原田:設計事務所・DAIKEI MILLSの代表で、東京・亀有でSKACを運営している中村圭佑さんと、神戸を拠点に活動し、プロダクトや空間のデザインを中心に手がけている柳原照弘さん、おふたりをお迎えするシリーズの最終回となります。前回は、デザイナーが自分の場を持つことでどんな価値をつくるのか、そこに関わる人たちにどんな影響を与えるのか、どういうコミュニティがつくられているのかという話を伺ってきました。
今回はその延長線上にある話として、継続的に場を運営していくことでどんなことが起きてくるのかということを聞いてみたいと思っています。やはり場というのは当然固定費もかかるし、継続していくこと自体がなかなかハードルの高いことだと思います。その中で、VAGUEもSKAC もまだそこまで長い期間ではないにせよ、すでに多くの人が集まる場になっていて、その中で変化もしてきているのかなと思います。
おふたりとも変わっていくこと自体を受け入れるとか、そもそも最初から決めすぎないような場のつくり方をされている印象があるのですが、ご自身が運営する場が変わっていくこと、あるいは変化の余地をどのくらい残して場づくりをしているのかというところから伺ってもいいでしょうか。
中村:そこが一番重要なポイントかなと思っています。それはソフト面、ハード面の両方に言える話で、不完全な状態でどこまで継続できるか。僕たちはよく「非形式的」であり続けることを求めているという言い方をするのですが、すべてが予定通り、想定通りに進んでいく行為にはある意味で安心感があるし、最低限ここまでは行けるというラインも見えやすい。もちろん、そういう考え方もあるとは思います。
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中村:ただ僕たちとしては、世の中や社会に対するメッセージや、パンク精神のようなものも含めて考えていく中で、SKWATという言葉の語源でもあるスクワッティングの話や、生々しい場で何が起こるかわからないハプニング性のようなものを場に求めている。だから、変わって当たり前だし、変わるための受け皿としてどうデザインするかが重要なんです。変わっていくこと自体がインタラクションだし、みんなでつくり上げていくことでもある。どれだけ不完全でいられるか。それはハードもそうだし、ソフト、仲間集めの部分も同じです。
最初、twelvebooksとDAIKEI MILLSが入居することはある程度決まっていましたが、VDSとTAWKSというカフェの部分は全く決まっていないまま引っ越しをしました。本当に偶発的に出会いが起こって、たまたまそういう形になった。僕たちは、そういうオーガニックな道のりを信じているので、凄くリスクはあるけれど、自分たちが信じているものが強くあって、活動し続けていれば必ず実現するという感覚がある。
実際に凄くうまくいっているんですよね。オーガニックな関係性のつくり方が間違っていなかったと思っています。今後また拡張もしていきますが、そこでの出会いについても全く同じやり方をしようとしているので、とある人からすると、とてつもなく無謀で何の計画もしていないように見えるかもしれない。でも僕たちとしては、あえてリスクを取りながら、非形式的であり続けることを選んでいる。そうしないとトップダウンになってしまうし、ボトムアップの精神でものをつくっていくことにつながらないと思うので、そこを目指しています。
原田:なるほど。そういう意味ではデザインをしすぎないというところがあるのでしょうか。
中村:そこが難しいところで、凄くデザインしているんですよ。しているんだけど、していないとも言いたい(笑)。これは伝えるのが非常に難しいのですが、でも実は自分の中では明快な方程式があるんです。その通りにやっているので、凄く緻密な計算でできている。ただ、緻密でありつつも促すというか、受け流すというか、自分の手から離れるタイミングをどこでつくるかということは同時に吟味している感じですね。
原田:柳原さんはどうですか?
柳原:そもそも変化する余地を許容する空間としてつくっています。VAGUEはフランス語で「波」という意味なんですね。波というのは現象なので、コントロールできないじゃないですか。風があれば大きくなるし、障害物があれば崩れる。そういうコントロールできないものを許容する場所であり、かつ自然に波がつながっていって、自分たちのコントロール外のところでも人がつながっていく、そういう余地のある空間を目指して、VAGUE という名前にしたんです。
ただ、中村さんと一緒で、何も計画せずにやっているかというと、実は凄く緻密に計画しています。どちらかというと波というよりも、川に近いかもしれないですね。川は重力に従って上から下へ流れていきますが、人間がある程度地形に沿ってコントロールするという意識があれば、どうなるかはある程度想像できますよね。でも水自体は流動していて、完全にはコントロールできない。そういう中で、導いていく方向だけはちゃんと設計する。それに近い感覚だと思います。
原田:人がその場でどういう行動をするか、何を感じるかみたいなことに自然法則のようなものがあり、その法則を踏まえた上で設計しているという感じなんですかね。
柳原:そうですね。誰が来てどうなるかということを想像しながら空間を設計していると思います。VAGUEもSKWATと同じで、流動的でオーガニックなのですが、どういうことをやることでどういう人たちが来て、そこでどうつながっていくか、というのは凄く意識しながらやっています。
原田:余白や余地をつくるという話をすると、安直にファジーな空間にしておくということを考えてしまうかもしれませんが、もちろんそういうことではないんですよね。
中村:でもSKAC のほうが、ぱっと見た時の印象としてはファジーじゃないですかね。どちらかというと、最初からノイズをつくっておくことで、どんなノイズが来てもそのノイズが目立たないという方程式なんです。たぶん柳原さんは逆で、強度のある空間をつくっておいて、そこに入ってくるものともともと用意されているものが借景として美しく見えるようにつくっている。そこは逆かもしれないですね。うちは借景という感覚ではなくて、紛れ込んでいくという感覚に近いです。
原田:変化を受け入れるデザインにもいろんなアプローチがあるということですね。
中村:あると思います。
原田:変化というのは、人と空間のインタラクションの中で起こっていくものだと思います。実際に、どういう形のインタラクションがそこで生まれていて、どういうふうにこれまで変わってきているのか、具体的な話も含めて伺ってみたいです。
中村:それはたぶん2つあって、ひとつはコラボレーションできるであろうクライアントや同業者、アーティストとのインタラクション。もうひとつは、お客さんとのインタラクションで、両方とも重要です。前回も話しましたが、「こんな人がここに来てくれるんだ」という偶発的な出会いから、フラットに仕事につながっていくこともある。そこではやっぱり余白が必要だと思うんです。
たとえば、コラボレーション相手と「空いている場所で何かやろう」という話になった時に、その場所が最初から計画されていてすでに埋まっていて、しかもそれがパーマネントなものだったら、もう変えられないから「ごめんなさい」と言うしかない。そのために空けておく勇気を持てるかどうかがすべてだと思っています。場も自分たちも成長するし、状況も変わる。だから、その変化のために取っておけるかどうかが重要なんです。
自分たちで使ってみて、「ここは自分たちで使っていいな」と判断することももちろんある。良いタイミングを待っている間は自分たちで使えばいいという感覚かもしれない。自分たちも表現者としてやってみるという感覚です。見方によっては、ただ垂れ流していて、空家賃を払っているだけだと言われるかもしれないですけど(笑)。
原田:VAGUEについてはいかがですか?
中村:一緒じゃないですか?
柳原:空家賃でいうとめちゃくちゃ払ってますよ(笑)。
原田:VAGUEは色々な機能が拡張されていると思いますが、その中にはどういう空間と人の関係があり、新しいものが生まれているのですか?
柳原:日々僕がその空間にいて、ずっと考えているからなんですよね。「こうなったらいいな」ということをずっと考えている。それを頭の中だけで繰り返す時もあるし、タイミングによっては現実的に空間にしていく場合もある。考え続けている中での実験なんです。いまでこそ、下がスタジオ、その隣にアーカイブルームというホワイトキューブ的な展示スペースがあって、4階はギャラリー、ショップ、カフェ、屋上はレストラン、さらにグロッサリーもできていますが、最初から計画してゾーニングしていたわけではないんです。考えながら、「ここにはこういう人が来て、ここはグロッサリーになって、こういう人が接客してくれたらいいな」と想像して、「じゃあやってみよう」と。だから、進んでいる空間もあれば戻っている空間もあって、本当に凄く流動的です。いまも使っていない空間が結構あるんですよ。それをどういうものにしたらいいかなということを頭の中で考えていて、どこかのタイミングでそこを改装して、人も含めて何かやろうとは思っているのですが、いまはその余地が凄く残っています。
中村:感覚的には、空家賃じゃないですよね。シミュレーションを凄くしているし、自分の頭の中ではつくり上げているわけですから。
柳原:凄くつくっていますね。
中村:空だからこそ考えられることは山ほどある。空じゃないとだめなんですよね。
柳原:自分の中では、ここはお金を払ってでも得たいクリエーションの場所なんです。ないと多分考えないので。いまのレイアウトになるまで、スタッフと図面を共有しながら進めてきたのですが、途中でスタッフが「いま120何個目です」と(笑)。120回くらい図面を描くことなんて、普通のクライアントワークではないじゃないですか。優柔不断にもほどがあるという話になりますが、やっぱりあの空間はずっと考えられるんですよ。
原田:それはやはり自分たちの場だからできることですね。
柳原:そうですね。スタッフも、仕事として付き合いながらやってくれているのですが、僕はそれをクリエーションだと思っているし、無駄ではないと思ってやっています。
山田:そう考えると、おふたりがものを考えていく上でも、場所というのは欠かせない存在ということになりますね。
山田:先ほど中村さんが少し触れていましたが、これから拡張するというSKACには何ができるのですか?
中村:現状のSKWAT KAMEARI ART CENTERでは、場の目的として、あえて「アートセンター」と名付けているんですね。現状だとアートブックやレコードが買えたり、コーヒーを飲めたり、どちらかというと「買う」という体験を主にしています。日本でアートセンターと言うと、美術に興味がない人やデザインに興味がない人にとっては、ちょっと敬遠しがちな場所になりやすいですが、先ほども言ったように、僕はそこが教育的コンテンツとして成り立っていてほしいし、多くの人に開かれた場である必要があると思っています。ローカルからグローバルまでという謳い方もしているので、そういう意味では、美術的なコンテンツを扱っているけれど、入りやすい場にしたかった。日本人にとっては、まず「買う」という体験が、目的として安心材料になるので、最初のコンテンツはそう決めていきました。
ただ、アートセンターとしての強度を上げていくためには、それはあくまでファーストステップであって、そこから次のレイヤーをつくる必要性がある。そこは当初から計画していて、自分たちが構想していた美術のファーストステップとしては多くの人が来てくれて、何かを感じてくれて、良いリアクションももらうことができました。
1年半後、2年後の段階で、今度は現代美術というコンテンツをふんだんに入れていくフェーズに入るということも当初から考えていて、今回拡張するスペースはすべて、僕たちと現代美術家たちとのコラボレーションで成り立つ空間になります。現代美術家といっても、美術中心の人もいれば、建築寄りの人もいるし、彫刻寄りの人もいる。そういう色々なジャンルの人たちと協業して、空間から一緒につくっていくことを準備しています。だから余計大変なんですけど(笑)。
原田:単純にアーティストとアートピースをつくるというより、もう少し空間も含めて一緒につくるということなんですね。
中村:そうです。アーティストのパーマネントコレクションでもありながら、いろんな用途にも使える多目的な空間をいろんな場所につくっていく感じですね。
原田:それを複数のアーティストといま進めている感じですね。
中村:まさに。8アーティストくらい。
原田:凄いですね。そもそもそんなにまだスペースがあるんですね。
中村:凄く小さいところをつくっている人もいれば、めちゃくちゃ広いところの人もいて、建築をひとつ一緒につくっているようなものもあります。
原田:なるほど。もともと変化を前提でつくってはいるけれど、ある程度のフェーズ分けというか、長いスパンのタイムラインでのグランドデザインは当初からある程度あったということですね。
中村:そうですね。ステップは考えていましたね。場が機能するためにはある程度の計算が必要なので、そういう意味で1段階目と2段階目を分けていたということですね。
原田:その段階の中では、いろんな予想外の変化もありつつ、大きな方向性はイメージしていたということなんですね。
山田:外部のプロジェクトですが、配信が流れている頃にもまだGINZA SIX で見られるのでぜひ皆さんにも見ていただきたい「A Tree」 という、中村さんがオーガナイズしている吉野杉を使ったプロジェクトがありますよね。これも凄く緻密な計算というか、1本の木のこのくらいの長さを使ってスツールをつくってくださいというものですよね。全然その通りにいかないことも起きて、だいぶ木を使い切ってしまったデザイナーが1人いたりもしますが(笑)、そういう面白さも含めて、本当に良いプロジェクトなのでぜひ見ていただきたいですね。
目的を持って計画を立てていくというのはデザインの大きな要素で、アートとの違いでもあると思います。でも、やっぱりその通りには全くいかないこともあるし、考えている部分や計算している部分、ビジョンがあった上で、ハプニングも起こって、その中でどうつくっていくのか。その不確定要素の部分が、まさに SKACの魅力でもあるなと。
原田:このA Tree のプロジェクトも変化していくプロセスを見せるということ自体が、凄く緻密にデザインされていますよね。
中村:まさにそうですね。
原田:フェーズが3つあって、木自体を見せるということと、木の一部を使ってインテリアをつくる、空間をつくるというフェーズに分けられていて、変化を見せることで来る側にとっても継続的にその場に足を運ぶモチベーションになるし、プロセスを見せることによって、人が場に継続的に接触できる。そういう意味では凄く緻密にデザインされていますよね。
中村:そこの設計はすごく緻密にしてますね。
山田:一方で、ゴールが定かではないものに向かっていくにはやっぱりタフな心がないと難しいですよね。
中村:それはそうかもしれないですね(笑)。
山田:そこを楽しめるかどうか。
中村:自分が一番楽しいですからね。柳原さんも一緒だと思いますが、当事者が一番楽しんでいるからこそできることだと思います。
原田:VAGUEにしてもSKAC にしても、すでに広大なスペースがあって、さらに中村さんは拡張しようとしているわけですが、柳原さんはどうですか。今後さらにこういうことをやっていきたいということはありますか?
柳原:拡張したいと思っています。拡張にはふたつ意味があって、ひとつは VAGUEのビルの中での拡張です。VAGUEは海岸通りという神戸の居留地の中にあるビルなのですが、まだ使っていない場所が結構あるんです。そこをいま自分の中で想像しながら、あるタイミングでつくっていきたいなとは思っています。ただ、いまどんどんキッチンの移動になってしまっていて(笑)。最初は4階の部分にキッチンをつくって、そこでケーキのリサーチなどをしていたのですが、カフェとして運営するようになったので、カフェスタッフがそこを使うようになった。そうすると自分の居場所がなくなるので、今度は別にキッチンをつくって、自分で料理もしていたのですが、それがレストランになったので、今度はシェフを呼ぶことになって、そこはシェフの場所になった。つまり、また自分の居場所を失っているんですね。
次の構想としては、自分が誰にも邪魔されないような場所で料理をつくったり、ものを考えたりできる場所があったらいいなと思って、その場所を考えているのですが、きっとそこもまた誰かに引き渡す時が来るので、そうしたらまた拡張していくという感じです。あと3つくらい部屋があるので。
中村:面白いですよね、その考え方。
柳原:ひとつのビルの中で3回くらい居場所をなくしていく窓際族みたいなことをずっとやっているんですけど(笑)、それがビルの中での拡張です。もうひとつは、神戸を選んだ一番の理由はもちろん建物なのですが、もうひとつは自分の地元が香川県だということです。香川は建築やアートのコンテンツが凄く豊かなのですが、そこに行く目的がそれしかないんです。滞在の魅力は本来、食と宿泊にあると思うのですが、そこが薄いんですよね。自分としては、香川につながる線としてつくっていきたいと思っているので、拡張先として四国を考えています。VAGUEという名前なのか、そこにつながる別の場なのかはまだわからないですけど、場として拡張していきたいという構想はあります。
原田:おふたりとも、まだまだ拡張していく意思が強いのだと思いますが、とはいえ拡張することにも限界があったり、リスクがあったりする気もします。その上でこの先に目指しているのは、どういうところなのでしょうか。拡張というのはどこかで終わるものなのかなという気もしますが、その先のイメージはそれぞれどのように考えていますか?
中村:SKACの拡張はいまの計画で一旦終わると思っています。一方で、SKWATというのは活動なんですよね。もともとスクワッティングから取っている言葉なので、場所の名前ではなくて思想の話であり、活動体や意思のようなものなんです。だから最終的には場がなくなっても、価値を転換するとか、角度を変えて見ると違う面が見えてくるとか、そういった僕たちが掲げている思想や哲学を、いろんな人が気づいて持ち帰ってもらって、広がっていくことが理想形なんです。場所はいつかなくなるものなので、むしろそれができるだけ早くなくなってくれたらいいなと思っているので、どう終わらせるかをずっと考えています。変な意味ではなくて、ポジティブな意味で、どう終わらせるかですね。
原田:柳原さんはどうですか?
柳原:場をつくるきっかけは自分なのですが、それを自分がずっと守っていく意識は全くないんです。どこかで、その空間が好きだという人が集まって、自分の代わりにその場所をつくっていってくれるのが理想ですね。実際にVAGUEの中でも、ギャラリーに自分がいる時間は減っていますし、上のレストランも自分の代わりに凄く楽しく仕事してくれる人が増えています。
そういう意味では、自分の手を離れた時に次のことを考えるという流れは変わらないかなと思います。その上で、波のように消えていくものがあっても、それは無理に守らずに、消えたらまた次の波が来るかなというくらいの気持ちです。あの場所がずっと残ればいいなとは思いますが、必要とする人がいなくなったり、守る人がいなくなったら、なくなってもしょうがないかなと思っています。そこに抗う感じはあまりないですね。
いまは凄く運が良いと思うんです。一緒に守っていきたいというスタッフがいて、それを楽しみたいというお客さんがいるから、あの空間は成り立っている。いまは、自分の中では凄く良い状態だと思っています。
原田:まだおふたりとも、やりたいこともやれることもいろいろあるから、現状ではまだ拡張の方向に向かっていると思いますが、その先にはいま柳原さんが言ったように、下の世代へ継承していくことや、循環を生み出していくことも含まれていくのかなと聞いていて思いました。
山田:いまの時代にいまのふたりが考えている価値の提示が凄く重要で、それがどういう形で次の世代に影響を与えるかまではまだわからないけれど、すでに何かしらの影響を大きく与え始めているのは感じます。
原田:それこそ、SKACやVAGUEのような場をつくりたいと思っているデザイナーやクリエイターもいると思うんです。都市の中ではいろんな場所が開発的に生まれていく状況もあると思いますが、そういったいわゆるデベロッパー的な人たちがつくる場とは違う、デザイナーやものをつくる人が運営する場のあり方をおふたりは体現されているのかなと。場をつくったり、場を運営していく時に、デザイナーだからこそ果たせる役割みたいなものについてはどのようにお考えですか?
中村:場を生きたまま継続できるということじゃないですか。自分たちで「明日こう変えたい」と思ったら、すぐ変えられる技量がある。スピーディーに場所を変容させたり、すぐ実行できるということは凄く重要だと思います。余分な人を入れなくても、自分たちだけで完結できてしまう。それは凄い特権だと思うし、やるべきだなとも思います。ただ、やっぱりリスクは伴うので、そこですよね。そこを覚悟を持ってやれるか。中途半端にやってしまうことが多いと思うんですよね。
原田:リスクをみんながみんな背負う必要もない気もしますが、そのリスクを乗り越えるためには何が必要なのでしょうか。シンプルに覚悟をするといったマインドセットの話なのでしょうか?
中村:なんでしょうね。それはわからないです(笑)。もう細胞レベルの話かもしれないし、フェティッシュなのかもしれないです。
山田:デザイナーが陥りがちなことのひとつに、やたらおしゃれなホームページをつくるというのがあります(笑)。おしゃれなホームページは公開された時が最後の更新で、次にがらっとリニューアルされるまで止まってしまいがちじゃないですか。本当は、物件や案件がどんどん載っていって初めてホームページになるはずなのに、できたところが完成になってしまって、往々にして更新されない。
スペースも一緒で、つくって満足したら話にならなくて、それはあくまでスタートにすぎない。そこからどう続けていくかというビジョンがないと何もできないし、おふたりの中にはやりたいことや表現したいことや、自分のためみたいなものも含めて、いろんなものが混ざり合っていて、それが原動力になって続いているんだと思います。そこは本当に稀有な才能でもあると思います。
原田:ここまでの話にも出てきましたが、継続的に運営する中でずっと考え続けて、それをアクションに移すことで空間が変わっていくということは、開発的につくられた場だと起こりにくいと思うんです。どうしても経済合理性で進められていくので、場のあり方自体が更新されにくい。でも、経済合理性だけではないところで場のあり方を考え続けて、手を動かして変えていった場合、そこから新しい場のあり方が見えてくることもあると思うんですよね。そういう新しい場のあり方が生まれやすいのが、ものをつくる人たちが運営している場の面白さなのかなということも聞いていて思いました。
中村:でも、非形式的な方が経済合理性があるという節もあるんですよね。だから、「経済合理性があるのはこのやり方だ」という固定観念が本当にそうなのかは、やっぱりクエスチョンな気がしています。
原田:そういう問題提起ができるのも、中村さんのような存在だからこそというところがあるのかなという気はしますね。
柳原:一方で矛盾するのですが、デザイナーの仕事は相手がいて、その相手は形式的というか、ちゃんと仕事として成立するものを求めるじゃないですか。普遍的なものを求めるんですよね。そう考えると、自分たちがVAGUE をやっていることは、その逆なんです。極論、次の日にレストランをやめて物販に変えることもできる。でも、多くのクライアントはそれができない。ということは、僕らは相手に対して普遍的な場を提供しないといけないわけです。
そういう意味で、自分たちは自由な場所をつくってはいるけれど、一方でクライアントにとっては、人生で1回かもしれない空間をつくっているので、そこでは失敗できない。だから、自分たちにとっての場は、もっといろんな発想をしていくための実験の場でもあるんです。クライアントがやっていることが羨ましいからカフェをやるとか、自分の居心地の良い場所をつくりたいからバーをやるという意識ではやっていない。あくまでデザインをするための場として、結構戦っている意識はあります。
原田:ここまで全4回にわたって、設計事務所・DAIKEI MILLSの代表である中村圭佑さんと、プロダクトや空間のデザインを手がける柳原照弘さんに、それぞれの活動と運営している場との関係、「デザイナーと場」というテーマでお話を伺ってきました。おふたりともどうもありがとうございました。何か話し残したことはないですか?
柳原:結構リアルに「どうやって運営してるんですか」とかね(笑)。
中村:その辺をもっと話してもよかったですかね。家賃どのくらいですか、とか(笑)。
柳原:家賃払ってないんじゃないかとか、余裕があるんじゃないかとか、多分みんな思っているんじゃないかなとは思いますけどね。
原田:そんなことはないと。
柳原:凄い払ってます。
山田:でしょうね(笑)。それはじゃあ、第2回をやるとかですかね。
原田:そうですね(笑)。ではここまで中村さん、柳原さん、どうもありがとうございました。
中村:ありがとうございました。
柳原:ありがとうございました。

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