原田:アートディレクター、グラフィックデザイナーの田部井美奈さんを迎える全4回のシリーズ、今回が最終回となります。前回は、2025年にギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催された田部井さんの個展『光と図形と、その周辺』の空間デザインを担当され、田部井さんの旦那さんでもある中原崇志さんにお越しいただき、対談形式でお届けしました。
今回4回目も、引き続き対談形式でお届けしていきます。これまでもお伝えしてきているように、JAGDAが毎年選ぶ最も魅力的な作品に贈られる亀倉雄策賞というものがありまして、今回田部井さんの個展『光と図形と、その周辺』が受賞されました。この配信が6月30日からスタートするのですが、ちょうど今日から亀倉雄策賞の記念展示が始まっています。そして、その展示のすぐ後に同じ会場で、JAGDA新人賞の受賞記念展が開催されるんですよね。JAGDA新人賞は、JAGDAが毎年3人の新人デザイナーを選出するもので、日本のグラフィックデザイナーの登竜門的な存在になっているかなと思っています。いまはそんなこともないかもしれないですけど、この受賞で人生が変わるという話も聞いたりします(笑)。これは対象年齢がたしか39歳まででしたよね。
田部井:そうですね。
原田:ラスト数年は受賞するためにかなり頑張るというデザイナーさんの話も聞いたりします。そもそも39歳で新人賞と言っていいのかというのは昔から気にはなっていますが(笑)、そういう決まりになっています。今年はそのJAGDA新人賞に、浅野隆昌さん、石田和幸さん、大坪メイさんの3人が選ばれまして、今日はその中から浅野隆昌さんにお越しいただいております。浅野さん、よろしくお願いします。
浅野:よろしくお願いします。
田部井:よろしくお願いします。
原田:新人賞受賞おめでとうございます。
浅野:ありがとうございます。
田部井:おめでとうございます。
原田:ちなみに、田部井さんと浅野さんは面識はありますか?
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浅野:はい。今回の展示の打ち合わせで。
原田:今日はその展覧会の話も含めて、おふたりに色々伺っていきたいと思っています。ここまでも少し出てきたグラフィックデザイナーが展覧会をすることや、クライアントワークとは異なるところで実験的なプロジェクトに取り組まれたり、異分野のクリエイターと一緒にものづくりされたりすること、少し課外活動的なものにもなるのかなと思いますが、その辺のお話を中心にお聞きしていければと思っています。では、改めてよろしくお願いします。
田部井+浅野:よろしくお願いします。
山田:よろしくお願いします。
原田:まずは、浅野さんの自己紹介的に、これまでのキャリアや現在の主なお仕事、どんな活動をされているのかを簡単にお話しいただいてもよろしいでしょうか。
浅野:大阪の大学に行っていて、その後1年ちょっとふらふらしていました。東京に行きたいと思って求人を調べて、知っている名前の人がいて、そこに応募したという感じです。入って2年半ぐらいでそこを辞めて独立しました。独立と言っても本当に辞めただけで(笑)、別に仕事もなかったんですけど。
原田:2年というのは早いですよね。いまはどんな感じのお仕事が多いのでしょうか。
浅野:ウェブサイトやロゴをつくったり、そういう一般的なデザインの仕事ですね。特にウェブが多いですかね。
原田:ウェブサイトのアートディレクションやデザインということですか?
浅野:そうです、実装はやっていないです。
原田:浅野さんはお生まれは何年になりますか?
浅野:1989年の愛知県生まれで、いまは37歳です。
原田:JAGDA新人賞は前から取りたいという意識はあったのですか?
浅野:そうですね。取りたいというか、仕事が欲しくて。明快です(笑)。
山田:やっぱり仕事が来るんですね(笑)。
浅野:いや、どうなんでしょうね。来ないと困るんですけどね(笑)。
原田:おそらく最初は来るんでしょうけど、継続していけるかはそれこそその人次第かもしれません(笑)。
浅野:がんばります(笑)。
原田:デザインアワードというのは、グラフィックに限らないかもしれませんが、積極的に出される方と、それほど興味を持たない方がそれぞれいらっしゃる気がします。田部井さんはアワードに対してどんな意識がありましたか?
田部井:亀倉雄策賞に関しては狙っていたわけでは決してなかったのですが、JAGDA、TDC、ADCという、皆さんがよく知っている日本のグラフィックデザインの3大コンペだと思いますが、私がもともといた事務所の服部一成さんが当たり前のように出品をしていて、審査員もされていて、もちろん賞も取っていました。だから、自分も出すことが当たり前のようなところがありましたし、いま自分がつくっているものが、狭いかもしれないですが、日本のグラフィックデザインの座標の中でどこに位置しているのかを知るためにも、やってみようということが自然に身についていたと思います。本当に全然ダメな年もあるし、良いなと思って出したものが少し反応が良かったりすると自信にもなります。あと、賞を取りたい気持ちももちろんありますが、自分が尊敬している方々が審査されていて、その人たちに多少なりとも認めてもらったということの実感が自分としては凄く強いんです。そういう意味で出し続けている感じではありますね。
原田:そのあたりも今回のテーマに重なると思いますが、田部井さんが『光と図形と、その周辺』で展覧会として亀倉雄策賞を受賞され、JAGDA新人賞は特定の作品が対象というわけではないですが、浅野さんには『テーブルの上のスィンスィン』という、これからお話しいただこうと思っている展覧会をされた作品があります。これもクライアントワークというよりは、写真家の方と一緒に取り組まれた自主的なプロジェクトだと思います。そういうものが、アワードの評価の対象として結構比重が大きくなってきているのかなという気もしています。かつ、この作品には写真とグラフィック、紙という素材とカメラ、空間や光など、田部井さんの「光と図形」と要素的には割と近いところがあるのかなという気もしていて、それも興味深いなと思っていました。まずはこの「テーブルの上のスィンスィン」がどういった作品で、どういう流れでつくられたのかを、改めて聞かせていただけますか。
浅野:写真家の三田周という人と一緒にやっているのですが、三田さんとはいままでも平面作品を色々つくっていて、仕事でも協働していました。ただそれらは、僕が「こういうものを撮ってほしい」とお願いして撮っていただいたものを構成したり、三田さんが撮りためていたものを僕が好き勝手に使うような関係性が多かったのですが、1枚で完成するようなものを2人でつくりたいねと前から話していました。
最初は絵画のようなものをやりたくて、色々下描きをしていたんです。どんな絵にしようかなと思って描いて、その要素を紙や何かモノでつくって写真を撮る。立体なんだけど、印象としては絵画というか、平面でしか見えてこないようなものをつくっていました。最初は、これをどうやって平面に組み立てるかわからないけど、とにかく絵を描こうと思って、たくさん絵を描いていきました。それを写真でつくるにはどうするんだろうということを話して、必要な道具を買ったり、工作をしたりしてみたのですが、それが全然面白くなくて。
原田:それは作業としてですか?
浅野:いや、仕上がりですね。平たく言うとダサいというか、つまらないんですよね。「考えてつくったもの」みたいになってしまって。
原田:作為が感じられすぎてしまう、みたいなことですか?
浅野:どうしても描いた下絵の方が良いんですよね。その時は写真への変換であまりジャンプしなかったんです。2人とも結構休みを取って、場所も押さえてつくっていて、3週間くらい朝から晩までやっているんですよ。
山田:元気…(笑)。
浅野:最初は意味を考えて絵をつくっていました。物語をつくって、それを構成する記号をいっぱいつくるような感覚ですね。でもボツになり、意味のわからないものがいっぱい余っていたので、画面の中のレイアウトの妙で仕上げようという感じになりました。
原田:田部井さんは、浅野さんのこの作品を見てどんな感想を持たれましたか?
田部井:やっぱり、どういうつもりでこれをつくっているのかわからない不思議さがあるというか(笑)。とはいえ、突き放したところで終わっていないし、非常にセンスが良くて、こういう美しいものをつくりたいという匂いは凄くある。でも、グラフィックデザイナーの人がこれをどういうつもりでつくり、どう展示に至ったのかは結構不思議だなという感じはありましたね。
浅野:わかってほしくなかったんですよね。モチーフも絶対うまくつくらないというか、モチーフはどうでもいいという態度を示したかった。僕らの中で凄くこだわった部分であり、大変でもあったのですが、「何なんだ、この作品群は」と感じられるようにしておきたいというのがありました。
原田:こういうことを狙ってつくったんだなというところをあまり受け取られないように。
浅野:そうですね。そのきっかけが全くないと想像もできないとは思うのですが、意図が見透かされていないかというチェックをずっとやっていました。
山田:この「テーブルの上のスィンスィン」も、結構ライティングの妙というか、光と影じゃないですか。過度なコントロールはしたくないけれど、ゴールとして見据えているイメージもあるという揺らぎの中で、その3週間があったんだと思います。
浅野:白い紙を使っているので、ライティングで真っ白から真っ黒までコントロールできるんですよね。いわば色面構成のようにつくっているんです。ここの面積のグレーがどれぐらいの濃さが良いのかという感じでつくっているので、絵の具で着彩するような感覚もありました。あと、ふくよかな空間が画面の中にあるということにはしたくなかったので、空間を潰してしまうようなライティングをやっていましたね。
田部井:空間を潰していくという境地に至るのは、やっぱりその世界に没頭しないと見えないところだろうと思いました。最初にそれを決めてしまうと、さっきおっしゃったように凄く白けたものになり得る危険もある。それはまさにやり続けたことによって触れられた何かなのかなという気がしました。その解像度というのは。
浅野:そうだとうれしいですね。
原田:田部井さんの作品もそうですが、グラフィックデザインを平面の中で完結させようとすると、もはややり尽くされたという状況が何周もしているような世界でもあると思うんです。その中で、平面の中での表現をどう超越していくかというアプローチや姿勢は、共通して現代のグラフィックデザイナーの問題意識やテーマとしてあるような気がしています。それで言うと浅野さんは、写真だけではなく、映像やウェブ、音など複合的にメディアを使われた作品が他にもありますよね。そのあたりの考え方や、そういうものとグラフィックの関係はどのように考えていらっしゃるのですか?
浅野:グラフィックとの関係というのはあまり考えていないですね。グラフィックをやりたいというよりは、普通につくりたいものをつくっていて、自分がコミットできる部分がグラフィックであるということなのかなと。
原田:必ずしも、グラフィックデザインやグラフィック表現にこだわっているわけではないと。
浅野:特に自主制作の時はそうですね。
原田:自主制作で追求したいことに何か共通するものはありますか?
浅野:まず自分がやったことがないことをやりたいというのはありますね。客観的にいままでになさそうなものを提示したいというのはあります。
原田:やったことがないことをやろうという時に、浅野さんのバックグラウンドであるグラフィックやビジュアルをつくることだけではそれが実現できない時に、違う分野でものをつくっている方と協働しているというところもあるのですか?
浅野:以前はそういうこともあったと思いますが、いまは別にそういう感覚ではないですね。その感覚でやると、無理にグラフィックデザインに引っ張ってきてしまうところがあって、ダサいんですよね。
原田:あまりグラフィックデザインの文脈で回収されるものをつくりたくない、というところがあるんですか?
浅野:そんなこともないんですけどね。難しいな…。
原田:そこから逃れようとしている感じがあるというか。
浅野:わかりやすいグラフィックデザインの形に持っていこうとは思っていないですね。でも、「ポスターにしたら何でもグラフィックデザインじゃん」くらいの感覚でやってしまっているのかもしれないですね。
山田:若い世代の方ほど表現の幅が自由になっていくところがあって、グラフィックだからこれをやらなければいけないという表現の幅や作法の形が変わってきているんですかね。
田部井:なんとなくグラデーションになっている感じはしますね。上の世代の方がもう少し、「グラフィックと違うことをしました」「アートをやりました」という感じの境目をはっきり意識してやっている気がします。
山田:だからこれから生まれてくるような人たちが20年後くらいに表現者になっていった時には、さらに自由さを獲得しているのかなという気はします。
田部井:そうですね。色んなものの領域がもっと曖昧というか、一緒になってきているかもしれないですね。
原田:映像、グラフィック、音楽などあらゆるジャンルにリーチしやすい状況の中で、ものをつくる時にも選択肢が増えていると思うんですね。逆に、あまりにも色々な領域でさまざまな表現がある中で、普通につくるとその中のひとつにしかならないようなところがある気がしています。
要は、選択肢が多いがゆえに新しいものをつくりにくくなっているというか。何をもって「新しい」とするのかを考える時にはやっぱり比較対象が必要だと思うんです。その時に、「グラフィックデザイン」というフィールドがあって、その中でいままでやられていないような、こういう文脈でグラフィックデザインをやるというスタンスが浅野さんにはある気がしています。グラフィックデザインというアートフォームの中で、いかにこれまでと違う文脈のことをやるのかという意識が結構強いのかなとお話を聞いていて感じました。
浅野:例えば、今回の「テーブルの上のスィンスィン」を写真のコンペや写真展に出したらどうだったんだろうなとは思ったりしましたね。
原田:その選択肢もあり得たということですよね。
浅野:最初につくっている時は、あまりそんなことは思っていなくて、本当に「傑作をつくろう」みたいな感じだけなんですけど。
原田:そのスタンスがまず面白いなと思います。デザイナーは基本的にあまりそういうスタンスで考えないというか、あくまでもデザイナーがつくるものというのは発表する場所がある程度決まっていて、やはりそれはグラフィックデザイン的な場所になる気がするんです。もしかしたら写真というフィールドに対して作品を投げかけていた可能性もゼロではなかったのかなと思うと、そのスタンスがそもそも面白いなと。
浅野:一番評価してもらえたり、フックになるようなところを選んで出している感じかもしれないですね。
原田:なるほど。面白いですね。
浅野:選んで出しているというよりは、選んで変換しているという感じですね。
原田:あまり意図は探られたくないけれど、評価される場所に出すというところもちょっと矛盾しているような気がして面白いなと思いました。
浅野:よくアーティストの人が、「喋るの苦手なんだよね」とか、「これをどう説明したらいいんだろう」と言うじゃないですか。以前は、「いや、できるでしょ」と思っていたんですよ(笑)。自分で考えてつくっているわけですから。でも、それくらい言語化できないようなものもつくってみたいなとか、良いかどうかもわからないくらい潜るようなこともやってみたいという思いが漠然とあって、「テーブルの上のスィンスィン」はそれが凄く出ていたのだと思います。
田部井:その辺りも結構自意識があるんだろうなという気がしていて。
浅野:めっちゃそうです(笑)。
田部井:そこは結構塩梅がありますよね。わからせたい、わからせたくない、でも、わからせなさすぎるのも恥ずかしい、みたいなことがあるじゃないですか。でも、多分浅野さんがつくっているものは絶妙ですね。他につくられているグラフィックやお仕事を見ても、グラフィックが凄く好きな方だというのはわかるんですよね。グラフィックとしての定着を大切にしている方なんだと。そこが担保されている感じが凄くするし、謎ではあるけれど、グラフィックのクオリティは凄くあるから良いと思える。
もし、「わかんないでしょ? グラフィックとしても成立しないでしょ? かっこいいでしょ?」みたいな感じになっていたら、いけ好かないと思うんですよね(笑)。そういうヘボ狙いというか、ずらしをやりたい自意識が強すぎるとちょっと無理、みたいな(笑)。でも、ビジュアルの定着をしっかり担保しようとつくっている感じがあって、見る人のことをちゃんとわかっていると思うし、そこを目指す心意気も見えてくる。わからないものをつくっていると言いつつも、実はビジュアルコミュニケーションとしてはちゃんと成立している。そこが信頼できるなと思いました。
原田:ちなみに田部井さんは、クビーナというユニット活動はいまも継続されていらっしゃるのですか?
田部井:具体的な活動はしていないですが、関係性としては続いている状況ですね。
原田:クビーナは作家の小林エリカさん、写真家の野川かさねさん、イラストレーターの前田ひさえさんとのクリエイティブユニットで、リトルプレス的なものをつくられたり、色々な活動をされていたのは僕も見ていました。そこにつながる話で、異業種の方とものをつくる時に意識されていることや、その面白さ、魅力についてはどのように考えていますか?
田部井:いつも同じことが起きるわけではないですけど、自分が持っている視点を崩してほしいというか、崩した時に面白いことが起きるところがあります。特にクビーナの面々は個々でも活動している人たちなので、一緒にやると意外性が凄くあります(笑)。「そんなふうに考えるんだ」ということもありますし、ものをつくるスピードや積み上げ方も結構違うので、良い意味でショックを受けながらつくるというか、自分が「こういうものになるだろう」と思っていたことと、ゴールが違うこともままあります。それがやっぱり一緒につくることの楽しさであり、刺激をもらうという意味でも面白いところだなと思います。
波長が合う人と合わない人はいるので、うまくいく時といかない時はあります。ただ、「うまくいくな」という時は、できるだけ直接的な表現ではない、「こういうものにしたいよね」という比喩表現を共有している時ですね。私が言った比喩表現に対して、写真家さんなり、イラストレーターさんなり、他の方が違う形で返してきてくれるというコミュニケーションが成り立つと、凄く良いものになると思います。逆に、目的を共有していない時に、「ここにこういう絵が欲しい」という具体的な指示をしてしまうと、相手も萎縮してしまうというか、「それならそうするか」となってしまってアイデアもあまり出てこない。それがうまくいく時とうまくいかない時はもちろんありますけど、そういうことがあるなと思います。
原田:変な話、受注発注のような関係になってしまうとコラボレーションとしてはあまり上手くいかないと。
田部井:そうです。それは自分に置き換えてもあって、例えば編集者さんやクライアントさんから依頼される時に、「こういうものにしたい」「こういう人に届けたい」ということではなくて、「三角形にしてほしい」みたいな指示があると、もうそれしかできなくなってしまう。「こういうものにしたい」と言われたら、それに対してアイデアを投げかけることはできるけれど、「これにしたいんです」ともう形が決められてしまうと、その答えを出さざるを得ないし、出して納得してもらわなければいけない。やっぱりそれはあまり良いコミュニケーションではないのかなと思います。
原田:協働者とのやり取りについて、浅野さんはいかがですか?
浅野:コミュニケーションは特に苦にはしていないですが、自主制作はお金をもらえる仕事ではないので、みんな自分がつくるものの前衛さや革新性を担保したいと思うんですよね。でも、全員の革新性は担保できないじゃないですか。そこが難しいなといつも思っています。半年から1年かかってしまうプロジェクトで、いままでやったネタをやるなら、そんなにコミットしたくないと思うはずなので。
山田:面白いからとりあえず参加しようかなという人は?
浅野:最初はそのノリだと思いますが、そのモチベーションでそんなに長くは持ちませんよね。例えば、面白いシステムが組めると思ってエンジニアが参加したけれど、ずっとバグ修正ばかりで全然面白くない。それに1年とか費やすのかということになってしまうじゃないですか。
山田:それは嫌ですね。
浅野:嫌ですよね。そうすると企画の方を見直さないといけなくなるんです。みんなが持ち帰るものを用意しておかないといけないじゃないですか。そこがやっぱり難しいんですよね。
原田:クライアントワークではないプロジェクトにおいて、革新性を追求していくことがベースにはあると思いますが、その創作活動自体は、デザイナーとしての浅野さんにはどういうフィードバックがありますか?
浅野:僕は大体のことにおいて企画者なので、その企画が成功するのかどうかが大事で、「いい展示だね」「いい催しだね」という反応が得られれば割と満足です。その中でグラフィックもたくさんつくっているので成果物もあるのですが、むしろ、グラフィックはかっこ良いけど催しは微妙だったねという共通認識が制作者も含めてあった場合は、もう僕が誘っても乗っかってくれないんだろうなという恐怖が凄くあります。だから、まずは催しがきちんと成立することが最低限の仕事で、そこは危機感を持ってやっています。
原田:その時の浅野さんは、もはやデザイナーではないんですかね?
浅野:あまり考えていないかもしれないですね。
原田:いかに乗っかってもらえる面白い土台をつくれるかという話は、割と編集者的なマインドでもあるように感じました。
浅野:やり始めるとそっちになってしまいますね。
原田:グラフィックデザインの業界を眺めた時に、結構独特の立ち位置ですよね。企画自体を立てて、そこに対して自分も参加して手も動かしてつくるし、他のクリエイターもアサインして協働していく。平面で定着はするけれど、その企画者でもあるというところは面白いなと思います。そういう企画者的な立ち位置でのクライアントワークはこれまでにされているのですか?
浅野:大きい規模ではないですね。
原田:その辺ができたら面白そうですよね。
浅野:待ってます(笑)。
山田:今日の話は、浅野さんのサイトのお問い合わせの文章を読むと凄くよくわかります。「プリプロダクション(企画・開発・実験・編集)段階のご相談も前向きにお受けします。領域や規模に限らず、広く関わることを望んでいます。お気軽にご連絡ください」と。
田部井:そういう佇まいにいるということがこれに表れていますね。
山田:表れていますよね。なかなかサイトのお問い合わせフォームに書いていない、良い文章ですね(笑)。
原田:たしかにそこに書かれていることの意味が今日の話でだいぶ…。
山田:解き明かされたと思います(笑)。
原田:今日は田部井さんと浅野さん、それぞれ自主的につくられた作品の共通点というところから入りましたが、全然考え方も違っていて、面白いなと思いながらお話を伺っていました。
田部井:全然違いますね(笑)。
山田:「共通項は?」という話のようでいて、共通していないというところで話がまとまるのはいいですね(笑)。
原田: アートディレクター、グラフィックデザイナーの田部井美奈さんをお迎えするシリーズ最終回は、JAGDA新人賞2026の受賞者のおひとりである浅野隆昌さんにお越しいただき、デザイナーにとってのアワードの話や、それぞれの制作の話を色々伺ってきました。今回が最後になるので、田部井さんに今後の告知をお聞きしつつ、浅野さんの方でもお知らせがあれば伺いたいと思います。まずは田部井さんからお願いします。
田部井:ちょうどこの配信が始まる6月30日から、亀倉雄策賞受賞記念展がスタートしています。場所はGOOD DESIGN Marunouchiで、7月13日まで開催しています。ギンザ・グラフィック・ギャラリーで展示したものの一部と、新作も少しつくっているので、そのあたりを何か体験するような形で展示しようと準備をしています。また、この展示が始まったすぐ後に、仕事で関わっているマリメッコ展が京都の美術館で7月3日から始まります。
原田:浅野さんはいかがでしょうか。
浅野:JAGDA新人賞展が7月16日から7月30日まで、亀倉雄策賞展と同じ会場で行われます。今回自主的な試みとして、展覧会と連動するウェブサイトをつくっていて、ウェブメディアのような動きをしようと思っています。
山田:それは3人でやっているのですか?
浅野:そうですね。3人が企画・編集・運営をするウェブサイトです。新人賞展は約1年間をかけて各地を巡回しますが、その間ずっと更新を続けて、1年経ったらクローズする1年限定のウェブサイトを発表する予定で、近日中に公開されます。
原田:楽しみにしております。では、簡単に次回の予告をさせてください。来週から始まる7月のシリーズは、2人のゲストによる対談形式でお届けします。設計事務所DAIKEI MILLSの代表でデザイナーの中村圭佑さんと、プロダクト、空間のデザインを手がけるクリエイティブディレクター、デザイナーの柳原照弘さんが次回からのゲストになります。今回は「場所」がテーマですね。
山田:そうですね。亀有のSKACと神戸のVAGUEという場所をそれぞれ運営しながら、デザイナーとしても第一線で大活躍をされているおふたりで、東西のおしゃれ番長を呼ぶような気持ちで臨みたいなと思っています(笑)。
原田:こちらもぜひ楽しみにお待ちいただければと思います。では、ここまでおふたりともありがとうございました。
田部井:ありがとうございました。
浅野:ありがとうございます。

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