MeThreee[ミースリー]は、「次の時代の社会/働き方」を読み解くためのニュースレターです。
人類進化論は「文化が最初」へ
Harari vs. Henrich | In Due Course (Jun 13)
哲学者ジョゼフ・ヒースが、『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリと進化人類学者ジョセフ・ヘンリックの人類進化論が「完全に逆向きの説明順序」を採ると指摘した。人類を他の動物から区別する4つの特質、知性、言語、協力、文化が、進化のタイムラインの短さから独立に出現したとは考えにくく、既存の霊長類能力へのひとつの「小さな改変」から連鎖的に派生したと考えるしかない。ハラリは知性 → 言語 → 協力 → 文化の順を採るが、知性の起点では巨大脳のコストを正当化できず、言語を偶然の変異とするのは最初の話者の相手を説明できず、協力を言語の結果とするのはゲーム理論的に逆向きである。一方、ヘンリックの順序は文化 → 協力 → 言語 → 知性で、起点は「模倣性」という小さな改変だ。人間の幼児が内容を理解せずに他人を模倣することで、ツール製作手順が個人の知性を超えて累積する。「成功者を模倣する」「多数派を模倣する」社会学習バイアスが集団内の同質性を高め、集団間競争を通じて協力的な文化が選択され、自己家畜化のプロセスを通じて生物学的にも我々を変えた。人類進化論の最先端は「文化が最初」の方向に動いている。
「漢方バー」で夜遊びする
Barmacy: Gen Zs Are Getting Healthy While Getting Drunk | Radii (Jun 10)
中国の都市で「TCM (Traditional Chinese Medicine:伝統中医学) バー」が流行している。先駆店舗の Niang Qing では、グラスに薬草が浮かぶカクテルが提供され、客は脈診を受け、店員から全身診断を提案される。これは中国の Z 世代が長年実践してきた「Punk Wellness (パンク・ウェルネス)」の最新形である。激しい労働環境のなかで、安いビールにクコの実を入れたり、深夜残業後にビタミン B を一気飲みしたりする逆説的な健康志向の延長線上にある。同世代は自らを「Cuipi (脆皮)」と呼ぶ。「カリカリで脆い」という意味で、不健康な状態の自虐的表現だ。「自分たちを破壊していると知りつつ、同時に救おうとする」というパラドックスが言語化される。漢方カクテルが燃え尽きを治すわけではないが、努力している気分にはさせてくれる。
「24時間銭湯」を避難所に
Why Young Chinese Are Flocking to Bathhouses | Sixth Tone (Jun 3)
中国の都市部で、若い世代が24時間営業の銭湯に通い、宿泊や論文執筆、企業の合宿まで行う現象が広がっている。Meituan の調査では、銭湯市場が4年連続で成長し、2025年には1100億元を突破、スパチケット購入は前年比2割増、「女子会」と「企業チームビルディング」の検索数は230%増加した。Z 世代が顧客の28%を占める。江西省出身の若者は「中堅ホテルは1泊500元、銭湯なら入場150元プラス宿泊50元で済む。化粧せず、空腹なら食べられる」と語る。銭湯は温泉、サウナ、KTV、ビデオゲーム、季節の果物、点心の食べ放題を備える。Xiangshanghui Hotel Group の社長ジャオ・シュエワンは「服を脱げば、見えない殻も脱げる。同じ制服を着れば、階級は消える」と語る。KPI と画面に追われる若者が、裸の平等と物理的接触を新しい癒しとして購入し始めた。
米国の「ソフトパワー」が失われた
The World Cup Paradox | The Economist (Jun 10)
6月11日に開幕した男子サッカー World Cup を機に、The Economist が米国のソフトパワーの黄昏を論じた。視聴者は「エンターテインメントはグローバル化し、米国は中心にある」と感じうるが、両方とも誤りだと主張する。NFL の媒体権利収入の98%は国内由来、英国プレミアリーグは欧州で唯一国外収入が国内収入を上回る例外だ。ブラジルではストリーミング上位100組のうち96組がブラジル人アーティストだった。Netflix と Amazon の新規配信作品の北米シェアは6年前の70%から36%に半減。YouTube のトレンド動画の4分の3は1か国でしかトレンドにならない。インドの YouTube 投稿の半分超がヒンディー語以外の言語だ。米国は YouTube やアプリストアの支配を維持するが、コンテンツの覇権は失った。「アメリカの100年に及ぶグローバルポップカルチャー支配は終わった。ブラジルが音楽を、韓国がテレビを、中国がゲームを埋めつつある」と記事は結ぶ。
「テック巡礼」がシリコンバレーから上海へ
China’s tech rise is creating a new kind of tourism | Rest of World (May 28)
シリコンバレーに向かったテック起業家、投資家、技術者の巡礼路が、上海、杭州、深圳に書き換わりつつある。3~5日間の日程で9000ドルに達するカスタムツアーが、BYD、Unitree Robotics、DeepSeek の工場と研究所を回り、幹部との個別 Q&A を組み込む。中国の人型ロボットや空飛ぶ車の SNS 動画が、西側を凌駕する技術力という認識を生み、訪問を加速させる。ニューヨーク大学のシャオユー・ユアンは「BYD の垂直統合についてレポートを読むのと、工場を歩くのは別物だ。情報的劣位の恐怖が訪問を促す」と分析する。上海拠点の GloPen 創業者ボヤン・シェンは18か月で1000人以上を案内した。ドイツ首相メルツは Unitree のロボットがカンフーを披露する映像で、米国 YouTuber の iShowSpeed は深圳の空飛ぶドローン車試乗動画60万再生で、それぞれ中国のソフトパワー演出に巻き込まれた。技術の主導権が地理的に移動する瞬間が、観光商品として消費可能になった。
「ドキュメンタリー映像作家」がテックの熱い職業に
Tech’s hottest job: Documentary filmmaker | Business Insider (May 14)
AI への世論が冷え込み、FTX や Theranos のスキャンダル記憶が新興企業への猜疑心を高めるなかで、シリコンバレーが自社の物語を映像で直接語る動きを強めている。洗濯物を畳むロボット Lume を開発する Syncere は商品発売前に10分のドキュメンタリーを Offscript 制作で公開し、発売動画は X で100万再生を超えた。Offscript のアリ・グーチは「ローンチ動画はパブリックビルディングの高級版だ。すべては『Authenticity (真正性)』に帰着する」と語る。Lightspeed の CMO は「シリコンバレーの AI の今この瞬間、自社の歴史を記録しなければならない」と説く。フロンティア AI ラボはコミュニケーション職に約50万ドルの年収を提示し、Andreessen Horowitz は New Media チームで自社の1日8時間のニュース番組を配信する。創業者が伝統的メディアを迂回し、自らの物語を直接届ける段階に入った。
「フレイセクシュアル」という性的指向
Rise of the fraysexuals: how sexual interest fades in some long-term relationships | The Guardian (Jun 11)
12年前に生まれた性的指向の新カテゴリ「Fraysexuality」が、最近になって急速に広まりつつある。「Sapiosexuality (知性に惹かれる性的指向)」と対照的に、Fraysexual はよく知らない他人に性的に惹かれる傾向を指す。見知らぬ人が持つ未実現の可能性に魅力を感じる一方、関係が深まると性的興味が消える。米国の Psychology Today によれば、Fraysexual は「Attachment Disorder (愛着障害) や Intimacy Disorder (親密性障害) として精神医療の現場で不当に病理化されている」と指摘される。背景にはマッチングアプリの普及があるとの分析もある。プロフィール上の情報の少なさが相手に欲望を投影する余地を生み、実際に会って詳細が判明した瞬間に興味が消える、という構造である。性的アイデンティティの細分化が、孤独と関係性疲労の時代の自己定義として機能し始めた。
「ガソリンスタンド」に食べに行こう
Why Your Next Great Meal May Be at a Gas Station | The Wall Street Journal (Jun 5)
米国のガソリンスタンドが、温まりすぎたホットドッグと塩分過多のスナックの代名詞から脱却し始めた。コンビニ食材で作る「Car-cuterie (車版シャルキュトリー)」が SNS で広がり、煙草使用率の過去最低水準とビール売上の軟化を受けて、全米15万2000店超のコンビニが食事プログラムへ転換している。背景には電気自動車所有者の充電中の長居や、燃費の良い車の給油頻度減少という構造変化がある。市場調査会社 Technomic は「95%の事業者が食事提供を戦略的優先事項と認識し、80%が食事プログラムの成功が店舗全体の成功に直結すると答えている」と語る。コンビニの店内売上のうち食事の比率は2021年の23%から2025年に29%へ上昇。Casey's General Store の朝食ピザ、Buc-ee's の14時間燻製ブリスケットサンドイッチ、Wawa のイタリアン・ホアギーが定番として浮上する。ガソリンスタンドが米国の道路文化の中心へ復帰する動きが始まった。
『SIRAT』を観てきました。圧倒的な没入感と容赦のない展開に呆然としつつ、その場には10人ほどしか観客はいなかったのですが、自分でも驚くほど見た目や持ち物の類似性が高く、これがアルゴリズムの力と妙に納得するとともに一抹の寂しさと薄気味悪さを感じてしまいました。今号 FOCUS のジョセフ・ヘンリックの説によれば、人間は元来「成功者を模倣する」「多数派を模倣する」社会学習バイアスを持つ種です。であれば映画館の10人の類似性は、アルゴリズムが作り出した特殊な現象というよりも、200万年かけて磨かれた人間の傾向が現代の技術と出会って可視化されただけなのかもしれません。薄気味悪さを感じたのは、おそらく自分が「模倣する側」であることを見せつけられたからでしょう。それでも自分の足で映画館まで来た自分のことを、少しだけ肯定したいと思います。

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