最近、会社の事業や組織の構想を見直したり、AIと人が協働する仕組みを整えたりするなかで、「何をよしとするか」を言葉にする場面が増えました。
売上、効率、制作量。数字は現在地を知り、次の行動を決めるうえで欠かせません。同時に、信頼、文化、問い、関係性のように、時間をかけて育ち、簡単には数えられないものもあります。組織を動かす判断には、経済の合理性、働く人の合理性、社会の合理性、未来の合理性が折り重なっています。
自分たちの物差しは、「現時点では、これを大切にする」という暫定的な合意として形になるのだと思います。複数の価値を抱えたまま考えること。わからない状態にとどまり、答えを急がないこと。対話を続けられるだけの心の余力を保つこと。どれも、簡単ではありません。
余力がなくなるほど、測りやすい指標や、すでに広く使われている正解へ判断を預けたくなります。けれど、そこで見えにくくなるものにこそ、その組織らしさが宿っていることがあります。自分たちの歴史や実践を振り返り、外からの問いにも耳を傾けながら、何を成果として数えるのかを言葉にしていく。その往復が必要なのでしょう。
AIとの協働を考えると、この物差しの存在はさらに重要になります。AIは、言葉になった基準を参照して仕事を進めます。その基準を育て、例外を引き受け、実践の結果を受けて更新することは、人間が担う判断として残ります。
物差しは、判断の理由を残し、実践の結果を振り返るたびに更新されていきます。いま、私たちは何を成果として数え、何をまだ数えずに守ろうとしているのか。そんな問いを、持ち続けたいと思っています。
今週のテーマは、「働くための思考法」。
変化が激しく、正解のない時代。働く私たちには、スキルだけでなく、物事の捉え方や考え方がますます求められています。
挑戦するための心のエネルギーをどう育むのか。矛盾する価値とどう向き合うのか。答えの出ない問いをどう抱え続けるのか。
今回は、これからの働き方やチームづくりを考えるヒントを与えてくれる、3つのシグナルを紹介します。
「スピードか、丁寧さか」「自由か、管理か」「安定か、挑戦か」
私たちは仕事のなかで、どちらか一方を選ばなければならないような場面に数多く直面します。
舘野泰一さんと安斎勇樹さんによる『パラドックス思考』は、そうした二者択一に陥るのではなく、問題の背景にある「パラドックス(矛盾)」に着目し、複雑な課題と向き合うための思考法を紹介した一冊です。
本書では、「切替戦略」「因果戦略」「包含戦略」という3つのアプローチを通して、「どちらかを選ぶ」のではなく、「どうすれば両立できるか」を考える視点を提案します。
変化が激しく、正解のない時代だからこそ、矛盾を解消しようとするのではなく、矛盾とともに考え続けること。その姿勢が、新しい発想や組織の可能性を切り拓くヒントになります。
私たちは、わからないことがあると、すぐに答えを見つけたくなります。しかし、本当に大切なのは、答えを急がず、その「わからなさ」とともにいることなのかもしれません。
精神科医であり小説家でもある帚木蓬生さんの『ネガティブ・ケイパビリティ』は、不確実さや矛盾、答えの出ない状況に耐え、その状態にとどまる力について書かれた一冊です。著者は40年以上にわたる精神科医としての臨床経験を通して、深い共感は、安易な解決ではなく、相手の苦しさや迷いに寄り添い続けることから生まれると語ります。
ネガティブ・ケイパビリティとは、宙ぶらりんの状態に耐え、その先によりよい理解や解決があると信じて考え続ける力のこと。すぐに結論を出そうとすると、大切な問いや可能性を見落としてしまうことがあります。
迷いや曖昧さを受け止めながら考え続ける姿勢は、働く私たちにとっても、リーダーシップを発揮するうえでも欠かせない力になっています。
私たちは、「やる気さえあれば頑張れる」と考えがちです。しかし、本当に必要なのは、やる気ではなく、それを支える「心のエネルギー」なのかもしれません。
株式会社コーチェット代表で、メンタルヘルスケアサービス「cotree」の創業者でもある櫻本真理さんによる『なぜ、あなたのチームは疲れているのか? 職場の「心理的リソース」を回復させるリーダーの思考法』は、働く人の「見えないエネルギー」に着目した一冊です。本書では、「心理的リソース」を「面倒くさいけど、やるか!」と思える心のエネルギーと定義し、それは時間やお金と同じように有限な資源であると説いています。
やる気は無限に湧いてくるものではありません。不安や疲労、曖昧な指示、人間関係の摩擦によって心理的リソースは少しずつ削られ、本来の能力や創造性を発揮しにくくなります。
だからこそリーダーに求められるのは、人を追い立てることではなく、一人ひとりが安心して挑戦できる状態をつくること。成果だけでなく、人の心理的リソースにも目を向けるという視点は、持続可能なチームづくりや共創だけでなく、私たち一人ひとりの働き方を見つめ直すヒントも与えてくれます。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
inquire Letterのご購読はこちらから
各種SNSでも情報を発信しています。こちらもぜひフォローをお願いします。
Instagram
https://www.instagram.com/inquire_jp/
インクワイアでは、クリエイティブ・リソース・ライブラリ「inquire.jp」の運営に加え、クリエイティブスタジオ「inquire Studio」などさまざまな活動を行っています。なにかご相談のある方は、ぜひお気軽にお声がけください。

Comments
Nothing yet. Say the first thing.
Sign in to join the conversation.