いました。加藤さんは企画などに関わることもしばしばあると思いますが、コンテンツ側に入っていきたいという欲求は結構あるのですか?

加藤:そうですね。例えば単純に雑誌をつくりたいなとか、雑誌なのかは少しわからないですが、ある視点をまとめたものには凄く興味があります。受注の仕事だけでも本当に忙しいのですが、忙しいと言っていられないというか(笑)、場所を構えてしまったのでそういうこともやっていきたいと思っています。例えば、21_21 DESIGN SIGHTの『もじ イメージ Graphic 展』を一緒にやった室賀清徳さんなど協力者も結構いるんです。公開はしていないですが、ここではクローズドのイベントもちょこちょこやっていて、例えば海外からグラフィックデザイナーが訪ねて来た時に室賀さんが通訳しながら、身内を30人ぐらいを集めて話してもらったりしています。気軽にそういうことをやりたいねという話をしていますし、編集者の人も何人かいて、そういう人たちと一緒にいまいろいろな話をしていますし、ぜひ皆さんとも一緒にできたらいいなと思っています。

原田:スタッフの方たちにこの場をこういうふうに使ってほしいとか、この場があることで何か期待していることはありますか?

加藤:そうですね。いずれ若いうちのスタッフが企画するイベントがあってもいいのかなと思ったりしますし、そういう声もあります。ただ、デザイン事務所がこういうギャラリースペースを持ったり、雑誌を始めたりした時に、中のデザイナーが駆り出される空気がなんとなくありますよね。そこにはやはり一線を引かないといけないかなと思っています。

原田:そこは皆さん悩みどころなのだと思います。

加藤:たまに聞くんですね。

山田:みんなが同じ情熱でやっているわけではないので、やっぱり使われているという感じになってしまうと、お互いにとってそんなに良いことではないですよね。同じ熱量でやってくれるといいですが、そうではなく義務的になっていくのであれば、そこまでしてやらなくていいというか。

原田:そういう意味では、加藤さんは大学でも教えられていますが、場にはある種の教育的側面もあるように思います。自分のスタジオをひらくことで、そうした教育的な面を機能させることはできそうですか?

加藤:もちろん、いわゆる教育としてこの場を使ってそういうこともできるとは思いますが、どうなんですかね。僕は東京ピストルという会社を始める前に、武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科で助手をやっていたんです。だから20代はずっと大学にいたんですよね。だから武蔵美との付き合いも長いのですが、僕が場を持ちたいというのは、そういうものの回復をここでしたいというところもあります(笑)。直接的な教育の話というよりは、少しメタレベルの話になってしまいますが。父がお店をやっていたことや、自分が昔いたような場所のようなものが、ここの場所に反映されている感じがします。
教育というと、それをサロンのようにするのかという話もありますが、そういう形ではあまり考えていません。そもそも教育とは何かですよね。若い人と年長者のやりとりだけなのかという話もありますが、結果的に面白いなと思って教育になっていくのがいいなと思っています。この場所に来て、最終的にある種の学びになっていくというのは、自分の若い頃の経験を考えてもやっぱり一番強いんです。「学びに行くぞ」というより、「とにかく面白い場所に行くんだ」という場所でありたいなとは思います。教育という意味では、もちろんベタな教育もプログラムとしてはあるかもしれませんが。

原田:どちらかというと広義の意味での教育的側面ということですよね。

加藤:そうですね。

原田:いろいろな人と会ってコミュニケーションすることも教育的側面になりうるし、イベントをすることについても、そこにどこまでスタッフが運営に関わるかという問題はありますが、実務的な課題に向き合わざるを得ないという意味での学びも、場を一度ひらくといろいろ出てくるわけですよね。そういう意味では、結果として教育的な側面も持ちうるんだろうなと思います。

加藤:何でも教育になるので、そういうレベルでの教育はありますが、スタッフや社員の教育というものを仕組みにしていくとなると、なかなか難しい問題も出てくるでしょうね。

原田:ここまで加藤さんが開かれたNEWSTUDIOについていろいろ伺ってきました。最後に、今後この場所で予定されていることやお知らせ、あるいは場としての展望について伺って終わりにできたらと思います。

加藤:まだ少し先なので具体的な告知はできないですが、12月と1月にも展示の予定があります。今回はオフィスをひらいて場所をつくったということでもありますが、場所というのは本当にいろいろありますよね。そういう意味では、皆さんがやっている「デザインの手前」というポッドキャストもある種の場所だと思います。そういうことを考えて、僕らも場所としてポッドキャストを始めたり、もう少し気軽にいろいろなことができるようにしたいですね。例えば、トークのフォーマットをポッドキャストの中につくるとか、今後1年かけてこの場所ならではのフォーマットをつくっていきたいと思っています。あと、配信もできたらいいなと思っています。小説家のイベントの時は配信もやっていたので、そういう人たちの力を借りつつ、機材も揃えているので、そういう仕組みもつくっていきたいと思っています。とはいえ、まだ本当に始めたばかりなので、何が起こるかわからない場所ということで、ぜひこれからよろしくお願いします。

原田:最新情報は、NEWSTUDIOのInstagramをご覧いただくのがよさそうですね。今日はLABORATORIES代表で、アートディレクター、グラフィックデザイナーの加藤賢策さんをゲストにお招きして、LABORATORIESが今年開設したNEWSTUDIOについてお話を伺ってきました。加藤さん、ここまでありがとうございました。

加藤:ありがとうございました。

NEWSTUDIO(2026) “Untitled (A Space in Tomigaya #7–241)”, 2026. ©︎ Gottingham. Image courtesy of Laboratories and Studio Xxingham

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