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MeThreee · Aug 2, 2026

#213:「部屋の外」にいた者たち

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MeThreee[ミースリー]は、「次の時代の社会/働き方」を読み解くためのニュースレターです。

Lluis Bazan / Unsplash

「部屋の外」にいた者たち
Meta employees’ lawsuit shows that if AI fires you, proving it is the hard part | Reuters (Jul 22)
AI による雇用差別の訴訟が相次ぐという予測は繰り返されてきたが、波はまだ来ていない。理由は被害の不在ではなく、手続きの側にあるらしい。米 Meta 従業員26人が、障害や医療・介護休暇の取得を理由に解雇対象へ選別されたとして提訴した。原告側の主張によれば、選別には社内 LLM の「Metamate」、キーストロークや画面のスキャンによる生産性スコア、AI 利用量を示すトークン消費量が使われた。Meta は、約8000人の解雇はすべて人間が判断したと否定している。連邦地裁は差し止めを認めなかった。AI がどう使われたかを原告が立証できない理由を「それが起きた部屋にいなかった」からだと述べ、反証がなければ企業の説明を前提とするほかないとした。原告は米国の労働者の多数と同様に仲裁合意に拘束され、集団訴訟も陪審審理も選べない。仲裁は非公開で、立証された結果も他の従業員には共有されない。評価のすべてが会社のシステムの中で起きるなら、労働者は裁判に負けるのではない。そもそも始められないのだ。

スターバックスの「教訓」
Starbucks made a national bet on an AI tool; 9 months later, it pulled the plug | Fast Company (Jul 27)
売上が7四半期続けて落ちる中、スターバックスは2025年9月、再建策の一つとして在庫を数える AI を直営店に導入した。カメラで棚を撮ると数量が記録され、1時間の棚卸しが10分に縮まるはずだった。実際には冷蔵庫の反射で牛乳が倍に数えられた。従業員が手で数え直しても、システムは AI の数字を正とし、修正を受け付けなかった。さらに棚卸しの実施状況は店長の評価指標になり、ある店長は面談で「手元にデータがある」と告げられ、部下の処分を促されたという。開発元は、原因は画像認識ではなく1990年代製の基幹システムが持つ在庫データの不正確さだと主張するが、会社は9か月で廃止を決めた。道具の誤りを人が正せない設計にした時点で、誤りがそのまま人の成績に転嫁されることが決まっていた。

病欠初日から「証明」せよ
Germany Moves to Curb Sick Leave | Bloomberg (Jul 23)
ドイツの労働者は最長6週間、病欠中も全額の賃金を受け取れる。この戦後型の労働保護が、経済低迷の立て直し策の対象になった。政府の規制緩和法案に、病欠初日から医師の診断書を求める案が含まれたのである。統計局によれば病欠日数は2005年の9.2日から2025年には14.5日へ増え、メルツ首相はほぼ3週間働いていないことになると述べた。医療保険の側は、日数を押し上げているのは慢性の腰痛やうつであり、診断書を義務づけても病欠は減らないと見る。弁護士は、診察の手間に見合わせて長めの証明を取る動きをむしろ見込む。信用で回っていた欠勤の手続きが証明に置き換わるとき、そのコストは証明する側が負うことになる。

「スマートホーム」が想定していたこと
The False Promise of the First ‘Smart’ Homes | The MIT Press Reader (Jul 24)
在宅勤務は近年の働き方として語られるが、住宅の設計思想としては40年前に構想されていた。1983年、米フロリダ州に公開された実験住宅 Xanadu は、House Brain と呼ぶ計算機群が空調から献立、診療までを束ね、Robutler という機械が家事を担う。通勤をなくす遠隔勤務の設備が基礎から組み込まれ、子ども部屋では寝台が就寝を促し起床を告げる。科学史研究者ハンナ・ゼイヴィンは、この「未来の家」が想定した働き手は主に女性だったと読む。家で働けることは、家事と育児を続けながら働けることとして売られ、機械がその負担を肩代わりするはずだった。在宅勤務は柔軟性の話として広まる前に、女性を家に置いたまま労働力にする構想として先に描かれていた。

「情緒価値」という値札
Why Young People in China Are Buying Feelings | The New York Times (Jul 13)
賃金の停滞と若年失業を背景に、中国の若年層のあいだで「情緒価値」を掲げる商品が売れている。AI ペットやブラインドボックス(盲盒)の広告がこの語を使い、一部の地方政府は年次経済報告書にまで記載する。市場は4000億ドル近く、2029年までに70%成長するという見込みもある。ある大学生は泰山の同行登山を6時間約100ドルで請け負い、疲れた客に背負うよう求められることもある。遊園地で働く者は1時間かけてゲームの戦士に扮し、園は1人15ドルで「完全な情緒体験」を掲げる。二人とも消耗を認めており、疲れると配信で歌って発散する。感情の供給が職種として成立するとき、供給者自身の消耗は誰もケアしてくれない。

都市を「音」から設計し直す
Listen up! For cities to thrive, they need to sound as good as they look | Monocle (Jul 21)
都市の音は長く、騒音として下げるべき計測量の扱いだった。実際、2025年の報告では欧州人の2割超が EU 基準を超える交通騒音に晒されている。ベルリンの音響研究者アルヤン・リートフェルトは、都市計画が視覚に偏ってきたと指摘する。ガラスと鋼の高層建築は音響の鏡として交通音や空調音を反射し、世界の都市の背景音を均質にしてきた。一方で、コペンハーゲンの自転車のベルやミラノのカフェの喧騒のように、音は都市の固有性でもある。リートフェルトは、減らすべき騒音を問う前に、その都市がどう聞こえるべきかを先に問うべきだと論じる。視覚の景観と同じく、聴覚の景観も設計の対象になりつつある。

テックブロ化」するマーケティング
The Tech Bro-ification of Marketing | Time (Jul 10)
シリコンバレーの序列では、作る者が売る者の上に置かれてきた。その作る仕事が AI で安価になり、テック側が売る仕事の重要性を認め始めている。ブランドコンサルタントのミランダ・シャナハンによれば、マーケティングという語は社内で通りが悪く、テック側は自分たちが使い慣れた技術者の言葉に置き換えている。LinkedIn には「Narrative Engineer」「UGC Engineer」といった求人が並ぶ。全米広告主協会の調査で、従事者の67〜70%は女性である。シャナハンは、1960年代に事務作業とされたプログラミングがソフトウェアエンジニアの名を得て、男性中心の高給職になった経緯を重ねる。仕事の呼び名が変わるとき、その仕事に誰が居場所を持つかも変わる。

テーブル3に「イエロー」
Yellow Means Creepy: The Color-Coded Anti-Harassment System Used by Restaurant Workers | Reasons to be Cheerful (Jun 26)
飲食業のハラスメントは、調査で女性従業員の8割近くが経験を報告する水準にあり、研修型の対策は効果が続かないことも示されてきた。米オークランドの Homeroom は2015年、客の行動を三色で報告する仕組みを作った。従業員は「テーブル3にイエロー」とだけ管理職に伝える。イエローは不穏な気配、オレンジは性的な含みのある発言、レッドは接触や明示的な言動。理由の説明は求められず、イエローなら席の交代を選べ、オレンジは別の者が卓を引き継ぎ、レッドは退店を求める。導入から10年、最も深刻なレッドの事案はほぼ起きなくなり、従業員の平均在職は2年半と、90日未満とされる業界平均を大きく上回る。EEOC はこの方式を全国的な模範例に採用した。何があったかを語らせる制度は申告の手前で人を止める。色に置き換えた様式が、その関門を取り外した。

滑らかでない自分」が許せない
Young Adults Are Letting AI Do Their Talking for Them—Even in Person | The Wall Street Journal (Jul 26)
会話や連絡文の下書きは、これまで親しい人に相談するか、自分で悩むものだった。米国の若年層はそこに AI を置き始めている。20歳のがん研究者は、交際アプリの誘い文句や集まりの切り出し方を ChatGPT に作らせる。24歳の女性は、友人の交際相手からの連絡文が突然正しい文法になったことに気づいた。連絡文は雑でよい、親密さは形式の崩れから来るからだと彼女は言う。臨床心理士のアシュリー・ゴールデンは、汎用の対話モデルは生産性のために作られ、関係のために作られてはいないと指摘する。文面を AI に通して大丈夫か確かめる行為は、自分の判断は信頼できないと自らに教え込むことになる。滑らかにするための道具が、滑らかでない自分を許せなくする。

「極端にローカル」が世界に届く
The Back to the Future parody that’s a global hit | BBC (Jul 2)
カナダのコメディ映画『Nirvanna the Band the Show the Movie』が、意外な世界的成功を収めている。売れない2人のミュージシャンが街の実在の人々を巻き込みながら撮る、礼儀正しい『Borat』のような作品だ。笑いのほとんどは極端にカナダ的で、トロントの CN タワー、野球チーム Blue Jays、小売チェーン Canadian Tire のネタで埋め尽くされる。だがその土地固有性こそが評価された。「トロントの if-you-know-you-know (分かる人には分かる) な細部に徹することで、大都市を奇妙に親密な場所に見せる」と米国の批評家は評す。普遍を狙わず、徹底して局所を掘ることが、逆に国境を越える。

妻のみ大卒の婚姻「9.6%増」
College women are snapping up the highest-earning men without college degrees | Fortune (Jul 26)
1930年から1980年生まれの米国の婚姻を調査した結果、大卒女性の婚姻率は7割超で動かない一方、妻のみ四年制卒の婚姻は2.3%から9.6%へ増え、非大卒女性の婚姻率は78.7%から52.4%へ落ちた。学歴の同類婚を前提としてきた結婚市場が、男女の進学率の逆転に合わせて組み替わりつつある。

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先日、武邑光裕先生とイベントでご一緒した際、fact という語はラテン語の facere、「作られたもの」、そして fake もまた同じ語源だとする説を知り、驚きました。今号は「証明」の話が多い号になりました。病気であることを初日から証明せよと言われる労働者がいて、AI に解雇されたことを証明できない従業員がいます。信用で済んでいた手続きが証明に置き換わるたび、その負担は立場の弱い側が担ってきました。事実が作られるものなのだとしたら、誰に作る力があり、誰が作れないままなのかが問題になります。Meta の従業員が立証できなかったのは、事実がなかったからではなく、事実を作る道具が会社の側にしかなかったからでした。

Read the original on methreee.substack.com

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