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Lobsterr Letter · Jul 26, 2026

vol.374 : Living Catalogue

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Lobsterr Letter · Lobsterr Letter

『Lobsterr Letter』は、毎週届くニュースレターです。世界中から、未来の兆しになるようなビジネスやカルチャーについてのニュースを集め、感想や考えを添えてお届けします。


リビング・カタログの時代
『SPIN』が、音楽業界のエージェンシーNUEを率いるジェシー・カーシュボームによる、2026年上半期の音楽トレンド総括を紹介している。
彼が挙げる業界最大の課題は、新しい音楽が売れなくなったことだ。ルミネートのデータによれば、業界がもっとも重視してきた13〜24歳のリスナーが1990年代以前の音楽を好むようになり、一方で、2020年代の音楽を「一番好き」と答える層は減り続けている。
一方でカタログ(旧譜)はレコーディング音楽のストリーミング収益のおよそ65%を占め、業界最大の稼ぎ頭となっている。馴染みやすさ、ノスタルジー、そしてアルゴリズムの三つが揃えば、聴き手は既に知っている曲に戻る。カーシュボームはこれを「リビング・カタログ」と呼び、AIによって古い曲が新しい価値を生み続ける時代の始まりだと位置づける。曲は完成した作品ではなく、リミックスされ、ローカライズされ、ミーム化される「生きた創作システム」になる。彼は、ストリーミング時代の成功指標が再生数なら、生成AI時代のそれは参加度になるだろう、と予測する。その構図は音楽に限らず他のコンテンツタイプにも言えるのかもしれない、と考えさせられた。
また、カーシュボームはこの流れを悲観していないという点も面白い。世界の音楽サブスクリプションの契約者数が10億に迫り市場が飽和すると、映画やスポーツやゲームの業界で起きている「独占コンテンツ」の波が音楽業界にも来る。音楽は独占販売をしていない最後のバーティカルなのだ、というのが彼の読みだ。
もうひとつの軸がIRL(現実の体験)で、スクリーンタイムが加速するほど反対方向の引力が強まる。また、ブランドはメディア企業になり、ボーズがレーベルを立ち上げ、ファレルはLVMHのオフィスでアルバムを録ってランウェイで初披露する。
Lobsterrではこれまでも旧譜のリバイバルを取り上げてきたが、終盤の音楽業界のメディア化などは新しい視点で面白かった。そして、「文化を理解する人間が勝つ」という結論が印象的だった。
The Music Business Has a New Music Problem SPINNetflixの株価急落が示すもの
この『The Honest Broker』の記事は、テック業界を支配してきた「オーディエンス・キャプチャー(観客の囲い込み)」戦略の崩壊の兆しを、Netflixの株価急落を起点に論じている。
Netflixは、新作の脚本ドラマの本数を減らし(ピークは2022年)、その一方でサブスクリプション料金を上げる、というシンプルな二段構えを行なってきた。安い月額で何年も前に囲い込んだ客からは、少なく与えて多く取っても逃げられない、という賭けでもある。
しかし、その賭けは外れ、2026年7月の四半期決算を受けてNetflixの株価は急落し、過去2年分の株価上昇を帳消しにした。しかも視聴者数の開示も2027年まで停止するという。看板作品のシーズン2が観られていない、新シリーズへの関心が弱いというデータもある。
ジオイアが面白いのは、これをNetflixの問題ではなく、業界の構造的変化の一部とみなす点だ。プリンターとトナー、サブスク型ソフトウェア、マイレージから派生したロイヤルティプログラム、GoogleもMetaもApple も、程度の差はあれ同じ構造で動いている。AIによるスロップ量産も、人間の作り手への依存を減らしてコンテンツ原価を下げるという意味で、この戦略の第一段階そのものだとジオイアは分析する。ジオイアによると、BCGではこれは「ミルキング」と呼ばれていたそうだ。投資を絞って価格を上げ、キャッシュカウから搾れるだけ搾る。ただしそれが短期にしか効かない。Metaは今年第1四半期に創業以来はじめてデイリーユーザー数が減少した。囲い込みで成功したトップの企業がオーディエンスを失い始めているなら、他社が無事でいられる理由はないだろう。
そしてジオイアは、この悪夢は私たちにとっての祝福だと語る。囲い込みが機能しなくなれば、企業はオーディエンスを満足させる仕事に戻らざるを得ないからだ。
ジオイアがいう通り、そうした動きになることでユーザー側の満足は上がるかもしれないが、そのモチベーションの根源が株価や売上向上だけにある限り、また短期間で別の「メタクソ化」が起きるだけなのだろう。
The Collapse at Netflix Signals the End of Audience Capture The Honest Broker「おばあちゃんの趣味」に回帰する若者たち
キルティングや養蜂、製本、木のスプーン彫りなど、何世紀も前からの手仕事を教える「フォークスクール」に、ミレニアル世代とZ世代が押し寄せていることについて『ニューヨーク・タイムズ』が伝えている。
フォークスクール運動は1840年代のデンマークで、教育者ニコライ・グルントヴィが提唱した「生きるための学校」に端を発し、19世紀末にアメリカへ渡った。現在では北米に100校以上が存在し、ミシガン州のグリーン・ドア・フォークスクールやノースカロライナ州のジョン・C・キャンベル・フォークスクールなど、若年層の生徒が過半数を占める学校も増えている。
ジョージタウン大学のカル・ニューポート教授は、こうした「おばあちゃんの趣味」が習得に時間と集中を要する一方で、明確に満たされる達成感をもたらす点を指摘する。フォークスクール・アライアンスのマリ・サンボーンも、手仕事の習得が失われつつある伝統やコミュニティ感覚を取り戻す手段になっていると語る。アーティストのエラ・エムホフも、AIが生活に浸透する中で、人間らしい体験を手放したくないという欲求がこの現象の背景にあると指摘している。デンマークの心理学者アン・キルケタープは、こうした手仕事への没入が脳の「デフォルト・モード・ネットワーク」の活動を鎮め、雑念や反芻思考を静める効果を持つと説明し、「meaningful self-forgetfulness(意味のある自己忘却)」と呼んでいるのはとても興味深い。
The Comforting Resurgence of ‘Grandma Hobbies’ The New York Times「Zyn化」する消費財市場
ニコチンパウチ商品「Zyn」の人気にあやかり、カフェインやCBD、メラトニン、さらには歯のホワイトニング成分まで詰め込んだパウチ商品が続々と登場していることを『Business Insider』が伝えている。起業家エリック・ドライマーが立ち上げたウルトラ・パウチは、睡眠用と集中力用の2種類を展開し「ニコチンとアデロールとの間に生まれた子ども」を謳うブランドだ。サプリメント扱いのためFDAの承認は不要という。フィリップモリスは2025年に8億8000万缶のニコチンパウチを出荷し、前年比37%増を記録した。
1日12〜18時間もパウチを口に含み続ける人がいる実態について、歯科研究者は口内の粘膜を傷める恐れがあると懸念を示す。専門家からも、効果や安全性が定かでない商品にあえて身を投じる消費者の姿勢を危ぶむ声が上がっている。
サプリメントは規制が緩く、科学的根拠の乏しい効能表示も横行している。スウェーデンではすでに女性の使用率が男性を上回っており、パウチ市場はニコチン以外の領域にも拡大を続けそうだ。
The Zyn-ification of everything Business Insider外出することの終焉と「偶然」の再構築
この『UnHerd』の記事は、ニューヨークという都市から「偶然」が失われ、公共空間が、最適化された体験の消費場所に変わってしまった様子を描写している。
劇作家でライターのマシュー・ガスダは、一区画おきにスマッシュバーガーの店があり、ジェラート屋があり、ブリトーのトラックがあり、高級ジムとペプチド注射のクリニックが並ぶ街の単調さを嘆く。人々の話題も同じで、ワールドカップ、『オデュッセイア』の予告編、テイラー・スウィフトの結婚式など、フィードを流れてくるものが、そのまま会話の中身になる。
ガスダは、みんなが同じ疑似イベントを追いかけることは文化を生まないどころか、オリジナルで自発的なものからエネルギーを吸いとる、と語る。この均質化に向かう構図を彼は「グロベリーズ(globalese)」と名づける。
飲食店のメニューはトレンドを反映し、バーの内装はTikTokの画角に合わせて設計され、バーはスマホを見る場所になる。しかも高い家賃がその流れを固定する。著者は、これからは私的な空間が、かつて公共空間が担っていた、見知らぬ者同士が偶然出会って話す場所、という役割を引き受けることになるだろうと予測する。
記事の終盤に出てくる「Summer of Ludd」という若者のスマホ断ちムーブメントの描写がよかった。公園で誰も記録を取らずに演奏していたから、その午後は複製も転売もできない一回性のものになった、という一文に、この記事の主張のすべてが詰まっている。
The end of going out UnHerd

🌿 Cool Things of the Week

出張帰りの飛行機で『プロジェクトヘイルメアリー』を観ました。原作も読んでみようと思います。『The Atlantic』が「宇宙に連れて行ってくれる6冊」を紹介しています。
Six Books That Take You to Space

eps.192 : Mesofacts|Apple Spotify
女性の体重が経済格差を左右する / 退職を前借りする世代 / 富裕層が向かうのはゴルフ場ではなくプライベートサーキット / カンヌが本当に売っているもの

eps.191 : A Thousand Strangers|Apple Spotify
「大人」という幻想を手放すとき / ミニオン語というアルファ世代の新しい共通語 / ホットピンクというW杯の新しい制服 / コンクリートという地質学

eps.190 : Myth and Scarcity|Apple Spotify
エンタメの脱グローバル化 / 中国で「バーチャル両親」が流行る理由 / 税制の実験場としてのカリフォルニア / ウェルネスという名の強迫 / スロップ時代に何が残るのか

Lobsterrのメンバーシップ「Lobsterr Friends」が始まりました。「活動を応援したい」と思って頂ける方が、金銭的にロブスターをサポートできるプログラムです。コンテンツに対する対価ではなく、応援の気持ちとしてのプログラムですが、編集後記ポッドキャスト、コミュニティ、イベントやグッズへの先行案内などの特典をご用意しております。ご興味ある方はこちらまで。

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