MeThreee[ミースリー]は、「次の時代の社会/働き方」を読み解くためのニュースレターです。
「人工国家」は必然ではなかった
Democracy v the machine: the birth of the digital age and the warnings that were ignored | The Guardian (Aug 18)
1958年、ニューヨークの広告マンと MIT の政治学者が、国勢調査と選挙結果と世論調査を集めて米国の有権者全体を模擬する機械を構想した。翌年設立されたシミュルマティクス社は自らを「社会科学の原子爆弾」と呼び、ケネディ陣営に使われ、1970年に倒産する。歴史家ジル・レポアは新著『The Rise and Fall of the Artificial State』で、この系譜の行き着く先を「人工国家 (artificial state) 」と呼ぶ。自由民主主義の国家は、市民が議論し同意を与えることで成り立つ建前を持つ。人工国家はその手続きを飛ばす。何を望むかをデータから予測できるなら、尋ねる必要も議論を待つ必要もない。市民は説得の相手ではなく、計算の対象になる。警告は半世紀にわたり繰り返された。それでも退けられたのは、1990年代にシリコンバレーが国家の規制を敵視するテクノリバタリアニズムに傾き、その思想に沿って規制の仕組み自体が畳まれたからである。1995年、米議会は新技術の影響を事前に評価する技術評価局を閉鎖し、翌年の通信法がほぼ無規制のインターネットを確定させた。人工国家は技術の必然ではなく、規制を選ばなかった結果である。
「手の跡」が価値になる
The “ugly” Chinese movie challenging The Odyssey at the box office | Domus (Aug 19)
中国のアニメーション映画『牛来』が8月5日に公開された。粗い造形と筋書きの混乱が嘲笑を集め、その嘲笑が広まって客を呼び、累計興行収入は1,450万元を超えている。監督のシン・ユーモンと脚本のスン・リーファンは親子で、映像も声も音楽も2人で5年をかけて作った。ある評は、人間の作った災害を90分見るほうが AI の生成物を1秒見るよりましだと書いた。同じ夏に公開されたクリストファー・ノーランの『オデュッセイア』は、規模こそ正反対だが、高さ6メートルの単眼巨人と4トンの木馬を実際に組み、デジタル処理を避けている。観客が反応しているのは作品の出来ではない。そこに人の手が加わったかどうかである。
共通点のないという「第五の場所」
Were Third Places Actually Deeply Segregating? | The Urban Design Brief (Jul 19)
レイ・オルデンバーグのサードプレイスには前提があった。属性を共有する集団が先に存在し、場所はそれを受け止める。都市デザイナーのカリーナ・ベラ・キンズマンは、この前提が四つの力で崩れたと整理する。パンデミックが常連の規則性を断った。リモートワークが家と職場の境を溶かした。会釈や礼のような低リスクの接触は、第四の場所 (Fourth Place) となったデジタル空間に置き換わった。そして、他人に声をかける費用が、見返りを上回った。彼女が「第五の場所 (Fifth Place) 」と呼ぶのは、清掃工場の屋上にスキー場とクライミングウォールと飲食店を重ねたコペンハーゲンのコペンヒルである。共通点があるから集まるのではない。別々の用事で来た人間が同じ場所に居合わせる状態を設計している。
「履歴書」が求められる大学サークル
Even College Students Have Stopped Hanging Out | The Atlantic (Aug 17)
UCLA 高等教育研究所の調査で、週6時間以上をパーティーに費やす4年生は1994年の32%から2026年に21%へ減った。友人と対面で6時間以上過ごす割合も74%から65%へ落ちている。大学で学生のコミュニティ支援を担った職員は、課外活動の性質が変わったと指摘する。成績が上振れして学業で差がつかなくなり、活動歴が雇用主に示す差別化の手段になった。学生団体は加入希望者に履歴書と面接、模擬課題を課す。団体が1,000を超えても孤独は収まらないという。人と知り合うために入る場所が、選考を通らなければ入れない場所になっている。
「ホビーアモリー」という生き方
For Some Singles, ‘Hobbyamory’ Has Replaced Hookups | The New York Times (Aug 9)
交際よりも複数の趣味に時間と可処分所得を注ぐ独身者がいる。同紙はこれをホビーアモリー (hobbyamory) と名づけた。趣味と、複数愛を指すポリアモリー (polyamory) を掛けた造語である。同紙の集計では、米国の TikTok で #hobbies の投稿が2026年に入って前年比約15%増、#grandmahobbies は400%以上増えた。臨床心理学者アレクサンドラ・ソロモンは、この10年の交際を担ってきた出会い系アプリに対する集団的な軌道修正だと見る。恋愛を拒んでいるわけではない。順位が下がっている。交際は生活を組み立てる中心ではなく、組み上がった生活に後から加える選択肢になりつつある。
乖離する「ビッグマック指数」
The Big Mac index at 40 | The Economist (Jul 30)
同じ商品の値段は世界中で平均化する。その前提を1品目で確かめる試み「ビッグマック指数」は1986年に始まった。40年目を迎える集計では、米国で6.22ドルの同じ商品がスイスで9.04ドル、台湾で2.42ドルになる。スイスフランは45%割高、台湾ドルは60%以上割安で、乖離の幅は1990年代半ば以降で最大に開いた。数百品目を調べる IMF の購買力平価でも、各国平均の物価は2025年に米国の56%と、40年で最も差が開いている。差の主因は貿易できないもので、玉ねぎの価格差が2割なのに対し、スイスの家賃は台湾の3倍を超える。平均化される前提で作られた物差しが、40年かけて記録したのは開きのほうだった。
「ゴーストポスティング」という退避
Is the grid dead? How young people are changing the feed | Dazed (Aug 14)
Instagram のアーカイブ機能は2017年、消したくない投稿を人目から外すために導入された。若年層はこれを逆の順序で使う。投稿し、すぐアーカイブへ移し、しばらく経ってから戻す。「ゴーストポスティング」と呼ばれるこの操作では、投稿は他人のフィードに流れず、反応も伸びない。取材に応じた23歳は、自分専用のムードボードだと説明した。技術者ショーン・ティーレン=エスパルサは、いまグリッドへの投稿は既定で商業的なものになっていると言う。実際、ニューヨークのある写真家は仕事のほぼすべてを Instagram 経由で得ながら、身の危険や失注を恐れて一部の投稿を隠している。見られる場所が働く場所を兼ねたぶん、見られない場所が別に要る。
「課金」が止まると死ぬ
How grief became a subscription service | The Conversation (Aug 4)
「タナボット (Thana bots) 」あるいは「グリーフボット (Grief bots)」と呼ばれる、故人が遺したメッセージや音声、写真から、対話できるボットを作る事業が育っている。Microsoft は2020年、故人を含む特定人物のボットを作る特許を取得した。遺影は「この人はここにいた」と語るが、これらは「私はまだここにいる」と一人称で語る。素材を出すのは遺族、ボットと保守を握るのは企業、そして元になった本人はもう条件を交渉できない。精神分析家ジャック・ラカンは、生物的な死と、集合的記憶から消える象徴的な死を区別した。ここに第三の死が加わる。支払いが止まったとき、あるいは提供者が事業を畳んだときである。
「自殺的共感」を実証する
The right says “suicidal empathy” is destroying the West. Here’s the truth. | Vox (Jul 28)
カナダの進化心理学者ガド・サードが唱えた「自殺的共感 (suicidal empathy) 」は、この一年で右派の共通語になった。西洋は遠い他者への配慮によって自らを滅ぼしつつあるという主張である。根拠に使われてきたのは2019年の心理学研究で、道徳的関心の範囲を政治的立場ごとに図示したものだ。リベラルは家族より遠い他者を優先していると読まれ、イーロン・マスクやマーク・アンドリーセンが広めた。しかしユタ大学のカイル・フィオーレ・ローらが、先月 Political Psychology 誌に載せた結果は逆だった。家族や外国人を個別に順位づけさせると逆転は消え、どの政治的立場でも1位は身近な者だった。
「ポピュリズム」という語が隠したもの
Obfuscations of Populism | The Ideas Letter (Aug 20)
政治学者ハンス・クンドナニは、2016年からの10年をポピュリズムの10年と呼ぶ。現象がそうだったからではなく、この語が議論を支配したからである。主流の報道と政策論議では「極右」が「ポピュリズム」に置き換わり、焦点が政策の中身から政治の様式へ移った。彼はふたつの機能を挙げる。極左と極右を同一視して対立軸を左右から自由主義対非自由主義へ組み替えること。そして中道右派が移民や宗教をめぐる極右の政策を採り入れながら、様式を批判することで自らを区別すること。2014年以降、地中海で亡くなった人は約3万5,000人にのぼる。同じ期間の米国南部国境の約5倍である。かつて欧州の価値に反するとされた政策が、呼び名を変えて常識の側に移った。
AI への危機感と実害の「落差」
‘Almost everyone is having an existential crisis’ | Fast Company (Jul 29)
独立デザイナー約1,300人に行った調査では、68%が人間の創造の価値が侵食されていると答え、半数超が AI を理由に報酬を値切られていると感じていた。一方、AI で実際に仕事を失ったとする回答は22%にとどまる。打撃は1,000ドル未満の小口案件に集中している。
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仕事がら、新語には敏感です。ホビーアモリー、ファストフレンド、ゴーストポスティング、第五の場所、タナボット、自殺的共感など、今号もたくさん並びました。新しい言葉は、現象が認知されるより先に生まれることがあります。言葉ができた途端、ばらばらに起こっていた振る舞いがひとつの現象として見えはじめる。ただ、名付けは観察を助けると同時に乗っ取りもします。極右がポピュリズムと呼び替えられた十年間で何が起きたかは、政治学者ハンス・クンドナニが語ったとおりです。MeThreee が新語にカッコを付けるのは、その言葉を流通させながら、同時に点検し続けるための保留でもあります。

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