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Bay Area Newsletter / シリコンバレー・ニュース · Jul 9, 2026

Weekly Newsletter #272 AI相場は「本物の需要」か、それとも「自分で作った需要」か

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Yuto Tanabe · Bay Area Newsletter / シリコンバレー・ニュース

初めまして。6月1日から、このニュースレターに書き手として加わりました。Yutoです。渡米してまだ1ヶ月。右も左も分からないながら、シリコンバレーで生活して感じたことを、この場でお伝えしていきます。どうぞよろしくお願いします。

Photography by Yuto

初回のテーマは、こちらで誰もが話題にするのに答えの出ないもの。AI・半導体株のこの歴史的な急騰は続くのか。続くなら何が支えていて、ほころびはどこにあるのか。見ていきましょう。


先週のニュースレターを見逃した方はこちら
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Photography by UnsplashJack Charlesが撮影した写真のJack Charlesが撮影したイラスト素材
🌏【今週のトピック:3行まとめ】
  1. AI・半導体株が歴史的に急騰。半導体指数(SOX)は四半期で過去最大の上昇を記録した一方、2026年6月初旬には数日で1兆ドル超が消える暴落も。過熱と乱高下が同居している。

  2. Appleの値上げやMicronの長期契約が示すとおり、需要は物理的に本物だ。一方で、その一部は「循環取引」や「囲い込み」で水増しされている疑いもある。

  3. だから問いは「続く/終わる」の二択ではない。本物の推論需要と、金融工学で水増しされた需要を分けて注視する。それが私たちの取るべき立場だと考える。

利益は実在します。NVIDIAの2026会計年度の売上は約2,159億ドル(前年比+65%)、直近のFY27 Q1も約816億ドル(+85%)と加速中。メモリ大手Micronの第3四半期(5月期)は売上415億ドル・営業利益337億ドル・GAAP純利益282億ドル、粗利益率はNon-GAAPで84.9%・GAAPで84.6%(前年同期は約39%)という記録的な決算でした(会社発表)。通期純利益は、Q1〜Q3実績(約52+138+282億ドル)に会社のQ4ガイダンス(GAAP EPS約30.7ドル=約350億ドル前後)を足すと約820億ドル規模の計算です。経営陣は、需要が供給を大きく上回り、いつ追いつくか見通せないほど逼迫していると説明しています。

日本勢も例外ではありません。NAND専業のキオクシア(旧・東芝メモリ)は、AIデータセンター向けSSD需要を追い風に、2026年6月12日、時価総額約44兆円でトヨタ自動車(約43.8兆円)を抜き、国内首位に立ちました(終値ベース)。上場からわずか1年半での逆転で、その後も株価は乱高下。この荒い値動き自体が今の相場を映しています。

需要の土台もすぐには消えません。Amazon・Meta・Alphabet・Microsoftの4社は2026年だけで合計6,000億ドル超(Amazon約2,000億・Alphabet約1,800億・Microsoft約1,200億・Meta約1,300億ドル。AI関連支出では約7,250億ドルとの試算も)の設備投資を計画。複数年契約が積み上がり、短期で需要が蒸発するシナリオは考えにくい。

① Appleの値上げ。 6月25日、AppleはMac・iPadを中心にApple TV・HomePod・Vision Proなど幅広い製品を値上げ(MacBook Airは1,099→1,299ドル、iPad Proは999→1,199ドル)。理由はメモリ需要による部品高騰で、Appleは報道各社へのコメントで「これほど急激な部品値上げは見たことがない」と説明(WSJによれば、Cook CEOはこれを100年に一度の洪水になぞらえた)。株価は当日6%超下落。日本では円安で価格がじわじわ上がってきましたが、今回は部品コストを名指しした世界一斉・二桁%の値上げで質が違う。世界有数のメモリ購入者のAppleですら転嫁を避けられなかった。(iPhoneは据え置き。秋のiPhone 18では$50〜200、Proで約$270との試算も。)

② Micronの長期契約。 2030年まで続く16件のtake-or-pay型契約(市場価格が下がっても顧客が約束数量を買い取る義務)。14件で累計約1,000億ドルの最低保証売上、前払い金22億ドル、対象はDRAMの約2割・NANDの最大3分の1。HBMは2026年いっぱい予約済みで、スポットでの価格交渉すら存在しません。

③ Lenovoの警告。 世界最大のPCメーカーLenovoはISC 2026で「メモリの高値は2030年以降の新常態(new normal)で、2025年初頭の水準には二度と戻らない」と。

含意はこうです。帳簿上の「売上」は循環取引で水増しできても、現実の「品不足」そのものは循環取引だけでは作れない。 Appleの値上げもMicronの売り切りも、帳簿操作では起こせない。AI需要の少なくとも一部は、紙の上ではなく現実のシリコン(wafer)の奪い合いとして存在しています。

ただし弱気側の反証も併記します。品不足は循環取引では水増しできませんが、「囲い込み」という別ルートでは水増しし得る。Cast AIが約2.3万クラスタを実測した2026年の調査では、企業のGPU平均利用率はわずか5%。買ったGPUの大半が遊んでいるのに品切れを恐れて買い増す、FOMO(Fear Of Missing Out)的な囲い込みです。品不足の一部は最終需要ではなく、この囲い込みが作ったもの——トイレットペーパーの買い占めと同じかもしれません。ただしこの5%は学習を回すAIラボを集計から除いており、メモリ不足の主因は測っていない。だから「実需の一部が水増し」という保留であって、実需そのものの否定ではありません。

6月初旬、半導体株は急落し、6月4〜5日の2営業日で1兆ドル超が消えました。引き金はBroadcomの決算(AI売上は前年比+143%なのに見通しが過大な期待にわずかに届かず)と強い雇用統計。「利上げが長引く」観測が強まると、(1)将来利益をあてにした成長株の現在価値が割り引かれ、(2)借金で建てる企業の利払いも増える。買われすぎたAI株から利益も需要もあるのに、資金が一気に引いた。この乱高下——市場は「完璧」を織り込み、少しの陰りも許さないのです。

この「雇用→金利→株価」の連鎖は7月現在も動いています。ただ向きは6月と違う。直近の雇用統計は+5.7万人と予想の半分ほどで、利上げ観測は後退。かといって利下げでもない。インフレは依然4%台で粘り、FRBは3.50〜3.75%に据え置き、GoldmanやBofAは利下げ開始を2027年へ先送り。つまり「景気は弱いのに、金利は下げられない」。借金でデータセンターを建てる企業には、利上げより厄介な組み合わせかもしれません。

私が最も注目するのは循環取引(circular financing)で、お金がごく少数の同じ顔ぶれを回る構図です。

  ┌──①出資($)──▶ OpenAI ──②クラウド利用を発注($)──▶ Oracle ──┐
  │                                                          ③GPUを大量購入($)
NVIDIA ◀───────────────────────────────────┘
  (NVIDIAが出したお金が、3社の輪を一周して、GPU代金としてNVIDIAに戻ってくる)

NVIDIAがOpenAIに出資しGPUを供給、OpenAIはOracle等へ巨額発注、その事業者は受注のためにNVIDIAのGPUを買う。同じお金が輪を回るので各社の帳簿に「売上」や「受注残」が積み上がるが、その一部は新しい最終需要ではなく身内で回したお金の写し鏡かもしれない。FTやCNBCの集計でこの種の取り決めは数千億ドル規模とされます(OpenAI一社だけでも2025年に約1兆ドル分の契約)。

ただし割り引いて読む必要があります。その多くは拘束力のある契約ではなく意向表明(LOI)にすぎない。 象徴的なのがNVIDIA-OpenAIで、2025年9月に「最大1,000億ドル投資」と報じられたが非拘束のLOI。実際に2026年2月に確定したのは、OpenAIの1,100億ドル調達の一部としての約300億ドルで、Huang CEO自身「1,000億ドルはおそらく実現しない」と述べています。見出しの金額=ロックインされた需要ではない。

エンジニアの方なら既視感の正体はすぐ分かるはずで、ドットコム期のvendor financing——Cisco・Lucent・Nortelが顧客に資金を貸し、光ファイバ網を過剰敷設して市場ごと崩壊した——と同じ構図です。もっとも「チップは本当に足りず、供給確保のための健全な調達だ」という反論もあり、決着はついていません。

  • 収益化:OpenAIは2026年に約140億ドルの赤字見込み。需要を回す中心企業がまだ黒字化していない。

  • 借金依存:主要テック5社は2026年だけで債務・株式で約2,553億ドルを調達、テック全体で2025〜27年に約1.5兆ドルの新規社債発行見込み。CDS需要も過去最高。金利が下げられない局面で効いてきます。

  • 一部銘柄への集中:JefferiesによればS&P500上昇の80%超がAI関連で、除くと年初来約2%。Wolfe Researchでは直近ラリーの指数リターンの約70%を大型テック約10銘柄が占める。BofAの「バブル・リスク指標」は半導体で0.91と警戒圏。

  • 割高さ:AMDの予想PERは約84倍。『マネー・ショート』のマイケル・バリーはSOXX・NVIDIA・Teslaに加え、実需の証拠に挙げたMicronまで空売りしたと報じられます(Micronの空売りはTheStreet、本人のSubstack開示でSEC資料ではない)。根拠はSOX指数が200日移動平均を6割超上回る、2000年以来の乖離だと。

  • NVIDIAのマージン:これは「AI需要が消える」話ではない(需要はむしろ増える)。論点は高利益率(粗利益率7割前後)と約8割シェアを保てるか。最大顧客のAmazon(Trainium)やGoogle(TPU)が自社ASICを内製し始めており、増えた分が自社チップへ流れれば「数量は出るのに一個あたりの利益が痩せる」。今の株価はその高マージン維持が前提で、NVIDIAは指数の最大構成銘柄。前提が崩れれば相場全体が揺れます。需要ではなく、利益率と株価のほころびです。

結論は価格予想ではなく、条件付きの構造判断です。需要そのものは本物で、生成AIの推論は現実に使われ利益を生んでいる。問題は「いつ・誰の金で建てたか」。循環取引と借入依存は、需要が少し鈍った瞬間に損失を増幅する装置になる。一人がよろけると、肩を貸し合った全員が倒れる。その構造が今の相場に埋め込まれていると見ています。

だから取るべき立場は、「自分の足で立つ本物の推論需要」と「金融工学で水増しされた需要」を分けて見続けること。予想の代わりに「物差し」を置いていきます。

  • hyperscaler各社のCapexガイダンスの上方/下方修正

  • 中心企業(OpenAI、Oracle等)の負債水準

  • メモリのスポット価格(だぶつき始め=好況の折り返し)

  • データセンターのASIC比率(NVIDIAマージンへの圧力)

  • 循環取引そのものの開示と、その「質」

今の途中経過を言えば、Capexガイダンスの水準はまだ上方修正が続く。ただし手放しでは読めません。成長率は前年比+73%(2025年)から+36%(2026年)へ減速し、発表された投資が現実の設備になっていない。2026年計画の米データセンターの3〜5割が遅延・中止、発表16GWのうち着工は約5GW、ボトルネックはチップより電力・変圧器(納期2〜5年)。「宣言と稼働は別物」——この記事がLOIに向けた物差しは、Capexにもそのまま当てはまります。

最後に一点。これは投資助言ではありません。示したいのは、構造とほころびの在り処、そして自分の目で見極めるための監視点までです。

ソースURL:
NVIDIA FY2026通期決算(公式): https://nvidianews.nvidia.com/news/nvidia-announces-financial-results-for-fourth-quarter-and-fiscal-2026
NVIDIA FY2027 Q1決算(公式): https://nvidianews.nvidia.com/news/nvidia-announces-financial-results-for-first-quarter-fiscal-2027
Micron Q3 2026 決算プレスリリース(純利益等の一次ソース): https://investors.micron.com/news-releases/news-release-details/micron-technology-inc-reports-record-results-third-quarter
Micron、2030年まで$1,000億規模の長期契約(Tom’s Hardware): https://www.tomshardware.com/pc-components/dram/micron-inks-long-term-supply-agreements-worth-usd100-billion-says-it-has-no-idea-when-ram-crisis-will-end
Apple、値上げ製品の内訳と広報コメント(MacRumors): https://www.macrumors.com/2026/06/25/apple-explains-why-it-raised-prices/
Cook CEOのメモリ不足発言(MacRumors/WSJ): https://www.macrumors.com/2026/06/17/apple-increasing-prices/
Apple・Microsoftの値上げ、iPhone予想(Al Jazeera): https://www.aljazeera.com/economy/2026/6/26/apple-microsoft-hike-prices-over-surging-chip-costs
Lenovo「メモリ高値はnew normal」(TechPowerUp): https://www.techpowerup.com/350326/memory-price-hikes-will-become-a-new-norm-claims-lenovo
キオクシア、トヨタ超えで国内首位(Bloomberg/The Japan Times, 6/12): https://www.japantimes.co.jp/business/2026/06/12/companies/kioxia-ai-valuable-firm/
半導体株、Q2は過去最高の四半期上昇(Axios): https://www.axios.com/2026/07/01/semiconductor-ai-stocks-chips
6月の半導体急落、1兆ドル超が消失(Global Banking & Finance): https://www.globalbankingandfinance.com/chip-selloff-erases-over-1-trillion-stock-market-value/
6月雇用統計+5.7万人・失業率4.2%(BLS): https://www.bls.gov/news.release/empsit.nr0.htm
FRBの利下げは2027年へ後退(Goldman Sachs): https://www.goldmansachs.com/insights/articles/why-the-fed-is-unlikely-to-cut-rates-this-year
NVIDIAのOpenAI投資、$100BのLOIから$30Bへ(CNBC): https://www.cnbc.com/2026/03/04/nvidia-huang-openai-investment.html
OpenAI等の約1兆ドル規模のAI契約(CNBC): https://www.cnbc.com/2025/10/15/a-guide-to-1-trillion-worth-of-ai-deals-between-openai-nvidia.html
企業のGPU平均利用率5%・AIラボは除外(Cast AI 2026): https://cast.ai/reports/kubernetes-optimization-report/
米データセンターの3〜5割が遅延・中止(Sightline Climate/Bloomberg報道): https://tech-insider.org/us-ai-data-center-delays-cancellations-7gw-capacity-crisis-2026/
ハイパースケーラーCapexの成長率減速(+73%→+36%、CreditSights): https://know.creditsights.com/insights/technology-hyperscaler-capex-2026-estimates/
S&P500上昇の80%超がAI関連(Jefferies): https://finance.yahoo.com/markets/stocks/articles/jefferies-says-ai-rally-remains-101812117.html
大型テック約10銘柄で指数リターン約70%(Wolfe Research): https://www.investing.com/news/stock-market-news/tech-giants-drive-70-of-sp-500-gains-amid-ai-rally-wolfe-says-93CH-4652847
バリーの新規空売り(Investing.com): https://www.investing.com/news/stock-market-news/michael-burry-bets-against-tesla-nvidia-in-new-ai-bubble-short-positions-4768862
バリーのMicron空売り/テック5社の調達・BofAバブル指標(TheStreet): https://www.thestreet.com/investing/big-short-investor-michael-burry-issues-blunt-4-word-warning-on-ai-stocks

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