原田:アートディレクター、グラフィックデザイナーの田部井美奈さんをゲストにお迎えするシリーズ、今回が3回目となります。前回は、田部井さんが実験的な表現として長年探求されている「光と図形」という作品を軸に、写真とグラフィック、あるいは二次元と三次元のあいだにある表現の可能性について伺ってきました。
今週は、2025年にギンザ・グラフィック・ギャラリーでその最新の作品群を展示された『光と図形と、その周辺』の会場デザインを担当された中原崇志さんにも加わっていただきます。中原さん、よろしくお願いします。
中原:よろしくお願いします。
原田:中原さんは、実は田部井さんとはご夫婦でもあり、お仕事でも協働する機会が多い。どちらが先なのかはちょっとわからないんですが、ご夫婦だから仕事が多いのか、あるいは(笑)。
山田:どうなんですかね(笑)。中原さんのお仕事の量を見ていると、そういうことではないような気もしますが、今日はその辺りも聞けると面白いなと思っています。
原田:まさにいまお話にあったように、特にデザイン界隈だと中原さんが会場デザインを担当されている展覧会が本当に多いイメージがあります。一方で、日本科学未来館など、サイエンス系の展示も色々やられていて、本当に幅広いお仕事をされているなと思っています。1回のご出演なので聞けることは限られますが、色々お話を伺えたらと思います。中原さん、よろしくお願いします。
中原:よろしくお願いします。
原田:少し変な意味になってしまうかもしれないですが(笑)、おふたりの出会いから聞かせていただけますか?
中原:まさにいまお話に出た日本科学未来館の仕事で、もう結構前のことになりますね。
田部井:2010年とか?
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中原:2011、2012年くらいの仕事で、脳をテーマにした『ぼくとみんなそしてきみ ―未来をつくりだすちから』という常設展示でした。テーマになっている脳というものをわかりやすく伝えるところで、tupera tuperaさんがクリエイティブディレクションで入っていて、グラフィックデザイナーをどうしようという時に、何人か挙げさせてもらったうちのひとりが田部井さんでした。僕が選んだというよりは、未来館の方が田部井さんがいいんじゃないかと。その時はまだ服部(一成)さんの事務所に在籍していたのですが、お願いしたら「やりましょう」と。実はそれが出会いですね。
原田:そこから去年のギンザ・グラフィック・ギャラリーでの展示まで、色々な協働をされてきていますよね。
中原:そうですね。
原田:一緒にされた仕事の中で、特に印象深いものはありますか?
中原:未来館の後、GINZA SONY PARKで行ったウォークマン40周年の展示『WALKMAN IN THE PARK』は、空間とグラフィックが大きく絡むという意味ではポイントになった仕事かなと思っています。
田部井:「公園」という大枠のテーマは決まっていて、それに対して中原さんの空間のチームがこういう形の什器、こういう形のものがあったらいいんじゃないかということを考えると同時に、私が担当するグラフィックも模型を見ながらほぼ同時に練り上げることができたんです。別々で進行して最後にグラフィックを乗せるとか、ここが空いているからグラフィックを入れるということではなくて、立体の造形と平面のグラフィックをずっと並走させて進めるような感じだったので、進め方として面白かったですね。
中原:そうですね。領域を横断するというか、どちらのアイデアかわからないようなことが結構ありました。例えば、単純にパネル化するということではなく、空間全体に色が差し込まれたり、造形が生まれたり、そういうラリーのようなことを繰り返しながら空間が出来上がっていくのはとても面白い体験でした。空間とグラフィックのマッチが上手くいった事例だった気がします。
原田:今日はまさに、グラフィックデザインが空間に展開していく時にどういうことが起きるのかというところを主題に聞いていきたいのですが、中原さんは建築がバックグラウンドで、現在はミュージアムデザインという言葉を使われ、展覧会のデザインをされることが多いと思います。まずは、中原さんのバックグラウンドを簡単にお話しいただけますか?
中原:大学で建築を学んでいたのですが、その後大阪にあったIMI(インターメディウム研究所)という学校で学びました。学校を立ち上げた伊藤俊治先生は「デジタルバウハウス」ということを提唱されていて、いわば総合芸術のようなことだったのですが、当時はまだ芸大の先端芸術表現科も、多摩美の情報デザイン学科もなかった。いまは統合デザイン学科が多摩美にありますけど、そういった色々なジャンルを学べる場所は当時なかったんです。それを伊藤先生が先駆けて立ち上げた、週末だけやっているような学校で、そこに行っていたんですね。
その時、建築に対して何かもやもやするような感覚がありました。このまま建築を学んでいていいのかということもあり、そこに行ったのが実は一番大きかったです。その時に出会ったのが伊藤俊治さんや、椿昇さんなどアーティストの方々で、ほかにも建築家の吉松秀樹さんといった方々に教えてもらっていました。かなり実践型の教育で、椿さんの展覧会を手伝ったりすることもあったり、本当に色々なことを同時に学び、実はグラフィックデザインも学んでいました。そこで2年くらい学んでいるうちに色々なことができるようになってきたのですが、逆に「自分って何なんだろう?」ということが見えなくなってきました。それで原点回帰して、やっぱり建築である、空間であると思ったんです。その後、福岡の建築家・有馬(裕之)さんのところで勤め、もう一度建築を学んだことが、自分のバックボーンになっています。
原田:その中で、展示のデザイン、ミュージアムデザインと呼ばれていますが、こうした領域の仕事に特化してようになった流れは何だったのでしょうか?
中原:実は全然そんなつもりはなくて、たまたま未来館の展覧会のコンペがあり、縁があって参加することになって、そこからスタートしました。もともとIMIで展覧会のアシスタントの経験があったので、どうやって展覧会がつくられていくのかがある程度わかっていたし、作家のリストをつくったりする裏方のようなことも含めて経験があったんです。そういう意味で、建築だけではない学びを学生の時にしていたことが一番大きかったです。不思議な縁で未来館のコンペに参加した後、色々な展覧会の仕事をよくやるようになり、いまは自分ではまったく想像していなかった道にいるという感じです。
山田:中原さんが担当されて、現在開催中の森英恵さんの展示など、裏方に徹することも上手く、かと思えば凄くポップな展示もつくれる人なんですよね。動員数が多かったものでいうと、石岡瑛子さんの展示も中原さんが担当されていますよね。
原田:そういったデザイナーやクリエイターの展示を多く担当されている一方で、日本科学未来館のように非常に多い情報を整理していくような展示もあります。それぞれ考え方はだいぶ違うような気もするのですが、中原さんの中でいくつか仕事の方向性や軸はあったりするでしょうか?
中原:いまおっしゃっていただいたように、未来館のような情報を扱うようなミュージアムは編集行為の要素がかなり強いので、作家の展示とは少し違います。ただ、根底としてはあまり変わっていない気もしています。未来館など情報を扱う場所では、自分が知らないことを発信しなければいけない中で、短い期間ではあるけれどそれを自分の知識として得て、どう形にしていくかという、リサーチのような側面が大きくあります。もちろん未来館などには学芸員的な方がいるので、その人たちと一緒になって学びながらやっていく。一方で作家の展示にしても、その作家の方々の歴史や特性を学びながら、それをどう伝えていくのかというところは実はあまり変わりません。そういう意味で、ポップだったりミニマルだったりするのは、その元となるものにかなり影響を受けやすいからだという気がします。自分がこういう造形をつくりたいというよりは、そこから生まれてくるものを自分なりに形にしていった結果が、今の色々な仕事になっている気がします。
原田:田部井さんはもちろんですが、例えばGINZA SONY PARKで色部義昭さんと協働したり、グラフィックデザイナーとのお仕事も多いと思います。空間をつくっていく上でグラフィックデザインの役割や位置づけはどのように考えられていますか?
中原:店舗などとは違って、展覧会やミュージアムでは情報をどう伝えていくのかという意味で、グラフィックデザインはかなり重要な位置を占めていると思っています。僕らは空間を基軸にはしているものの、グラフィックデザインは切っても切り離せない存在で、かなり重要なポイントだなと思っていますね。
山田:その中で、田部井さんは他のグラフィックデザイナーと何か違う視点を持っていたり、面白いなと思うところはありますか?
中原:どんなグラフィックデザイナーと組んだらいいのかを考える時、実空間であるということが結構大きなポイントになるんです。紙媒体でもないので、情報を伝える上で空間の体験性が重要になってくる。そういう意味で、田部井さんだけではないですが、例えば色部さんや、21_21 DESIGN SIGHTでご一緒した上西祐理さんは1/1の世界をきちんと理解している印象があります。自ずとそういう人を推薦したり、一緒にやったりすることが多くなります。その中で田部井さんの特徴は、空間にグラフィックの力でエネルギーを与えてくれるところだと思います。
山田:僕が本のデザインを田部井さんにお願いした時、情報の整理が上手だなと思ったんです。服部一成さんと一緒につくっていた『流行通信』は、縦からも横からも斜めからも文字を読ませるような、雑誌としてはルール破壊みたいなところがあって、それが本当に素晴らしいお仕事でした。一方で、あるリテラシーの方々にちゃんと読み物として読んでもらうテキストをつくろうとすると、実は情報を整理しないといけない。これはグラフィックデザイナー、特にエディトリアルデザインをされたり、展示をつくる方には重要な仕事だと思うのですが、田部井さんは実はそれが凄く上手だなと僕は思っています。
田部井:ありがとうございます。
山田:クリエイティブな要素と情報を整理する部分の両方を兼ね備えていないと、実は展示空間のデザインはかなり難しいんじゃないのかなと。
中原:本当にそうだと思います。情報をどう伝えていくかという時に、デザインが面白いからだけではなくて、両方を兼ね備えていないとなかなか難しい。ただ情報が羅列されていても人は読みたくならないので、そこはデザインの力がかなり重要だと思います。そういう意味で、田部井さんであったり、色部さんや木住野(彰悟)さんのような方たちはそこが本当に抜群に素晴らしいです。
原田:いまお話しいただいたような空間におけるグラフィックデザイナーの役割というのは、どちらかというとサインデザインに近い関わり方だと思います。一方で、去年のギンザ・グラフィック・ギャラリーで行われたのは、グラフィックデザイナーである田部井さんご自身の個展なのでまた少しわけが違うのかなと。グラフィックデザイナーの作品を空間に展開していく時に何がポイントになるのか。これは今日のテーマでもありますが、この展覧会に関しては、そもそもどういうことを表現しようという意図があって、おふたりの間にどんなやり取りがあったのかをぜひ聞いてみたいです。
田部井:そうですね。ギンザ・グラフィック・ギャラリーは1階と地下ではっきり分かれている空間なのですが、「光と図形」の作品群は必ず展示すると決めていました。もう一方はアーカイブを見せる形にして、最初からこの2方向の展示を2フロアで展開することは決めていました。そのうちアーカイブの方は、たくさんの仕事にジャンルを横断しながら取り組んでいるように見せた方がいいんじゃないかと考えました。どれかひとつだけが誇張されたり、「これが私の代表作です」という見せ方にするのではなく、インデックスがあって、それに沿ってただものが並んでいるような、あまり編集を感じさせない見せ方になるといいんじゃないかということを最初の時点で話していました。
中原:あと、ショップっぽくなるといいよねという話もしていました。「光と図形」が作品の展示になることはわかっていたのですが、あくまでもグラフィックデザインという視点で捉えた時に、これまで取り組んできたアーカイブは社会に出ているもので、作品とも言えるし、パッケージのような商品的な側面もあります。そういう身近に存在しているものを表現できるといいよねという話をしていました。その中のキーワードとして、ショップらしさだったり、手に取りやすさというものが挙がっていました。
田部井:あと公共性とかね。
中原:身近なものであるということをどれだけ表現するのか。ただ、お店をつくるというよりは、その感覚的な部分をどう展示としてつくっていくのかということをブレストしていた気がしますね。
田部井:それに対して新作を展示するフロア、「光と図形」の方は全然違う表情にした方がいいんじゃないかということで、光が入らない地下に空間をつくりました。1階はガラスがあるので外も見えるのですが、地下は外の世界がほとんど見えない空間でかなりコントロールできる。そこで、上と下のフロアのコントラストをつくり、地下は白い空間にしようというのがまずありましたね。
中原:そうですね。ただ、最初につくったパースでは、真っ暗い部屋にオブジェだけがあり、壁にはグラフィックが展示されていて、それらが同居しているものでした。それを見せたら、全然違う。そういうことではないと(笑)。
田部井:インスタレーションがしたいわけではなかったんです。色々な考えの人がいると思いますが、1階のアーカイブ展示で現実的な社会とつながるような仕事を見せた後に、地下に入ると急にアートっぽいことをやり始めちゃったと思われるのが本当に癪だったんです(笑)。やっぱりグラフィックデザインをやっているということにはしたかった。「光と図形」というプロジェクトを誤解されたくないというのがありました。
山田:そうですよね。だから、地下の展示というのはインスタレーションではないんですよね。恣意的に切り取られた穴から図形を見る。やっぱりあくまでもグラフィックというか、前回、前々回と話してきた切り取られた世界から田部井さんの視点を追体験するというものなんですよね。
田部井:そうですね。
山田:あのように覗かせるというのは、「その手があったか」という感じでした。
田部井:視点を定めて見てもらうために窓を小さくしていたのですが、そうするとみんなそこから写真を撮るんですよね。そりゃそうだよなと思うのですが、ただ目で見るだけで終えずに写真を撮るということは、実はあまり予測していなかったんです。でもそりゃ撮るし、SNSにもアップするよなということが後から起きて、それはありがたかったなと思いました。みんながそうやって広めてくれたところもありましたね。
中原:この展覧会で面白かったのは、田部井さんが「グラフィック」という言葉を打ち合わせしている中でずっと言っていたことです。やりたいことはグラフィックデザインであり、それを表現するための展覧会であるということが議論の中でも現場でも一貫していました。ある視点から切り取るということをしなくても、覗いている先の物体そのものが凄く面白いんですよ。だから、最後に壁を閉じる瞬間まで、「これって本当に閉じるの?」と(笑)。
田部井:制作と施工の途中に、ところどころ「ここでやめておいた方がいいんじゃないか」という良い瞬間がたくさんあったんですよね。
中原:グラフィックデザインの展示でなければ、もしかしたらこの空間は閉じなくても凄く魅力的だし、空間的にも面白いものが生まれる瞬間を感じていました。だから、「本当に閉じるのかな?」と思っていたのですが、あくまでもやりたいのはグラフィックデザインであり、3次元の展示物はあくまでも視野や視点を提示するためのツールであるということが、ずっと変わらずに田部井さんの中にあった感じがありますね。
田部井:そうですね。いわば少し古典的だけど、やっぱりポスターをつくるということに最初から取り組みたい気持ちがありました。自分の展示をする時に、「ポスターじゃなくてもいいんじゃない?」と言う同業者もいるんです。でも、やっぱりポスターでやりたいという気持ちがありました。それは凄く古典的で定番の表現だけど、そこに全部が詰まっている感じもしていて。とにかくまずは、ポスターが空間の中に展示されている状態で、それをより魅力的に感じてもらうためにオプションとして窓があるというのが、自分の中での優先順位でした。もちろん、お客さんがどう楽しんでくれたかはわからないし、それは自由だと思うのですが、白い空間にポスターが展示されている状態に見えた方がいいということは最初からずっと言っていましたね。
原田:グラフィックデザイナーが展示する問題というのは、ずっとある気がしています。
田部井:そうなんですよ。
原田:グラフィックデザインは社会の中で機能するものなのに、出来上がったものだけをホワイトキューブに持っていくことに何の意味があるのか、という話もあります。一方で、田部井さんがおっしゃっていたように、「アートつくっちゃいました」というようなことが、デザイナーの展示として本当に必要なのかという問題もある。なかなかその判断は難しいと思いますが、前回の話にもあったように、グラフィックデザイナーがものをつくっている思考や、できる瞬間を追体験できるというアプローチは凄く有効なひとつのやり方だと思います。特に今回は、もともと三次元のオブジェを二次元のグラフィックにする作品であり、それをまた展示空間という三次元に持っていくという構造も含めて素晴らしい形だと感じました。
田部井:たまたまといえば、たまたまでもあると思うんです。凄く狙っていたのかと言われれば、そうでもないような気もしていて(笑)。
山田:能動的に見ること、来場者が参加することでグラフィックが完成する展示とも言えますよね。
田部井:そうですね。
山田:その能動的なあり方は非常に現代的だし、凄く魅力的です。数年前にやっていた三澤遥さんの展示もやはりそういうものだったように思います。あれもインスタレーションではなくて、来場者が参加することによって完結するような、決して固定しない作品だったりする。そのあたりは、JAGDAがいま見据えているグラフィックデザインの未来のようなところにもつながってくるのかなという気がします。
原田:そうですね。2回目でなぜ自主制作をするのかという話がありましたが、そのひとつの舞台として展覧会があると思います。最近はいま出た三澤さんも含めて、グラフィックデザイナーの展覧会の捉え方がだいぶ変わってきていて、ただ作品のアーカイブを展示するだけではないものが増えてきています。それが今回の亀倉雄策賞の評価にもつながっていると思いますが、中原さんはグラフィックデザイナーの展示のあり方についてはどのように見ていますか?
中原:もちろんアーカイブを展示されている方々は多くいらっしゃって、それはそれで凄く素晴らしいと思います。KIGIさんが代官山で行った展示を手伝わせてもらったんですけど、あれも本当に凄い展覧会でした。おっしゃっているように三澤さんだったり、岡崎(智弘)さんもそうかもしれないですが、実験的な展示をして、それがグラフィック的な表現になりつつ、仕事にも発展していくようになっている気がします。領域を平気で横断している感じは凄くありますし、いわゆるグラフィック的な表現だけではないものを凄く感じます。
原田:その中で、グラフィックデザイナーの表現のひとつとして空間構成のようなものが入ってきていて、そこが融け合ってきている感じがしますね。
中原:本当にそうですね。三澤さんなんか三次元をやっても上手いし、空間をつくっても上手いし、本当に凄い。
原田:1回目でも話が出た、雑誌メディアに力があり、グラフィックデザインが輝いていた時期からオンスクリーンにフィールドが移っていったり、グラフィックデザインが色々なところに遍在していくような状況が図らずも起きています。その中で、中原さんのような方の存在も凄く重要になるし、田部井さんご自身がそんなに狙っていたわけではないという話でしたが、つくり手が予期しなかったグラフィックデザインの受容のされ方が起こっていることも面白いなと思いました。
山田:世代や感覚は変わるものだから両方良いと思うんですね。おそらく若い世代は表現媒体が違うから、止めないデザインが結構大事になっていて、それは空間体験においても同じだと思います。でも、田部井さんのこの作品は、結構“止める覚悟”が必要というか(笑)、止めたものを完成されたものとして見せています。1、2回目の中でも少し話が出ましたが、何をもって完成とするかという判断をしないといけない。でも逆に、いまのオンスクリーンメディアを主戦場に戦っている人たちからすると、止められないと思うんですよね。そのギャップというか、どちらが良い悪いではなく、どちらにも適した表現があると思いますが、いまの時代に止めるということは心を強く持たないといけないのかなと(笑)。
ともすると、「光と図形」はモビールみたいにも見えるじゃないですか。つまり、常に動き続けるもののようにも見える。でもそうではなくて、それが固定した瞬間の美を見せるところがあって、言ってしまえば古典的かもしれないけど、その覚悟が面白いなと思います。
原田:それは古典であり、グラフィックデザインの本質のひとつでもあるから、写真を撮っている来場者はそんなこと多分考えていないのですが、結果的に動いているものを止めることがグラフィックデザインであるということを図らずも体験している。その構図も面白いなと思います。
山田:かつてポスターなどは写真を何十枚、何百枚撮った中でこれだという1点を決めてそれを使っていたわけで、そこにも少し通じるところがある気がします。その面白さを、この時代にしっかり打ち出すということにはどこまで自覚的でしたか?
田部井:さっきおっしゃったように、グラフィックデザインは色々変わっていくじゃないですか。時代もメディアも変わる。だけど、凄く新しいことをするより、やっぱり凄く実直なものでいたい。自分がつくるものはそういうものでありたいというのはありましたね。多分それが、私の中にあるグラフィックデザインに対する敬意であり、魅力を感じる部分なんです。自分の中にあるものを取り出すとこういう形になるというか。でも、多分それは人によって違うと思うし、新しく変化していくものの方が好きだという人もいると思います。その中で私は、最終的に1枚の紙にグラフィックが収まっていることに最も魅力を感じているし、いままでもそういう体験をしてきています。だから、直球的で古典的なことかもしれないけれど、それが自分のやるべきことだという気持ちはありました。
原田:1回目の服部さんのところでの学びの話にもあったように、あるものでどれだけ試行錯誤して工夫できるかということを田部井さんはひたすらされていて、その最終的なアウトプットはやはり一枚のグラフィックなんですよね。田部井さんの中で最新のやり方を常に模索しながらも、アウトプットされるものはおそらくずっと古典的なグラフィックデザインである。そういう関係なのかなと話を聞いていて思いました。
田部井:みんなが感じるわけではないと思いますが、古さを感じる人は絶対いると思うんですよね。例えば会場に立っていた時に、おじいさんくらいの世代の方が話しかけてきて、「カンディンスキーが好きなの?」みたいなことを言われたりしましたが、そういうレジェンド的なものとの共通項を感じる人も数名はいらっしゃったと思います。
山田:たしかに今日のお話は、昭和のおじさんからすると涙が出る話なのかもしれないですね(笑)。
田部井:そうかもしれないですね(笑)。
山田:ちょっと根性論みたいな(笑)。
中原:隣で見ていても根性の人だなとは思いますね。
田部井:そっか(笑)。
中原:凄く粘り強くて諦めない(笑)。デザイナーとしては当たり前なのですが、本当にそこは凄いですね。
原田:実はレジュメに、「公私にまたがるパートナーシップ」という項目が書かれているのですが、ちょっと時間が足りないですね(笑)。
山田:そうですね。今度は中原さんの回に田部井さんにゲストに来ていただいて、その時に聞きましょうか。
原田:そうしましょう。
山田:今度は、田部井さんが中原さんの仕事をどう見ているかということについても聞きたいですね。
田部井:そうですね。その回があってもいいかもしれないですね。
原田:今日はお時間が限られていたので、次回またぜひお越しいただいて、もっと中原さんのお仕事についてもお聞きできればと思います。
山田:ぜひお願いします。
原田:そこでぜひ「公私にまたがるパートナーシップ」についても(笑)。
山田:どこまで話してくれるかはちょっとわからないですが(笑)。
原田:楽しみにしたいと思います。最後に中原さんから何かお知らせごとなどがあればお願いします。
中原:先ほどお話しいただいた森英恵展が7月頭まで国立新美術館で開催されています。また、東京都現代美術館で開催されているコシノヒロコさんの展覧会でも空間を担当させてもらっています。こちらは7月末まで開催されています。それこそレジェンド2人の展覧会ですね(笑)。
山田:強めの女性ふたりですね(笑)。
原田:ぜひセットで行っていただけたらと思います。アートディレクター、グラフィックデザイナーの田部井美奈さんをお迎えするシリーズ、3回目の今日は、2025年にギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催された田部井さんの個展『光と図形と、その周辺』の空間デザインを担当された中原崇志さんにも加わっていただき、空間におけるグラフィックデザインのあり方や、グラフィックデザイナーの作品展示をテーマに色々お話を伺ってきました。中原さん、今日はありがとうございました。
中原:ありがとうございました。
原田:次回は最終回となります。7月に東京のGOOD DESIGN Marunouchiという会場で、亀倉雄策賞を受賞された田部井さんの受賞記念展示がありますが、そのすぐ後に同じ会場で、JAGDA新人賞2026の受賞記念展があります。最終回は、JAGDA新人賞の受賞デザイナーのおひとりである浅野隆昌さんをお迎えして、田部井さんとの対談という形でお届けします。こちらもぜひ楽しみにお待ちください。では、田部井さんも今日はありがとうございました。
田部井:ありがとうございました。

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