三軒茶屋駅から南に向かって商店街をふらふらと歩く。中心街を抜け左手に銭湯の煙突が見えたら『伊勢元』はもうすぐだ。
店ができて60年以上。店頭には懐かしい赤ちょうちん。色濃く残る昭和の雰囲気に心が落ち着く。
ガラッと扉を開ければ見事なコの字カウンター。中で窮屈そうなのっぽの店主は、一見無愛想だが、時々ニコッと破顔するから、初見の客でもほれてしまうだろう。
最初に酒飲みの心をくすぐるのが3種のお通し。「常連はこれで満足し、何も頼まない」と笑うが、たしかに一品料理の価値がある。
さらっとこれを提供する店主はかなりの飲み手とみた。
料理ができるまでの時間は、酒の神様がくれたご褒美だ。余計な一杯を飲みながらつまみを待つ時間の幸せなこと。 外の冷たい風とともに常連が入ってくる。
向かいに座った老紳士は「後期高齢者だからほどほどに」と笑って日本酒をうまそうに飲む。 釣られて熱かんを頼むと、あっという間に過ぎた一年も悪くなかったと思えてくる。
だが、こういういい店が減っていくことは寂しい。昭和はさらに遠くなっていく。
『伊勢元』
東京都世田谷区三軒茶屋 1丁目7-13
電話番号=03-3422-3918
営業時間:11時50分~14時、17時~23時55分(土・祝は夜のみ)
休み:日曜(不定休あり) ※12月30日〜1月3日は営業
撮影・文/キンマサタカ
週刊実話2026年1月8・15日号より
※情報は取材当時のものです
【男がほれる酒と肴「ホの字酒場」】アーカイブ

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