MeThreee[ミースリー]は、「次の時代の社会/働き方」を読み解くためのニュースレターです。
アメリカ、その「未完の実験」
What is the United States of America now? | The Guardian (Jul 1)
作家レベッカ・ソルニットが、建国250年を前にした米国を「溝にはまったトラック」「ハッキングされたプログラム」と呼び、同時に、この国は決して一つのものではなく千のものだと論じる。それは移民のために立ち上がって撃たれたルネ・グッドであり、彼女を撃った覆面の移民税関捜査官でもある。KKK であり ACLU でもあり、シェブロンでありシエラクラブでもある。銃が人口を上回る国であり、非暴力抵抗の最も詩的な唱道者マーティン・ルーサー・キングを生んだ国でもある。ジャズとブルージーンズと原爆と経口避妊薬を世界に与えた国だ。ソルニットは、米国はその心臓において常に「実験であり、議論であり、無数の答えを持つ問い」だったと書く。3億4000万人のうち約200万人が収監され、その人口は12の州より多い。数十年内にこの国が非白人多数の国になることは確実で、白人ナショナリストには止められない。彼女は2026年に登場した若者たち、すなわち撃たれた活動家たち、NYC 初のムスリム市長ゾフラン・マムダニ、スペイン語でプエルトリコを称えたバッド・バニー、自らの条件で競技に戻り金メダルを取ったアリサ・リウを「答え」として挙げる。トランプは国を破壊しないが深く壊した、以前の状態への回帰はなく、それを許した構造を修復して前進せねばならない、と結ぶ。
「忘れられた報告書」が映すアメリカ
What a Forgotten 100-Year-Old Government Report Says About Who We Are | Derek Thompson (Jul 3)
ジャーナリストのデレク・トンプソンが、米フーヴァー大統領が1929年に作らせた1500ページの報告書『Recent Social Trends』を掘り起こし、150周年の1926年と250周年の2026年の不気味な相似を描く。どちらの時代も、記念日を株高と「技術的失業」への恐怖 (当時は機械力、今は AI) の中で迎え、新技術が人々を遠い出来事の感情へと配線した (当時はラジオ、今は SNS)。1926年の合言葉は「最適化」ではなく「バランス」で、都市と農村、進歩と伝統の均衡こそが最大の懸念だった。報告書の著者たちはリモートワークやエアコンの普及まで予見しつつ、都市化と技術が人々の価値観と自己感覚を破壊することも見抜いた。ジンメルが1903年に「貨幣がすべての多様性に取って代わる」と書いたとおり、250周年のいま、共同体や信仰を重んじる米国人が減る一方で「金」を挙げる人は増えた。「アメリカ国民の主要な事業はビジネスだ」という1926年のクーリッジの言葉が、今もそのまま響く。
「ボスのナルシシズム」がオフィス回帰を生む
The Secret Reason Bosses Want Everyone Back in the Office | The New York Times (Jun 22)
組織心理学者アダム・グラントとウォートン校のマリッサ・シャンデル、コートニー・エリオットが、米国企業の3分の1が全面帰社命令を出した理由は「エゴ」だと論じた。新研究は、リーダーがリモートワークに反対する唯一の一貫した予測因子が「ナルシシズム」だと明らかにした。Fortune 500 の CEO では、報酬倍率、署名の大きさ、年次報告書の写真の大きさで計測されるエゴが大きいほど、反リモート発言が多かった。リモートは対面での威圧、部下の畏敬の視線、即座の反応を奪う。「同じ大きさの画面上の四角に閉じ込められ、あくびと途切れる映像で迎えられる」。450社300万人以上のデータは、帰社命令が業績改善に失敗し、優秀な社員の離職を促すと示す。「リーダーの責任は世界を自分に合わせることではなく、自分を世界に合わせることだ」。
Ford が「グレイビアーズ」を再雇用
Return of the ‘greybeards’: AI backfired – so Ford had to rehire humans | The Guardian (Jun 30)
米国 Ford が過去3年で350人のベテランエンジニア (社内で「greybeards」と呼ばれる) を再雇用し、AI 導入の失敗を修正している。同社は自動化推進で2020年から従業員を5000人削減したが、設計と製造検査に導入した AI カメラが誤検出を頻発。中国自動車産業の急速な追い上げの中で品質問題が経営リスクとなった。車両ハードウェアエンジニアリング担当副社長チャールズ・プーンは「AI は素晴らしいツールだが、訓練に使う情報の質次第だ。過去数年、我々は最も知識豊富なエンジニアたちの経験を十分に評価していなかった」と語る。再雇用されたのは元フォード社員とサプライヤーの退職者で、複数の製品サイクルを経験した人材だ。「AI は品質向上に極めて重要だが、深い技術専門性との組み合わせが必要だ」と同社は結論する。
「寝そべりクラブ」というサードプレイス
Gen Z New Yorkers join free ‘Rest Club’ in NYC | New York Post (Jun 30)
ニューヨークで「Club Rest Stop」という無料の寝そべりクラブが Z 世代を集めている。参加者は日曜の午後、セントラルパークの丘に虹色のブランケットを広げ、アジェンダも生産性も「どこかにいるべき」という圧力もなく、ただ共に存在する。心身の疲弊が「何もしない許可」を人々に求めさせる段階に達したことが背景にある。休息はしばしば恥や罪悪感を伴うため、このクラブは燃え尽きた都市生活者が互いに休む姿を見られる安全で無料のサードプレイスとして設計された。運営は「7種類の休息」、すなわち遊びによる創造的休息、デバイスから離れる感覚的休息、充実した交流による社会的休息などに基づく感情調整の実践ツールも教える。「ハッスル文化を引退するなら、ここへ」が合言葉だ。眠りではなく、共にいる休息が新しいウェルネスの儀式になる。
平凡な日常を生きる「コーポレートガーリー」
The Safest Girl On The Internet | Bustle (Jun 30)
TikTok で「Corporate Girlie」と呼ばれるジャンルが急成長している。Big Four のコンサル、Big Law の弁護士助手、Big Bank のアナリストといった27歳前後の女性たちが、6時のアラームから8時56分の出社まで、「答えのないメール返信」「ぼんやりしたミーティング」を GRWM として投稿する。憧れも、セクシーさもない。「単に給料と職業の安定を示す」だけの動画で数十万人のフォロワーが集まる。Yahoo/YouGov 調査では、30歳未満でインフルエンサーになりたい人は5%に激減した (2023年の Z 世代調査では57%)。「ミレニアル時代のガールボス・フェミニズムから、Z 世代の夢へ、しかし現実は Aritzia とコールドブリュー」と記事は分析する。プロフィールに「勤務先とは無関係」と免責をつけ、実名を隠す。「見えるが安全であること」が新しい労働文化の形式となった。
Starbucks が組織化する「バリスタ・クリエイター」
Starbucks and its barista-creators are piloting TikTok’s new custom ad networks | Tubefilter (Jun 24)
TikTok が Cannes Lions 2026 で発表した「Custom Creator Networks」の最初の導入ブランドが Starbucks となった。広告主が従業員、パートナー、ブランド支持者を選抜したクリエイター群として組織し、キャンペーン概要を配布して、既存の投稿を広告に転換できる仕組みだ。Starbucks は2024年に「Green Apron Creators Program」を立ち上げ、従業員が仕事についての動画投稿で副収入を得られる制度を公式化していた。昨夏には「Global Coffee Creator」職を新設し、社内外から選ばれた2人が12ヶ月契約でミラノ、東京、コロンビア、ドバイの店舗文化を発信した。新ネットワークはその拡張で、バリスタたちは広告収益の分配を受けながらクリエイターエコノミーに直接参加する。グローバルマーケティング上級副社長エリン・シルボイは「パートナーの真正なストーリーテリングを称え、増幅する」と語る。従業員の自発的な投稿が、企業の広告インフラへと制度化されていく。
「子供が設計」した公園
What Happens When Kids Design Playgrounds? | The New York Times (Jun 27)
ニューヨーク市の Trust for Public Land が2002年から運営する Community Schoolyards プログラムで、市内225の校庭が子供による設計で改造された。総事業費は約2億ドル。生徒は「ジュニア・ランドスケープ・アーキテクト」として、プールやチョコレートファウンテンといった夢のリストから現実的な選択肢に絞り、実測して図面を作り、投票で決定した。ブロンクスの女子生徒は「男子がコートを占領してしまう」ためピンクのバスケットコートを設計、クイーンズの学校はハリー・ポッターに触発された等身大チェス盤を、ハーレムでは床に座ってヘアブレイディングをしていた女子のための階段状ベンチを設計した。ある中学は「内向的な人のコーナー」も作った。「単に本を読みたい人のためのガゼボと植物」だ。夢と実用の交渉が、大人の設計を超える。
中国の「ゴーストシティ」と若者
The young Chinese choosing life in ‘ghost cities’ | Financial Times (Jun 30)
中国の若者が、住宅バブル崩壊後の「半分空っぽの高層ビル」に活路を見出している。香港近郊の惠州の「Prosperous Lakeside Mansion」に住むオンライン英語教師のルビー・チェンは、100万元で建設されたアパートを月1300元 (約190ドル) で借りている。彼女は週10コマのオンライン授業で生活費を賄い、恋人とゲーム、裁縫を学ぶ。中国の住宅バブル崩壊で、上位100社の新築住宅販売額は2021年から2025年で72.7%減少した。ゴールドマン・サックスによれば販売可能な新築住宅在庫は7000万戸、加えて「シャドウ供給」が9000万〜1億戸で、2023年の年間新築販売量900万戸の10倍を超える。惠州のような3線・4線都市は、中国の「過剰建設」と「人口減少」の二重危機の最前線にある。
図書館があなたの「感情」を読む
Can a Library Read Your Mood? Wuhan Wants to Find Out | Sixth Tone (Jun 22)
中国の大手図書館が初めて、利用者の心の健康に特化した一角を設けた。武漢の湖北省図書館6階の「感情図書館」は、テーマ別の蔵書とデジタル装置を組み合わせる。利用者はタッチスクリーンで今の感情を選ぶか、知能カメラに感情状態をスキャンさせ、それに応じて本を薦められる。自然音や気分連動の音楽、療法的な庭、感情をテーマにした美術も置かれる。2月の試験開設以来、約4万人が訪れた。背景には精神疾患の増加がある。WHO によれば中国では約5400万人がうつ、4100万人が不安障害を抱える。公共機関が、本の貸出という伝統的役割を超え、現代生活の情緒的圧力に応えようとする試みだ。だが、感情をカメラに測らせ、AI の鏡に映して癒やされるという構図には、ケアの自動化という別の問いも潜む。
あなたの街に「メガスター」は来ない
Harry Styles and Other Megastars Now Expect You to Come to Them | The Economist (Jun 15)
ハリー・スタイルズの新ツアーは、68公演をわずか7都市で行う。前回の79都市から一変した。ロンドンのウェンブリーで12夜、ニューヨークで30公演を打つ。ビヨンセは「Cowboy Carter」ツアーの半分を3会場に集中させ、アリアナ・グランデは3か国しか回らない。背景は高騰するツアー費用だ。規制、人件費、燃料費に加え、観客が期待する大掛かりな舞台装置の輸送は高くつく。一か所に長く留まれば支出を抑え、利益を厚くできる。選ばれた都市には巨額の恩恵が落ちる。バークレイズの試算では、ロンドンだけでファンの支出は10億ポンド (13.4億ドル) に達する。逆にマンチェスターやコベントリーは日程から外れ、消費力ごと失う。それでもファンは自ら旅に出る。ウェンブリーの観客の25%はロンドン外から訪れ、28%は小旅行に仕立てる。音楽が安価に手に入る時代、ライブは信仰の巡礼となり、聴衆は文化観光客へと姿を変えた。
「5400万人」が複数から収入
Gen Z rewrites how Americans work, juggling multiple jobs and side hustles | Los Angeles Times (Jun 9)
Block Inc. の調査で、米国で複数の場所から稼ぐ人は5400万人に達し、2年前の4100万人から急増した。牽引する Z 世代は約16%が複数の仕事を持ちブーマーの5倍だが、単一雇用主を前提とする金融制度から排除されがちだ。
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子どもの頃に見た『ジュラシック・パーク』、エディ・ヴァン・ヘイレンの鮮烈なリフ、手のひらに世界を収めた iPhone、そして文章を書く相手になった ChatGPT。私がオフィスや働き方に関心を持ったのも、クライブ・ウィルキンソンのオフィスデザインに触れ、働く場所はこんなにも自由に構想していいのかと驚いたのが始まりでした。恐竜もギターも電話も AI もオフィスも、私にとってはすべてアメリカから届いた驚きだったのです。今号の FOCUS でソルニットは、アメリカを「無数の答えを持つ問い」「未完の実験」と呼びます。私が受け取ってきた驚きは、すべてこの実験の副産物だったのでしょう。その実験の国が、いま250年を前に立ち止まっています。次にアメリカが差し出す驚きは、私たちを喜ばせるものでしょうか。実験は、まだ終わっていません。

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