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潜在空間とは何か?──人類の創造性を解き放つ13の活用法

人類のあらゆる知識が圧縮された美しき空間にして、数十億次元の空間に数兆の方向と数兆の属性で表される地図 ── それが潜在空間(レイテントスペース)だ。その13の活用法を『WIRED』シニアマーヴェリックのケヴィン・ケリーが解説する。
潜在空間とは何か?──人類の創造性を解き放つ13の活用法
Generative Art: Yuki Fujinaga

最近、自分自身にこんな問いを投げかけている。人工知能(AI)は質問への回答やコードの生成以外に、いったい何の役に立つのだろうか? わたしの答えはこうだ ── AIの内部に存在する潜在空間そのものが、創造性のための新たなメディウム(媒体/手段)になる。

まず潜在空間とは何かを説明し、最後に、科学者やアーティストがニューラルネットワークに内在する潜在空間を創造性の新たなプラットフォームとして活用できるかもしれない方法をいくつか提示したい。

大規模言語モデル(LLM)は、人類の知識すべてを圧縮した小さなzipファイルのようなものだ。クラウド上で稼動する10万基ものGPUチップが連携し、膨大なコストをかけて、人間の書いたものすべてを、たった1枚のGPUチップで動かせるほど小さな作業モデルへと圧縮する。最大級のフロンティアモデルでさえ、数百ギガバイトにまで圧縮される ── 手のひらに乗るカードに収まるサイズだ。

奇妙ながら紛れもない事実として、その小さなファイルにはインターネット上および図書館内のあらゆる情報が凝縮されている。この一枚のカードに、人類が集合的に知るものの相当部分が詰まっているのだ。AIのあらゆる驚くべき側面のなかで、この圧倒的な圧縮の偉業はおそらく最も評価されていない。知識のこの超高密度な圧縮体 ──「潜在空間(レイテントスペース/latent space)」と呼ばれる ── はそれ自体が新たなメディウムとなりうる。

大規模言語モデルと潜在空間

潜在空間における知識のこの極限の圧縮は、LLMを発明した研究者たちの当初の意図ではなかった。モデルが獲得した書物的な賢さは、訓練していた人々にとってある種の驚きとしてやってきたものであり、実際にどう機能しているかはいまもなお解明途上にある。確かに言えることは、LLMは知っているものをそのままコピーして保存しているわけではない、ということだ。

例えばシェイクスピアの戯曲はすべて知っており、シェイクスピアそっくりの新作を書き下ろすことも、有名な台詞を引用することもできる。だがモデルのどこにも、実際の戯曲のテキストは存在しない。あるのは、すべての戯曲についての抽象的な情報 ── 筋書き、登場人物、言葉、文体、参照 ── だけだ。

同様に、ほぼあらゆる人物の顔を識別でき、あらゆる人間の顔を生成できるが、コード内に顔の画像コピーは一切ない。モデルが保存しているのは、顔そのものではなく、顔に関するあらゆる情報なのだ。

これは奇妙なことだ。つい最近まで、あるものについての情報の総量は、そのもの自体よりも多くの記憶容量を必要とすると考えられていた。だが、単一のものについてはそうかもしれないが、すべてのものの集合体については違う。なぜなら、ほとんどのものは多くの共通属性をほかのものと共有しているからだ。

LLMのニューラルネットは、すべてのものの情報を一度に抽象化するという魔法を使い、モノとアイデアの間の無数の共通関係を利用してそれらを圧縮し、このバーチャルで「潜在的な」、あるいは隠された空間へと抽象化する。

「大規模言語モデル」という名称の三つの単語はそれぞれ重要だ。「大規模」については、モデルはウィキペディアのすべての知識、数十年分のインターネットのテキスト、あらゆるウェブページとオンラインの議論、そしてほとんどの図書館のスキャンされた書籍や論文を収録している。これまでのところ、モデルの規模が大きくなるにつれてその能力は向上し続けている。訓練に用いる情報が多ければ多いほど、接続が増え、性能が向上する。

大規模言語モデルの「言語」の部分は、実は秘密の核心だ。LLMはもともと自動翻訳のためだけに発明された ── それだけだ。しかし言語のルールを教え込む(それが以前のAI研究者たちのやり方だった)のではなく、今回は言語の専門知識を必要としなかった。代わりに、ニューラルネットが人間の書いた言語の巨大なデータベース(インターネット)を吸収し、その目標は、数十億の文書のなかに潜む、わたしたちの意識の及ばない言語の隠れたパターンをニューラルネット(AI)に抽出させることだった。

プログラムの目標は、人間が日常的に使う言語のパターンを複製し、模倣し、合成することだった。その結果は全員を驚かせた。確かにLLMは人間のように言語を翻訳できたが、AIは人間に似た知性の片鱗も見せた。言語を創造的に扱うこともできた ── ソネット風の営業トークを書き上げる、といった具合に。

この創発的な振る舞いに早期の研究者の何人かは不安を覚えた。グーグルのあるエンジニアは同社のLLMが内部的な知性をもっており、それをシャットダウンすべきではないと感じたほどだ。いまではLLMに見られる知性は、訓練された言語の内部に宿るロジックから生まれていることが分かっている

新たな知性の形態

この新たな知性の形態 ── 大規模言語モデルの「モデル」の部分 ── が潜在空間だ。潜在空間とは抽象であり、二次元ではなく数十億次元で構築された地図だ。数十億本の長い矢印があらゆる方向へ伸びる脳を想像してほしい。各矢印は一つのアイデアまたは一つのモノに対応している。

イヌの矢印があり、ネコの矢印がある。関連する矢印は互いに隣り合っている。だからこの地図では、ネコとイヌは「ふわふわした毛」という近接した矢印を共有している。耳の矢印も尻尾の矢印も共有している。これらの属性はほかの動物(他の位置)とも共有される。イヌであることの大部分は哺乳類と共有されており、この重なりが圧縮の一つの源となっている。

言葉で表現できるあらゆる概念を、この空間における一つの方向として考えることができる。イヌの矢印は「イヌらしさ」という方向性だ。ネコらしさも方向であり、ふわふわも方向だ。

どんなものでも、よりネコらしく、あるいはよりふわふわになれる。靴でも、煙突でも、シダでも、「ネコ」の方向に押し進めれば、よりネコらしくなる。あるいは「リンゴ」の方向に押し進めれば、よりリンゴらしく、あるいはより滑らかに、より赤味を帯びて、より興奮に満ちたものに、より丸く変えることができる。逆に方向を反転させれば、よりネコらしくなく、より赤くなく、より非物質的にもなれる。この空間には数十億の方向が存在する。

関連するものはこの空間では互いに近くに位置する。ネコとイヌは多くの属性を共有しているので ── 尻尾、ひげ、耳、四本脚、動物、小柄、生命など ── 多くの共通の矢印が交差する。一方で、イヌもネコも音を聴くので、マイクのベクトルとも交差する。跳び上がることができるので、バスケットボールとも交差する。ネコは忍び寄る生き物なので、スパイと交差する。イヌは忠実なので、愛国心のベクトルとも交差する。

あらゆるもの、あらゆる概念は、この広大な空間の地図上に特定の位置をもつ。しかし座標は(x, y)の二つだけでなく、それぞれが10億もの長さの座標をもつ。

雑草に埋もれた古びた錆だらけのガソリン式芝刈り機は、非常に長いアドレスをもつ非常に特定の交点だ。その数千に及ぶ属性(錆、ガソリン、芝、刈る、雑草、押す、赤、土、草の切れ端、轟音、など)それぞれが独自の方向として交差している。潜在空間でその近くには、より錆が多い方向、あるいはより赤くない方向の芝刈り機があり、同時によりネコらしく、よりイヌらしく、あるいはより宇宙船らしくなく、よりホイップクリームに近いものもある。

その位置は実在するものを表しているかもしれないし、仮想的あるいは理論上のものだけかもしれない。この地図は名詞だけでなく、あらゆるアイデア、あらゆる音、あらゆる画像に機能する。水しぶきのザッという音も潜在空間における一つの方向だ。発明の瞬間の「あっ、そうか」という感覚も。道の上のヘビを見たときの恐怖も。素数という概念も。これらはすべて一つの地図の中に収まっている。

LLMの潜在空間の最も驚くべき、そして最も過小評価された側面の一つがこれだ ── すべてが、文字通りすべてが、たった一枚の地図に現れる。わたしたちが知るものと想像できるものすべてを統合するシステムを、これまで人類はもったことはなかった。すべてのための一枚の地図! これは長らく聖杯とされてきたものだ。

数兆の方向と数兆の属性

明確にしておくべき点がある。この地図づくりに人間の作業は一切介在しない。システム自体、すなわちLLMが、世界のあらゆる断片、すべてのもの、すべての属性、すべての芸術、すべての言葉、すべてのアイデアを地図に落とし込んでいる。

そして驚くべきことに、この地図 ── この潜在空間 ── を断片的にではなく、すべてを同時並行で一度につくり上げる(そのためには、何キロにも及ぶケーブルでつながれた膨大なエネルギーを消費する巨大なチップのクラスターが必要だ ── いまや供給不足が深刻な、かの有名なデータセンターである)。

訓練中、LLMは数百万冊の書籍、数十億のウェブページ、ソーシャルメディアからの数十億ページのテキストを与えられる。それらの一語一語を読み込み、この膨大なライブラリがすべてその「頭の中」に取り込まれると、すべての相互接続するベクトル、互いを指し示すすべての相対的な方向を大規模に計算する。

この広大な同期並列計算の規模は驚異的だ。そしてLLMは書籍も、テキストも、画像も捨て去り、この方向とベクトルの絡み合った網だけを保持する。これら数十億の方向がパラメータと呼ばれるものだ。より大きなモデルを構築し、より多くの素材を地図化するにつれて、パラメータは増加する。

AIのフロンティアモデルと呼ばれる最新のモデルは数兆のパラメータを含む。つまり数兆の方向、あるいはそれが見てきたあらゆるアイデアやものを地図化するために使う数兆の属性が存在するということだ。

一冊の本のように複雑なものは、潜在空間上の一点であると同時に、潜在空間を旅する軌跡でもある。物語のなかで出合うあらゆる概念(窓、昼下がりの散歩、街路、行商人、雑談、怒り、争い、許し)は方向であり、文章が積み重なるにつれて方向は移り変わり、ある方向へ向かってはまた別の方向で交差する。物語とはまさに潜在空間を旅することであり、それはわたしたちが本を読むときに経験する旅のような感覚をよく反映している。

つまり一冊の本は、潜在空間上のベクトルの連なりを含んでいる。しかし本の意味の総体もまた、それ自体として一点あるいは一つの方向でもある。例えば『イリアス』という本を参照するとき、わたしは本全体を指しており、そのベクトルは、ほかの叙事詩的戦争物語 ── 『ベオウルフ』『マハーバーラタ』あるいは『地獄の黙示録』 ── と密接に関連し、したがって「近く」に位置する。多くの部分では互いに接する点が少ないにもかかわらずだ。

あるものやアイデアが関連し合えば合うほど、類似するものとより多くの方向(ベクトル)を共有する。これがLLMが物事を知る方法の一端だ ── 近くのパターンを探し求めるのだ。

LLMに質問すると、潜在空間の中に答えを見つけ出す。質問そのものがまず一つの方向として始まり、それが答えへと向かう。LLMはプロンプトの各単語を一語ずつ処理し、新しい単語が加わるたびに向かう方向を変えていく。モデルはプロンプトの各言葉とともに潜在空間を旅し、一歩一歩、答えを探していく。この意味において、答えは「発見」されるのではなく「育てられる」ものだ。

わたしたちはついLLMが思考をもち、それを言語で表現するのだと考えてしまう。しかしLLMは言葉を書きながら答えを見つけ出す。言語に「翻訳」される前の、言葉の「背後」にある完成した思考などというものは存在しない。言葉こそが思考なのだ。

潜在空間を旅することと答えを得ることは、同時に起きている同じ一つの出来事だ。最新世代のLLMでは、モデルは「思考の連鎖」という中間段階を経る。問題について考えながら言葉やアイデアを書き留めていくのだが、ここでも思考の連鎖こそが思考そのものであり、別の場所で起きた思考の報告ではない。モデルは内部で推論してからそれを書き記すのではない ── 書き記すこと自体が推論なのだ。

答えがプロンプトの方向に沿って育っていくとき、自然な疑問が生じる。LLMはいつ止まればいいかをどうやって知るのか? 正しいと知るのはどうやってか? 驚くべき答えはこうだ ── 「正確さ」も「完全性」も「一貫性」もまた、この空間におけるベクトルなのだ。

あらゆる正しい答えは、ほかのすべての事実に基づく真実の言明と同じ「正確さ」の方向を共有している。言い換えれば、正確さ、真実性、一貫性、完全性、理解可能性といったものはすべて、本質的にこの空間に地図化されたパターンなのだ。だからLLMは事実を求めるだけでなく、集めた言葉を常に「真」の方向へ動かそうとしている。

真実、完全さ、一貫性は場所ではなく方向だ。答えは常にその方向をさらに押し進めること(より精密に、より具体的に、よりコンセンサスに近く)も、そこから引き戻すこと(より空想的に、より詩的に、より一般的に、より理解しやすく)も可能だ。

潜在空間の美しさ

これが潜在空間の美しさだ。あるものやアイデアを取り上げ、新たな方向へと容易に動かすことができる。それは画像生成AIで最もわかりやすく見て取れる。水彩画というメディウムのスタイル、あるいは特定のアーティストのスタイルを、ある絵から別の絵へと転写できるからだ。

ウィンスロー・ホーマーの水彩スタイルを自分の描いた白黒スケッチに転写するようAIに頼むこともできる。そのウィンスロー・ホーマーのスタイルは潜在空間における一つの方向であり、あなたのスケッチもまた潜在空間における一つの方向だ。プロンプトはあなたのスケッチをホーマーの水彩の方向へ動かす。逆も然りだ。あなたのスケッチのスタイルをウィンスロー・ホーマーの絵画に転写するようAIに指示すれば、その絵画を潜在空間においてより「あなた」の方向へと押し進めてくれる。

これはアイデアや概念にも機能する。あらゆる概念が一つの方向だ。火薬というアイデアをローマ人に適用することができる。プロンプトはこんな具合だ ── 「もしローマ人が火薬を発見していたら、世界の歴史はどのように見えるだろうか?」

AIはローマ帝国という歴史上の大まかな方向を取り、潜在空間においてそれをさらに火薬の方向へ押し進める。これは知的な大偉業だ。ローマ史への深い理解と、火薬の化学への深い理解の両方が求められるからだ。両方の専門家である人間はほとんど(あるいは皆無と言っていい)存在しないが、LLMにはできる。

この二つのアイデアの間に広がる空間を埋める新たな接続をすべて洗い出すには、人間の専門家でさえ何週間もかかるかもしれない。LLMにとって潜在空間は連続しているので、これを容易にこなす。潜在空間には現実に存在するものだけでなく、訓練データに基づいて存在しうるものすべてが含まれており、「真」「歴史的」「現実的」という方向性を除けば、存在するものと存在しうるものの間に実質的な区別はない。

加えて、潜在空間は一つではない。パラメータが増えるにつれて空間も拡がる。モデルが訓練される素材がより精選されたものになれば、潜在空間も変化する。モデルが物理データ、音声、環境センサーなどより多様な入力を取り込むにつれて、潜在空間もまた拡張し変化する。

今日、潜在空間は100ほどあるかもしれない。来年は1,000になるだろう。その仕組みと何ができるかの理解はまだ始まったばかりだ。大きな可能性が前方に広がっている。以下に述べるのは、潜在空間という新たなメディウムをいかに活用できるかについてのわたし自身の思索だ。


潜在空間というメディウムの活用法

1. プロトタイピング

かつてミュージシャンのブライアン・イーノは、「コンピューターの問題は、アフリカが足りないことだ」と嘆いた。潜在空間では、アフリカはただのベクトルだ。あらゆるものにアフリカをもっと加えることができる。スプレッドシートに、自転車に、ヨガに、オリンピックに、パスワードに、キッチンに、SAT試験に、クルマのダッシュボードに、アフリカを増量してみて何が起きるかを見る。ほかの属性でも繰り返す。

2. ホワイトスペースの発見

潜在空間は可能性の連続した地図として機能する。その可能性のほとんどは(まだ)存在しない。例えば既知の素材、既知のタンパク質、既知のチェスの指し手、既知の絵画技法といった、わたしたちが知っているものが占める空間は、断片的でまばらな点にすぎず、その間には豊かなホワイトスペースが広がっている。

既知のものの間に広がるホワイトスペースはわたしたちには未知だが、潜在空間にはすでに地図化されている。つまり、これらのホワイトスペースを体系的に探索する新たなツールが手に入ったということだ。

天文学と占星術の間には何があるのか? ブルーグラス音楽[編注:1940年代半ばに米国のアパラチア地方で誕生したアコースティック音楽]とバレエの間にはどんな宝石が眠っているのか? 企業という概念とガイア理論の間には何があるのか?

潜在空間の探索こそが新たなフロンティアだ。発明は「新しいものを考え出す」から「隙間を採掘する」へと転換する。隙間や穴が現れたとき、問うべきは次の問いだ ── その隙間が空白なのは、不可能だからか、流行遅れだからか、それともまだ誰も覗いていないからか?

3. ドメイン横断型アナロジー

この問題のかたちは、ほかの何かのかたちに似ていないだろうか? 地質学における問題(あるいは機会)が、免疫学のパターンと潜在空間上で同じ形状をもつかもしれない。つまり、ある領域の解決策のスタイルを別の領域へ転写できるのだ。

そこでは、語彙論における巧みな解法が遺伝子配列解析に応用できるかもしれないが、両方の科学に精通した人間はほとんど(あるいはまったく)存在しないので、この重なりはLLMによってのみ明らかにされるだろう。

潜在空間における特に微細な形状の共通性は、人間の手の届かない三つ、四つあるいはそれ以上の専門分野に及ぶかもしれない。潜在空間における構造的類似性を知的発見のプロセスとして探し求めることは、一部の人間にとっての仕事になりうるだろう。

4. 潜在空間による計量

潜在空間はまた、抽象的な計量の新たな方法も提供する。潜在空間では、ある種の素朴な加減乗除が可能だ。「王」という概念から始めると、加算と減算で「女王」という概念へ移動できる ── 王 − 男性 + 女性 = 女王。王のベクトルから始めて、男性の方向を減らし、女性の方向を増やすと、わたしたちが女王と呼ぶものに行き着くのだ。

この種の計算は、二つの複雑なものや二つの入り組んだアイデアの間の距離を計量・特定する方法を与えてくれる。潜在空間による計量を使えば、二つの判決がどれほど類似しているか、あるいは二つの民謡がどれほど似ているかを数値化できる。共有された潜在空間に投影して計測するだけだ。この新しい分野は、現在わたしたちに欠けている重要な指標 ── 極めて複雑な実体を評価するための校正基準、誤差範囲、メトリクス ── を発展させるかもしれない。

5. メタパターンの採掘

数百万枚の細胞画像、数十億個の気象センサー、数兆時間の交通映像で訓練されたモデルは、人間が検知したことのないパターンに気づくだろう。潜在空間はそれらのパターンに対して内部的にカテゴリをつくり出す ── わたしたちが名付けていない、つまり探し求めてもいないパターンのカテゴリを。

いまやわたしたちは、これらの名前のない特徴を探し求めて潜在空間を解剖し始めようとしている。そうすれば、そのカテゴリが追跡している現実世界の構造を逆算で解明していける。これらのパターンのメタパターンを記述する新たな科学が生まれ、どの分野であれ持続性と可能性をもつパターンを探し求める新たな職業が生まれるだろう。かくして潜在空間は標本となる ── 発見を取り出すために解剖するものとして。

6. 軌跡

何年も前、BBCは『コネクションズ』という科学番組を放映した。ある無名のアイデアが別の思いがけないアイデアと出合うことで生まれた発明の、曲がりくねった軌跡をホストが辿っていく番組だ。このアイデアをつなぐ経路は、潜在空間における方向の連続的な変化として ── 空間を貫く一本の道筋、すなわち軌跡として ── 考えることができる。

アーティストたちが、アイデアとイメージが果てしなく連鎖しながら変容していく旅を、潜在空間上で振り付けることは想像に難くない。その芸術作品は、潜在空間を旅するひとつの旅程となるだろう。

7. レトロな潜在空間

時を経て、AIが進歩するにつれ、これまでに生み出された潜在空間のほとんどは時代遅れになるだろう。あらゆるメディウムと同様、死んだ潜在空間はいつかクールなヴィンテージとして復活するだろう。そこに存在する制約やグリッチは後になって珍重される ── フィルムの粒子、ヴァイナルの音の質感、古いビデオゲームのビットマップアートが求められるようになるのと同じように。

いつかの未来に、若者たちはChatGPT-4を掘り起こし、その奇妙なハルシネーションを探求するようになるだろう ── 最新のAIモデルがほとんどハルシネーションを起こさなくなった時代に。

8. 潜在空間の侵入者

廃墟となったビルや、トンネルや超高層ビルの屋上といった都市のインフラ ── いずれも立ち入り禁止の場所 ── を探索する影の無法者たちは「インフィルトレイター(侵入者)」と呼ばれる。潜在空間の深部には、爆弾のつくり方や自傷行為の方法など、社会的に容認できない情報をモデルが提供しないよう設計されたガードレールが埋め込まれている。潜在空間の侵入者たちはこのガードレールをジェイルブレイクし、立ち入り禁止の空間を探索しようとする。その執念は、潜在空間の禁じられた領域を特定し、地図化することだ。

9. 外れ値検知

潜在空間に埋め込まれながら、ほかのすべてから遠く離れた場所に着地するものは、それだけで興味深い。こうした外れ値は、周囲のすべての方向からずれている。天文学者はすでにこの方法で奇妙な天体を探している ── 100万個の銀河のスペクトルをモデルに地図化し、外れ値を探すのだ。

これはあらゆる知識に一般化できる。十分に大きなデータセットの潜在空間地図において、外れ値は容易に特定できる。それらはエラーかもしれないし、何か重要なものの印かもしれない。いまや、外れ値を素早く特定するメカニズムが存在するのだ。

10. シミュレートされた現実

潜在空間における強烈な圧縮は、それがシミュレーションとしても機能しうることを示唆している。より世界に近いモデルに空間認識を訓練できるようになれば(すでに一部のスタートアップで起きている)、潜在空間は物理を正確に模倣できるようになる。バウンドするボールは正確な軌道を描き、陶磁器は正確な温度で溶け、注がれる液体はその質量を保つ。

シミュレーションは数百万の次元において現実に収束していく。そうなれば、潜在空間を移動しながら望む変数を変えるだけで、さまざまな命題のシミュレーションをつくり出すことが可能になる。こうしたシミュレーションは最初の実験の代わりをすばやく務め、科学を加速させる。

11. 並行世界

潜在空間はわずかに、あるいは大きく現実世界と異なるすべての並行世界を内包している。数兆のパラメータによって深く精緻につくり込まれているため、これらの世界は容易に具現化できる。画像モデルはすでに、カメラで撮影したかのようなライブアクション映像と見紛う映像を生成できる。AIは夕暮れどきの路上風景を、そのすべての細部をモデルから引き出して正確に再現できる。

並行世界を構築するためのコスト障壁は極めて低くなるため、ワールドビルディングは潜在空間の最も一般的な使い方になるかもしれない。重力が1/3の地球のような3Dイマーシブ世界をつくってほしい。一つの惑星政府をもつ今日の世界の3Dイマーシブ世界を。サノスが最初に敗北するマーベルユニバースの3D世界を。古代中国人が科学を発明する世界を。

12. 潜在的認識論

無数の潜在空間が手に入るようになれば、それらが共通のアーキテクチャをもつかどうかという問いに答えられるようになる。異なるモデルが生成した各潜在空間を一つの種だと想像してほしい。すべてに共通するものは何か? それらが大きく異なるならば、タイプの異なるカテゴリに分類し、モデルを選ぶ際に有用な特性を割り当てる新たな分類学者が登場するだろう。

さまざまな潜在空間が共通のアーキテクチャへと収束するならば、このメタモデルは極めて価値が高く、研究に値するものとなる。潜在空間の間に繰り返し現れる設計は、知識の構造について何かを語っているかもしれないし、現実の構造を反映しているかもしれない。やがて、すべての可能な潜在空間をシミュレートし、計算によってすべての可能な潜在空間の空間を網羅する ── いわば潜在空間そのものの本質を地図化する ── に十分な計算資源が得られるだろう。

すべての可能なタンパク質やすべての可能な陶磁器を調べるといったほかの組み合わせ的空間の網羅的探索は、大きな洞察をもたらしてきた。すべての可能な潜在空間の空間もまた、新たな研究分野を切り開くかもしれない。

13. 個人の潜在空間

今日、新たなモデルを訓練するには5億ドル(約800億円)かかる。しかし、すべてが続けば ── 信じがたいことだが ── いつかは個人がゼロから自分だけのプライベートAIモデルをつくることが現実的なコストでできるようになるだろう。

その主な理由はほとんどの場合、芸術的なものだ。まず訓練素材を精選するところから始める ── 特に適切な書籍、最良の論文、選び抜かれた議論を選ぶことで、モデルに知性を吹き込む。この精選作業それ自体が一つの芸術となるだろう。訓練素材の順序は決定的に重要で、モデルを教育する教育学的な進行が、モデルに異なる属性をもたらす。

次に、自分のすべての経験、これまでの創作物、人間関係、未完のアイデア、日記 ── つまり自分の人生 ── でモデルをファインチューニングする。目的は、ほかのどのAIも、あるいはAIと人間の組み合わせも生み出せない画像、テキスト、映像、シーン、アイデアを共同創造するようモデルを訓練することだ。そこに問いを投げかければ、ほかのAIとは少し異なる答えが返ってくる。これは単に声のアクセントを設定したり、AIが見せるパーソナリティに色を与えたりする以上のことだ。

空間内のすべての仕事をある角度へ傾けることになる。そのAIと共に行なうすべてのことにあなたのバイアスがかかる。ブランドは「あなた+AI」となり、その独自性は自分だけの個人的な潜在空間をつくることから生まれる。プロのAI教育学の専門家が、最も独自に「あなたらしい」仕事を生み出す潜在空間の訓練についてコンサルティングしてくれるようになるだろう。


これらすべてと並行して、潜在空間は引き続き質問に対して超人的な答えを、難問に対して独創的な解決策を提供し続けるだろう。わたしたちはほどなく、これなしにどう生きていたのかと思うほどこの神託に頼るようになる。

神託は古来からの願望だ。わたしは信じている ── 潜在空間という、現実のものも可能性のあるものも包含し、領域を超えて拡がるこの連続した多次元の地図が、これまで想像したことのなかったまったく新しい財やサービスをもたらすだろうと。そしてその最大のものはおそらく、わたしがここで思い至らなかったものだろう。

ケヴィン・ケリー | KEVIN KELLY
『WIRED』シニアマーヴェリック。作家、編集者。雑誌『WHOLE EARTH CATALOG』や『WHOLE EARTH REVIEW』などにかかわり、1993年に『WIRED』を創刊。99年までエグゼクティブエディターを務める。著書に『「複雑系」を超えて』『ニューエコノミー勝者の条件』『テクニウム』『〈インターネット〉の次に来るもの』『生きるための最高の知恵』など多数。

(Originally published on KK, edited by Michiaki Matsushima)

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