原田:今日は、いま注目のグラフィックデザイナーの方をゲストにお招きしています。まだ20代の方ですが、グラフィックはもちろん、映像や写真、音楽制作など、いろいろなフィールドでこれから活躍されるであろう方に出ていただくことになりました。岡本太玖斗さんです。岡本さん、よろしくお願いします。
岡本:よろしくお願いします。
原田:「デザインの手前」は、3年目に入って5ヶ月ぐらい経ちますが、2周年記念の企画では1990年代生まれのいろいろな領域のデザイナー4組に出ていただきました。番組としても今後、若い世代の方たちにもっと出ていただきたいと思っています。これまで番組では、1組のデザイナーの方にさまざまな角度から4回くらいに分けてお話を聞くのを基本にしていましたが、今後はそういったスタイルにとらわれず、若い世代の方々に1回完結や前後編でお話を聞いていくことも積極的にやっていきたいと思っていて、今日は岡本さんをお呼びしました。
岡本:ありがとうございます。
原田:今日、岡本さんにお聞きしたいテーマは、グラフィックデザインの考え方や作法でつくる映像、あるいは静止画と動画を行き来するグラフィックデザインのあり方について、お話を聞きたいと思っています。岡本さんは最近、ミュージックビデオの監督をされることも多いと思いますが、このテーマでお話を聞きたいと思った理由がひとつあります。
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原田:5月末から6月にかけて東京のギンザ・グラフィック・ギャラリーで、映像デザイナーの井口皓太さんが展示をされていました。井口さんには「デザインの手前」でも、クリエイティブアソシエーションCEKAIのシリーズでお話を伺っていますが、僕も個人的にお付き合いが長いんです。その井口さんの展覧会の最終日に、クロージングトークという形で、モデレーターとしてお話を伺いました。展示自体は「モーショングラフィックス」というタイトルを冠したもので、井口さんがグラフィックデザイナーの方とコラボレーションしてつくった作品をモーショングラフィックスに変え、それをさらにキネティックスカルプチャー、動く彫刻のような作品にするというユニークな展示でした。
最終日のトークでは、作品をつくられたグラフィックデザイナーの方、エンジニアの方、作品には関わっていないけれどモーショングラフィックスという領域でものをつくられている方々と3つのトークを行い、モーショングラフィックスとエンジニアリングやグラフィックデザインとの関係について、いろいろお伺いしました。井口さんはもともと原研哉さんのもとで学ばれているので、正統的なグラフィックデザインのバックボーンがある方ですが、グラフィックをつくるというよりは、つくられたグラフィックを動かすことが自分に合っているということで、それを追求していった結果、東京五輪の動くピクトグラムなど歴史に残るようなお仕事をされるようになりました。グラフィックデザインの聖地とも言われるギンザ・グラフィック・ギャラリーで、「モーショングラフィックス」というテーマで展示をしたことは、かなり象徴的な出来事だったと思っています。僕自身もモーショングラフィックスとグラフィックデザインの関係の面白さを感じ、それをテーマにまた別の角度からお話を聞いてみたいと思い、今回岡本さんをお呼びしました。
これからお話にも出ると思いますが、星野源さんの「STAR」のミュージックビデオなども象徴的だと思いますが、岡本さんの映像は、いわゆるモーショングラフィックス的な気持ち良さとは少し違う論理でつくっているように感じます。それはグラフィックデザイン的なのではないかという仮説もあり、そのあたりを掘り下げて聞いていきたいと思っています。
山田:今日の話は避けたいけれど避けられない世代の話にもなりそうな気がしています。
原田:そう思っています。
山田:先ほどの原さんの話も、ご本人たちは別にバトンをリレーしているわけではないけれど、世代はリレーされていくものだし、グラデーションもあって、影響されている部分もあれば、そこを乗り越えたいという思いもある。また、音楽メディアの違い、レコード、CD、データなどがありますし、グラフィックが置かれている状況、出力するものがいろいろあって、そこが多分今日のグラフィック的、あるいは動画的、モーション的という話につながってくる。僕たちは結構それを分離して考えるけれど、若い世代の皆さんは、この表現が本当に嫌なのですが(笑)、それらがくっついた状態で育ってきていますよね。
原田:そんな感じがしますよね。
山田:そこをなぜ分離して考えるんだろうと思いつつ、僕たちは中学生の頃に信藤三雄さんなどを見て育っている世代なので、やっぱりアナログなものや、落とし込まれるものを分離して考えてしまう。今日はその辺りを紐解いていく回なのかなと。
原田:井口さんのトークでも出た話ですが、井口さんは原さんから、「グラフィックデザインというのは、そもそも空間も時間も内包しているものだから、動かすな」というようなことを言われたらしいんです。それも一理ありますし、本質的な言葉だと思いつつ、メディア環境がどんどん変わり、マルチスクリーンの時代になってくる中で、その感覚もどんどん変わっているんだろうなと。止まっていることと動いていることが、そんなに明確に分かれるものではないという話もありますし、むしろ止めることが難しい時代になっているような気もします。その辺りが変わってきていると思っているので、いろいろお伺いできればと思っています。だいぶ前置きが長くなりましたが(笑)。
原田:まずは、岡本さんがグラフィックデザイナーになるまでの歩みや、最近どんなお仕事が多いのか、そのあたりからお伺いしてもよろしいでしょうか。
岡本:自分は筑波大学の出身なのですが、芸術専門学群という美大っぽい学部があって、卒業したのはビジュアルデザイン専攻です。先輩方でいうと、かなり上の世代ですが、北川一成さんや装丁家の鈴木成一さんがいらっしゃいます。あと明和電機やクワクボリョウタさんなど、現代美術の方も多かったりします。自分は最初、キュレーションや芸術教育をやる芸術学という専攻に入って、3年生からビジュアルデザインに移って卒業しました。卒業してからは就活もやったのですが、僕は試験が結構苦手なのであまりうまくいかなくて。そもそもそんなに受けてもいなかったのですが、なし崩し的にフリーになりました。業務委託で自分に仕事を振ってくれるクリエイティブカンパニー的なところにお世話になり、卒業後は半分ぐらいそこの仕事をしつつ、自分の仕事も半分ぐらいやるという感じで、フリーランスへなだらかに移行していまに至る感じです。
原田:特に憧れていたデザイナーの方などはいらっしゃいましたか?
岡本:たくさんいらっしゃいますが、一番最初の影響というか、「グラフィックデザイン」という概念に触れた最初の影響は佐藤可士和さんです。多分かなり早い方だと思いますが、小学生の頃に…。
原田:早いですね(笑)。
岡本:小4か小5の時に、当時佐藤可士和ブームというか、雑誌『Pen』で特集されていた号を父親が図書館で借りてきたか何かで家に置いてあったんです。それを見た時に、SMAPやユニクロなど子供心にめちゃくちゃかっこいいと思い、結構衝撃というか、電撃が走るような感じがあって、グラフィックデザイン面白そうだと感じました。一番の原点はそれで、そこから広告的なインパクトのあるものに惹かれていきました。あとは、亀倉雄策さんや服部一成さん、groovisions、それこそコンテムポラリー・プロダクションなど、渋谷系周りのグラフィックデザインにも影響を受けました。そこから派生して北山雅和さんなど個人で活動されている方々の影響もかなりあります。
原田:現在のお仕事としてはどんなものが多いのでしょうか。
岡本:去年、一昨年あたりは、本当に映像をたくさんつくった年でしたが、映像ディレクターになるなんてまったく思っていませんでした。2年くらい前に、グラフィック的な面で映像、リリックビデオのようなものをつくらないかと声をかけてくれたミュージシャンの人がいて、そこからいろいろつながって映像をやるようになりました。去年は凄く映像をやりましたね。
原田:それまでは基本的にはグラフィックの仕事をされていたんですよね。
岡本:まったく映像はやっていませんでした。そういう意味でいうと、小さい頃に家にあったハンディカムで遊んだりはしていて、それでちょっと映画を撮ったりは遊びでしていました。正直そこから地続きといえば地続きで、やっていることは何も変わっていないような感覚ではあります。最初におっしゃっていた、映像とグラフィックの境界をあまり考えずにやるということについては、自分の場合はiPod touchを中学生の時に買ったことが大きかったです。あれで写真も映像も全部できるじゃないですか。グラフィックは少しきついかもしれないですが。本当に僕はAppleのおかげでこの仕事ができているとずっと思っています。AppleシリコンとAppleのハードウェアの素晴らしい統合関係によって(笑)、いろいろなことをシームレスに同時にできる環境が小さい頃から手に入ったことがすごく大きかった。そういう意味では、いまも映像とグラフィックをあまり分けて考えていない感じがあります。でも、本当に映像の仕事は機会がなかったこともあって、まったくしていませんでした。2、3年前ぐらいからいろいろつながって、去年はめちゃくちゃやったのですが、映像はちょっと疲れてしまって。映像の依頼は引き続き来ていますが、いまはほとんど断っています。
原田:そうなんですね。
岡本:今年は、グラフィックデザインの仕事に絞ろうかなと。いまもミュージックビデオの仕事はいくつかやっていますが、分量としては、映画のポスターやパンフレット、アーティストのアートワークやグッズ、美術館の展示の宣伝美術など、グラフィックデザイナー然とした仕事というか、意図的にそういう仕事を選び取っている感じですね。
原田:先ほどのiPod touchの話もありましたが、岡本さんは映像や写真も撮られていますよね。音楽もつくられたりしていて、領域を越えてものをつくるということがもともとベースとしてあるということなんですよね。
岡本:そうですね。幼少期からの遊びとまったく地続きというか。本当に「写ルンです」でパシャパシャ撮って遊んでいたものが、家にデジカメが来て、それで撮りまくって遊んで、だんだんそれが一眼レフになったぐらいの感じです。
山田:きっかけが結構みんなツールなんですよね。おもちゃのようにいろいろ遊んでいたら、それが表現者としての原点にあるというところが面白いなと。昔は、子どもが写植の練習なんてできないじゃないですか(笑)。亀倉さんたちの時代は、子供心にいろいろやっていたことが後の表現につながるのは、なかなか難しかったですよね。でもいまは、いろいろなものが子供の頃から使えてしまうという面白さがありますよね。
原田:グラフィックデザイナーが映像をやるという時に、冒頭に話したモーショングラフィックスが日本に来たぐらいの時期は、いまでいうモーションロゴ、つまり企業ロゴを動かしてみるようなことが中心だったと思います。一方で、先ほど少しおっしゃったリリックビデオのようなものが出てきたことも、グラフィックデザイナーが映像に関わりやすくなったきっかけのひとつなのかなという気がしています。
リリックビデオは、そもそもYouTubeのようなものが出てくる前にはそんなになかったものじゃないですか。ミュージックビデオの監督をいきなり実写でやるとなるとグラフィックからは入りづらいですが、グラフィックデザインの延長で入りやすいものとして、リリックビデオの存在があったのかなと。
岡本:そうですね。ニコニコ動画とか、僕はそこまで通っていないのですが、ボカロなど誰でもDTMで音楽をつくれるようになりましたよね。そこにYouTubeやニコニコ動画というメディアが出てきた時、そこに載せるために映像をつける作業が発生したと思うんです。実写で撮るよりは全然インスタントにできるという意味で、2000年代初頭のボカロやDTM文化とかなりつながっている感じがしますね。
原田:そうですよね。具体的に初めてお仕事になった映像の仕事は、どういうものだったのでしょうか?
岡本:学生の時に、ミュージックビデオではないですが、映像の編集や撮影をちまちまやっていたことはありました。ただ、それは正式な仕事になった感じではまったくなくて。ミュージックビデオでいうと、最初にリリックビデオの依頼をくれたのが、浦上想起さんという音楽家の方でした。浦上さんが自分のグラフィックを見てくれていて、リリックビデオ的なグラフィカルなビデオを依頼してもらったんです。でも、自分もミュージックビデオや映画は凄く好きで見ていたので、そういう依頼が来たなら実写で撮りたいという気持ちもありました。グラフィックという依頼だったのですが、実写も織り交ぜてつくったのが最初で、それを見てくれた知り合いづてのバンドの人がMVの依頼をしてくれたりして、最初の方は数珠つなぎでした。それをTwitterにアップしたら、映像プロダクションのプロデューサーの人が見ていて、メジャーレーベル系のMVに誘ってくれたりとか、本当に運良くたまたま続いていったという感じでしたね。
原田:冒頭で少しお話しした、いわゆるモーショングラフィックス的なアプローチよりも、グラフィックデザイン的なアプローチで映像をつくっているのではないかという話については、ご自身としてはその意識はありますか?
岡本:どうなんですかね。でもたしかに、自分は映像ディレクター出身ではないので、そうじゃないものにしようという気持ちは結構あります。そうなると必然的に、グラフィックデザインの文法になってくる感じはあります。でも、グラフィックデザインが何かというのは、結構難しい話な気がしています。キャプチャーで切り出した時に綺麗とか、そういうことは割と考えています。1枚絵として見ている感じが結構あるので、構図のつくり方やグラフィックの乗せ方などは、時間軸で見る映像的な観点とは少し違うのかなと思ったりします。
あと、グラフィックデザインに絡めると、佐藤可士和さんから興味を持ったというように、自分は広告に興味を持ったところから始まっていたりします。CMやコマーシャルの映像もすごく好きで、ああいうキャッチーなキレの良さのようなものは、それがグラフィックデザイン的なものかというと少し違うと思いますが、自分の影響源としては、そういうCMのリズム感が結構あります。画面上に文字を乗せたりするのは、CMのテロップのような感じでつくっているところも少しあります。
原田:文字の扱い方ひとつを取っても、テロップ的という話がありましたが、文字自体が動いているものももちろんありますが、動かすことが大事というより、あくまでもレイアウトする要素のひとつとして文字を映像の中で扱っている感覚が、グラフィック的な感じがすると思ったりします。
岡本:そこを特段考えてつくっているというよりは、自分ができることがそれしかないんです。グラフィックデザインだけの仕事だったら、いまは割と肩の力を抜いてできるようになってきていますが、映像はまだ圧倒的に歴が浅くて経験が少ないので、いつもかなり苦し紛れになってしまっています。いわゆる映画的な撮影技法や物語を語る文法が自分にはまだそこまで理解できていないし、自分の中に入っていない。だから自分がやるとしたら編集でめちゃくちゃ頑張るとか、グラフィックの手遊びのようなことで何とかするしかないというところがあるんですよね。その結果、少し変わったものになっていればいいなという感じなんですよね。
原田:ずっと同じ場所で文字が止まっているようなものが多いですよね。あまり見たことがないなと(笑)。
岡本:なるほど(笑)。たしかにラベル的に文字をずっと出したりは結構していて、動くポスターのような考え方かもしれないです。
原田:たしかに。
岡本:ただそれも苦し紛れではあります。映像が持たないときに文字を出しておくと持つんですよね。そういうずるいやり方として使っている部分は多少あって、そうしないようにしないとといつも思いながらやっています。そこに頼らないでつくりたいとも思っているので、苦し紛れの結果ですね。
原田:止まっている文字もそうですが、もちろん星野源さんのMVなどでは文字がすごく自由に遊んで動いている感じがあります。こういう文字の扱い方はグラフィックデザインの楽しさのひとつというか、文字の形の面白さと、そこに意味が伴う場合もあれば、シンプルに記号として扱う場合もある。その文字との距離感のつけ方がグラフィックデザインっぽいと思っています。映像に限らずかもしれませんが、岡本さんの中でタイポグラフィや文字との距離感、扱い方にはどんな意識があるのですか?
岡本:ミュージックビデオの話で言うと、ただ歌詞を出していくことはそういう企画の映像だったら全然やりますが、あまり意味もなくそういうことはしたくなくて。自分は結構キャッチコピー的な使い方をすることがあると思うのですが、歌詞から引用した単語を途中でパッと出したりすると、映像の内容と言葉の意味の間に少し行間が生まれるじゃないですか。そこが面白いと思っています。映像だけでは語れない部分が、言葉によって少し拡張される感じがあって、歌詞とかでもなく、映像のコンセプトのキーワード的な言葉を英文で勝手につくって乗せてみたりもしています。それはかなりキャッチコピー的だと思いますが、そういう感じで映像と文字が絡むのがすごく好きなんです。
原田:なるほど。
岡本:行間ができるような使い方は、映像に関しては結構しているかもしれないです。
原田:星野源さんの「STAR」のミュージックビデオを見ている方も多いと思いますが、割とカチッとしたフォントから手書き風の文字まで、いろいろな文字がどんどん現れては消えていきますよね。また、Teleの「硝子の線」というミュージックビデオも文字の扱い方がかなり独特で、紙に印刷された文字、破れているような質感のもの、水に滲ませた文字、しまいには木の枝でつくった文字など、文字をいろいろな方法でつくっていますよね。映像ならではというか、ひたすら手を動かして物量をつくるようなことを文字でされていて、それはもちろん大変だとは思いますが、グラフィックにはない面白さだという気がしました。いろいろな世界観のものを時間軸で並べていける面白さというか。1枚の絵でそれをやると、あまり良くない形になることが多いと思います。
岡本:なるほど。「いっぱいつくっている」といま言われて思ったのですが、自分としてはいっぱいポスターをつくっているような感じなので、あまり感覚はズレていないんですよね。
原田:分かる気がします。
岡本:でも本当に苦し紛れではあって。
原田:ひたすら苦し紛れですね(笑)。
岡本:時間を埋めなきゃいけないというか、大量のアイデアを出していかないと映像が完成しないから、木の枝でつくったりするのも本当に素材が足りない部分を補うためなんです。ハンディカムを持ってこの辺を散歩して、公園に行って、本当に1人で枝を並べて撮るという感じで、本当にその場の思いつきでしかないんです。こうしようと思ってつくっているというよりは、思いつきを継ぎ足していったらそうなったという感じなんですよね。
原田:なるほど。
山田:やっぱりデジタル化が進むことによって、結局アナログな作業がめちゃくちゃ出てくるというか。
岡本:たしかに。
山田:やっぱりそこを入れないと面白くならないのかなと。そもそも、そうしないとつくっていて面白くないということが大きいですよね。
岡本:それはそうなんですよね。振り返ると毎回凄く楽しかったなと思いますし、やっている最中はかなりつらいのですが、結果としては凄く充実感はありますね。

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