MeThreee[ミースリー]は、「次の時代の社会/働き方」を読み解くためのニュースレターです。
日本企業はなぜ「何でも」やるのか
Why Japanese companies do so many different things | David Oks (May 19)
トイレメーカー TOTO の純利益が、2026年第1四半期に前年比230%増えた。便器ではない。1988年から手がける静電チャック、半導体製造に不可欠なセラミック部品が、AI 向けメモリ需要の爆発で同社最大の事業になったためである。TOTO に限らない。京セラは碍子から人工骨や宝石まで、住友大阪セメントは人工漁礁から化粧品まで作る。日本企業はなぜ無数の異業種を、しかも高い精度でこなすのか。経済学者の青木昌彦は、これを米欧のH型企業とは別種の「J型企業」の論理として説いた。終身雇用、年功賃金、内部者中心の取締役会、外部資本への警戒が互いを強化する束を成す。H型が株主に報いるために存在するのに対し、J型は存続することそのものを目的とする。だから社員の仕事を絶やさぬよう、たえず新事業へ広がる。起源は戦時の「1940年体制」にある。漸進的な改良には無類の強さを持つが、パラダイムの発明は苦手で、部品をすべて揃えていたソニーはスマートフォンを生めなかった。米国の起業家的システムは、この非起業家的なシステムと組んではじめて完結する。
第二の「枢軸時代」に入りつつあるのか
We May Be Entering A Second Axial Age | Noema Magazine (May 12)
オットー・シャーマーは、いまを第一の枢軸時代に匹敵する断絶の時と見る。約2500年前、青銅器文明が崩れるなか、孔子、老子、ブッダ、ソクラテスらが並行して現れ、人間の内面という深みを開いた。今日、気候崩壊、大移動、戦争、変容的AIという複合危機が、同等の亀裂をもたらす。彼はこれを「社会の土壌」の枯渇と呼ぶ。規範の崩壊 (アノミー)、絆の断裂 (アトミー)、人間的能力の萎縮 (アトロフィー)。2026年だけで AI に2.5兆ドルが流れ込む一方、感受や関係や意味づけの側にはほとんど投じられない。AI で生成されたウェブページは新規の74%を超え、機械は自らが依存する生きた源泉を食い尽くす。第一の枢軸時代が個の内面を開いたなら、いま求められるのは集合的な内面の深化である。土壌が整えば、育つべきものが育つ。
W杯の背後にかくされた「データ労働者」
The AI-powered World Cup runs on thousands of data workers | Rest of World (Jun 23)
センサー内蔵のボール、AI によるオフサイド判定、48チームそれぞれの AI アシスタント。今大会の革新は、インド、カンボジア、フィリピンのデータ労働者に支えられている。マニラやチェンナイのアノテイターが、1試合3〜4時間かけて、あらゆるパスやタックルを構造化データに変える。1試合で最大3000の動作が記録される。多くは現役の選手で、副業として欧州リーグの試合をタグ付けする。トロント大学のラファエル・グロマンは、高付加価値の分析は一握りの富裕な中心地に、注釈作業は東欧、アフリカ、南・東南アジアに集中すると指摘する。リオの作業員は、自分が記録するデータが賭けのためだと明かす。1試合70ドル、リアルタイム性が命で、遅れれば報酬を失う。約90億ドルを生む史上最も儲かる大会は、選手と同じく、見えない労働で動いている。
Z世代が「沈黙」を買い求める
Why Gen Z is paying for silence | Reuters (Jun 16)
29歳のニーヴ・ドネリーは、新しいセルフケアとして沈黙を求めた。バリ島のサイレント・リトリートで端末を預け、カフェインも砂糖も断つ。「時間の概念がなくなるのが一番つらい」と彼女は言う。3日間で約100ポンド、数千ポンドのものもある。McKinsey の2025年調査によれば、米成人の36%を占めるZ世代とミレニアル世代が、年間ウェルネス支出の41%超を牽引する。注目すべきは、その動機が経済的不安と結びつく点だ。住宅も家族も長期的な安定も手の届かぬ世界で、彼女は制御できるものに集中する。「私のウェルネスは私の管理下にある」。ファイナンシャルプランナーは、借金してまで通うなと釘を刺す。家を買えない世代が、沈黙という制御可能な小さな確かさに、購える範囲の安らぎを買い求めている。
中国の「一人会社」は革命か失業か
China’s OPC Surge: entrepreneurial revolution or unemployment in disguise? | Baiguan (Jun 23)
AI を梃子に、たった一人で会社を回す。米国発の一人会社 (OPC) が、中国で経済的な力を帯びて着地した。2025年末までに約732万社が新規登録され、前年比42.3%増えた。背景には AI コード生成の経済性がある。AI ツールに1ドル払う仕事に、人間の開発者なら約72ドルかかる。創業者の75%は非技術系で、短編ドラマ生成や越境EC が定番だ。深圳では「下の階が次の工程」という製造業との近接が強みになり、ある大卒者は45日で AI スマートウォッチの試作機を作った。だが影もある。中国では2億人超が「柔軟雇用」に従事し、労働者の約4人に1人を占める。カフェを埋める20代30代は、自立した起業家なのか、ただ食いつなぐ者なのか。ネット民は冷ややかに言う。OPC 創業者は要するに「個体戸」だと。改革開放期の露天商を指すその語は、まともな職に就けない者という含意を長く帯びてきた。
読めない時代に「書店」が増える
A Bookstore Boom in a Time of Literacy Decline | Literary Hub (Jun 12)
二つの事実が矛盾して見える。米国の高校卒業生の読解力は NAEP 史上最低に落ち、約3分の1が基礎以下だ。なのに独立系書店は2020年以降70%増え、約1900店から3200店超になった。作家エレン・オコネル・ホイットは、この共存を解きほぐす。一つは階級と地理だ。書店に通えるのは余裕のある層で、危機は資源の乏しい学校や地方で進む。大卒の88%が年に1冊読む一方、高卒以下は60%にとどまる。もう一つは、本が読むものでなく商品へ変わったことだ。棚のための限定版、BookTok のバズ。だが最も人間的な説明は孤独である。書店は、技術が約束して裏切った繋がりの空白を埋める第三の場所になった。しかし年にブッククラブに参加した成人は7%にすぎない。人が求めるのは、文学的共同体の実践より、その感覚かもしれない。豊かな沿岸都市の書店の列を、読書文化と取り違えてはならない。
退職後の生活が「オンライン化」する
The modern American retirement is online | Business Insider (Jun 14)
ゴルフコースではない。退職した高齢アメリカ人が、いまアプリ開発やチャットボットとの対話に没頭している。ノースダコタの元小売業者ブライアン・レゼンデスは64歳で退職し、一日のほとんどをアプリ作りに費やす。AARP の調査では、50歳以上のスマートフォン保有率は2016年の55%から2025年に90%へ跳ね上がり、AI 利用は2024年の18%から翌年30%へほぼ倍増した。退職コミュニティは水彩画を AI 教育に、ゴルフを AI 起業に置き換えた。末期がんの宣告を受けたテキサスの72歳は、残された時間を豊かに生きるため AI を使う。だが影もある。65歳以上の孤独は2018年の35%から40%へ増え、その一因はスマホ依存とも見られる。Z世代が初めてネットで育った世代なら、ベビーブーマーは初めてネットで退職する世代になりつつある。
Pokémon Go が「軍事ドローン」を導く
Pokémon Go data trained AI that could assist military drones in war zones | The Guardian (Jun 12)
拡張現実ゲーム Pokémon Go が集めた地形スキャンが、紛争地でドローンの自己位置推定を助ける AI の訓練に使われていた。2021年の更新で、プレイヤーは実在の場所をスキャンすると報酬を得られるようになった。任意参加だった。開発元 Niantic はこのデータで物理空間を認識する AI を訓練し、スピンオフの Niantic Spatial は2025年12月、軍用ドローン向け空間検知を手がける Vantor と提携した。GPS が妨害・偽装される戦場で自律的に位置を保つためである。Vantor は2026年2月、米陸軍と最大2.17億ドルの契約を結んだ。Niantic はゲーム部門を35億ドルでサウジ資本の Scopely へ売却済みだ。専門家は、無料サービスにおいて利用者は顧客ではなく売られる商品だと指摘する。Strava の運動データが軍事施設の位置特定に使われた前例もある。
大人たちが「サマーキャンプ」に戻る
Adults are going back to summer camp | The Economist (Jun 18)
大人向けの泊まりがけサマーキャンプが急増している。ペンシルベニアの Camp Social では、友情ブレスレットやタイダイ染め、ハイキングに大人たちが興じる。2025年、この種の週末旅行の検索は Yelp で約350%増えた。フランスの Camp Château など欧州にも広がる。背景は三つある。現代生活からの避難、Camp No Counsellors は「予定も締切も一通の業務メールもない楽しさ」を謳う。子ども時代への郷愁、マシュマロと二段ベッドが象徴する「キダルティング」。そして現実の繋がりへの渇望である。米国では親しい友人が減る「友情不況」が懸念される。Camp Social は「99%が一人で来て、100%が友人になって帰る」と掲げ、最も伸びる年齢層は40〜70代だという。長い週末で約1,000ドル。スクロールを措いて見知らぬ世代と語らう時間に、人は所属の感覚を買い戻している。
Z世代の「45%」が意味か目的を欠く
Many Gen Zers Missing Sense of Meaning or Purpose in Life | Gallup (Jun 24)
Gallup らが Z 世代へ行った調査で、人生に意味を感じる人は66%、目的を感じる人は62%だった。最大の予測因子は他者への貢献実感で、強く実感する層は欠く層の3〜4倍、意味や目的を感じやすい。79%が人助けを軸とする仕事を望むが、低賃金 (49%) と精神的負担 (46%) が障壁となる。
プラットフォームが「初めて」TV を抜く
Digital News Report 2026 | Reuters Institute (Jun)
Reuters Institute の調査で、ニュースの情報源として初めて、プラットフォームがテレビやニュースサイトを世界で上回った。ニュースへの信頼は平均37%へ3ポイント下がり、米国では4人に1人しか報道をおおむね信頼していない。ニュースを意図的に避ける人は42%に上る。
Expedition Impossible:カンヌライオンズ受賞作。Columbia が地球平面論者に「証明したら会社を譲る」と挑む
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中国の宅配便:農民たちのチャイナ・ドリーム
「物語消費論」集成 1989-2021:大塚英志の消費社会論アンソロジー
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いわゆる JTC に勤めているわけですが、先日の社内会議で、自分たちは「いったい何の会社なのか」という話になりました。文具に始まり、家具、通販、不動産まで、ずいぶん遠くへ来たものだと誰かが言い、笑いが起きました。FOCUS で扱った記事を読んで、その笑いが少し違って見えています。日本企業がこうも何でもやるのは、株主に報いるためではなく、存続そのものを目的とするからだ、というのです。社員の仕事を絶やさぬよう、たえず新事業へにじり広がる。とりとめのなさは、生き延びるための形だった。ただ、その形を支えてきた終身雇用に、いま当の日本企業がそろそろと別れを告げ始めています。ジョブ型へ、個人の成果へ。流れは AI が一人で会社を回す時代とも、たしかに地続きです。けれど束を一本だけ抜けば、残りの結び目もほどけていく。終身雇用を手放したあとの日本企業に、いったい何の良さが残るのか。あの笑いの底で、その問いだけが消えません。

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