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MeThreee · Jun 21, 2026

#207:「強化された自己」という身体観

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MeThreee[ミースリー]は、「次の時代の社会/働き方」を読み解くためのニュースレターです。

「強化された自己」という身体観
The Cult of the Enhanced Self | Derek Thompson (Jun 18)
デレク・トンプソンは、米国に広がる健康への執着を「強化された自己」と名づける。医療は病を治す営みから、健康な身体を最適化する営みへ移った。糖尿病薬 GLP-1 が普通の人の食欲を抑える道具となり、TRT 処方は2019年の730万件から2024年に1,100万件超へ増えた。飲酒率は1939年以来の最低を記録し、35歳未満の3分の2が酒は少量でも有害だと答える。この運動は三つの柱を持つ。最適化という新しい美徳、階級指標としての健康、そして「自己の最高経営責任者」として身体を経営する態度である。VO2 max、握力、Zone 2、DEXA スキャン。かつて運動生理学の教科書にあった語彙が、夕食の会話に移住した。哲学者 C・ティ・グエンいわく「測定は情報を圧縮するがゆえに有用で、圧縮するがゆえに危険」だ。Ouraリングが睡眠を点数化するとき、計測できる健康のゲームが、計測しにくい人生のゲームを侵食する。もっと眠る最善の方法は、夜に友と会わないことだ。死を遠ざける孤独な算術が、いま此処の濃密さを薄れさせていく。

AI による「労働無限化」
America Is Headed Toward the Infinite Workweek | The Atlantic (Jun 18)
AI コーディングエージェントは作業を肩代わりし、時間を生むはずだった。現実は逆である。プログラマーのスティーブ・イェッギは自らの仕事を「AIのお守り」と呼ぶ。複数のボットを同時に走らせれば休む間もなく、日中に90分の昼寝に倒れ込む。ボストン・コンサルティング・グループが約1,500人を調査したところ、開発者の18%が AI 起因の疲弊を報告した。ある管理職はその感覚を「頭の中で12個のブラウザタブが注意を奪い合う」と表す。BCG のマシュー・クロップは、結果の読めないエージェントへの依存を「ギャンブルに近い」と述べる。可変報酬がドーパミン回路をハックするのだ。マーク・アンドリーセンは「眠る機会費用が高すぎる」と語った。生産性向上の道具が、眠らぬボットを通じて労働を無限へと拡張する。

「ベタつく」デザインの時代
The Glitchy, Gloppy Look of Now | The New York Times (Jun 17)
ミレニアル世代を象徴したブランディングの美学が後退している。2016年、Warby Parker や Glossier はきれいなサンセリフとミレニアルピンクで自らを語った。いま台頭するのは、その対極にある「Hyper Goo」だ。シャンプーやピクルス瓶の文字がラバランプのように溶け、彩度はリサ・フランクを驚かすほど高い。背景には磨かれすぎたものへの不信がある。クリエイティブディレクターのゲール・アイトールいわく、清潔な見た目は「VC 資金、もっと悪ければ AI の匂いがする」。Teen Vogue のミアン・チャンは、AI 画像の氾濫が、人間が作った証拠への渇望を生んだと見る。手描き文字やキモかわいいコレクタブルへの傾斜はその表れだ。完璧な滑らかさが機械の記号となった世界で、歪みと不格好さこそが人間性の刻印として選び直されている。

スポーツから「ジャーナリズム」が消える
Welcome to the post-journalism era of professional sports | Poynter (Jun 12)
プロスポーツがポスト・ジャーナリズム期に入った。なぜ選手は記者の取材を避けるようになったのか。第一に、直接発信の手段が整った。2014年にデレク・ジーターが立ち上げた The Players' Tribune 以降、選手は SNS やポッドキャストでフィルターなしにファンと繋がれる。第二に、コロナ禍が決定的だった、安全を理由に閉ざされた更衣室は元の開放度に戻らなかった。第三に、スマホとアルゴリズムの時代には、発言が切り取られ悪意で再構成される。誰が報じたかは関係ない、若者はメディアと SNS を区別しないからだ。NBA ファイナルに進んだビクター・ウェンバンヤマは記者会見でしか語らず、一対一には応じない。WNBA のエンジェル・リースは「追い詰められるより罰金を払う」と自前のポッドキャストを選ぶ。検証なき直接発信が広がるとき、失われるのは英雄を人間に見せていた綻びと複雑さである。

空港が「禅」を探す
The Airport Seeks Its Zen | Bloomberg (Jun 19)
空港デザインが、飛行への不安をやわらげる方向へ深化している。象徴は保安検査の直後、ベルトと靴を整え直す「リコンポージャー・ゾーン」だ。調査では最大40%が飛行恐怖を抱える。年50億人を運ぶ空港は、緑、自然光、吸音カーペット、感覚過敏者のための静室で旅客を鎮める。鍵は売上でもある。「人は寛いでいる時しか買い物をしない」と設計者は言う。ポートランドは木造屋根で北西部の森を、ベンガルールは「庭の中のターミナル」を立ち上げる。色も効く、赤は危険を、青は信頼を喚起するため保安区域には青が選ばれる。ただしアメニティは均等に分配されない。ラウンジや優先審査が公共空間を削り、残された場所に圧がかかる。「12時間遅延の後では、どんな植物も気分を直さない」。

空のオフィスを夜だけ「家」に
French Companies Are Inviting Homeless People to Sleep in Their Offices | Reasons to be Cheerful (Jun 15)
ナントの広告代理店を率いるピエール=イヴ・ロアエックは、暖房も台所もシャワーもある自分のオフィスが夜は空く一方、駐車場で女性が野宿する矛盾に苛まれた。問いは形になった。なぜ無数のオフィスが夜ごと空くのに、安全に眠る場のない人がいるのか。非営利「Bureaux du Coeur (心のオフィス)」は、使われない執務空間を一時的な宿に変える。いまフランス40都市の400社が参加し、リスボン、バルセロナ、ブリュッセルにも広がる。2019年以来1000人超を支え、約16万泊を提供した。会議室や休憩室が夜だけ寝室になる。元ホームレスのアランは、雇用喪失と鬱で全てを失った2年間、人から怒鳴られるか無視されるだけだった。同社の社員は彼と会話した最初の人々だった。リモートワークが職場の絆を弱めた時代に、空間の余白が忘れられた歓待の伝統を甦らせる。

英国のニートが「100万人」に
Inside the Mind of a Young NEET | One Million Futures (May 21)
英国で就学・就労・職業訓練のいずれにも属さない若者 (NEET) が100万人に達した。コロナ禍が社会化と就労経験の数年を奪い、就職では未経験不可の壁に阻まれ、数百通の応募が無視された。これは福祉問題でも雇用統計でもなく、国家的怠慢の物語だと報告書は結ぶ。

Songtsam Linka Retreat Kunming:建築家 王澍がデザインした昆明のリトリート
路上、お邪魔ですか?:路上観察学会、再び召喚
天下の今日性:天下という概念から世界秩序の現在を問い直す
死の都市:マイク・デイヴィス新著、都市と滅びを読む
The Social Reckoning:『The Social Network』続編は内部告発もの

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デレク・トンプソンの記事に、米国の飲酒率が1939年以来の最低を記録し、35歳未満の3分の2が「酒は少量でも体に悪い」と答えた、とありました。健康のために酒を断つ。それが新しい美徳なのだそうです。読みながら、少し複雑な気持ちになりました。私はもともと下戸で、意志でも規律でもなく、ただ体が受けつけない。若い頃は、付き合いが悪い、ノリが悪いと、どこか引け目のある側でした。それがいつのまにか、何ひとつ努力していないのに、体質のほうが美徳に格上げされてしまった。最適化とは、本来そこにない規律を自分に課すことのはずです。規律がもとから不在の私は、その隊列のどこに並べばいいのか、いまだに分かりません。

Read the original on methreee.substack.com

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