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inquire Letter · Jul 13, 2026

#83 創造性を育む世界との向き合い

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inquire.jp, モリジュンヤ · inquire Letter

暮らしにデジタルデバイスが深く入り込んだいま、おもちゃはどのような意味を持ち続けられるのでしょうか。先日、劇場で観た『トイ・ストーリー5』には、その問いを考えるための手がかりがあるように感じました。

これまでのシリーズが「子どもの成長」や「別れ」を描いてきたとするなら、本作の中心にあるのは、「デジタルデバイスに囲まれた時代の遊び」です。

監督のアンドリュー・スタントンは、「子どもたちは以前ほどおもちゃで遊ばなくなっている」という現実から企画を出発させたと語っています。ただ、作品が差し出しているのは、「テクノロジーを排除すべきだ」というメッセージではありません。むしろ、「遊びはこれから、どのように変化していくのか」という問いです。

とりわけ印象に残ったのは、子どもたちの自由な発想と、身体や空間を使って遊ぶ姿でした。

作中では、おもちゃを手にした子どもたちが、想像を巡らせながらごっこ遊びをする様子が描かれます。子どもたちは、おもちゃ本来の用途や役割にとらわれません。自分たちが想像した物語に合わせて、新しい役割を自在に与えていきます。そこで展開される世界観も筋書きも、驚くほどハチャメチャです。けれど、そのまとまりのなさを気にせず、目の前のものを自由に組み替えて楽しむことにこそ、遊びの大切な部分があるように思えました。

こうした遊びには、身体性も伴います。身体を動かし、空間を自由に使い、ときにはペットまで巻き込みながら、目の前の環境そのものを遊びの一部へと変えていく。デジタルデバイスを使った遊びにも、多様な可能性があります。一方で、画面のなかで完結する遊びでは、身体や空間の使い方が、あらかじめ設計された枠組みに収まりやすい面もあるのかもしれません。

想像に先回りして制限をかけず、身体や周囲の環境を使って表現してみる。その過程で友達とのつながりが生まれ、創造性も育まれていくのでしょう。

そして、この問いは子どもだけに向けられたものではないように感じます。大人になると、遊ぶこと自体が難しくなり、デジタルデバイスと向き合う時間も増えていきます。自分は、想像を広げる余白をどれほど持てているだろうか。創造性を発揮するには、自分を取り巻く環境や日々の習慣を、あらためて見直す必要があるのかもしれません。『トイ・ストーリー5』は、そんな問いを持ち帰らせてくれる作品でした。

というわけで、今週のテーマは、「創造力」。

創造力は、特別な才能を持つ人だけのものではありません。仕事でも、学びでも、創作でも、何かに夢中になって試し、対話し、失敗を重ねる営みのなかで育まれていきます。

創造力はどこから生まれ、どのような環境や姿勢によって育まれるのか。仕事や人生を豊かにする「創造力」をめぐる3つのシグナルを紹介します。

ピクサー流 創造するちから』は、ピクサー共同創業者のエド・キャットムルが、数々の名作アニメーションを生み出してきた経験をもとに、「創造性を育む組織」のあり方を綴った一冊です。

本書が伝えるのは、優れたアイデアは一人の天才から生まれるのではなく、失敗を恐れず挑戦し、率直に意見を交わしながら磨かれていくということです。

その象徴的な実践が、映画制作の途中段階で信頼できる仲間が忖度なくフィードバックを送り合う「ブレイントラスト」。ピクサーには「Story is King(ストーリーがすべてを支配する)」という哲学があります。

監督やスタッフは個人のエゴを手放し、自分自身の感情や失敗、迷いといったパーソナルな経験を作品に持ち寄り、お互いに率直な対話を重ねながら物語を磨き上げていきます。

肩書きや上下関係ではなく、作品をより良くするという共通の目的のもとで対話を重ねるこの仕組みは、創造性を支えるのは個人の才能ではなく、安心して挑戦し、失敗できる環境や文化であることを教えてくれます。

また、ピクサー映画が人々の心を打つ理由の一つは、監督や制作陣の「個人的な体験」がストーリーの核に込められていること。

たとえば『カールじいさんの空飛ぶ家』では、監督ピート・ドクターが抱えていた「すべてを投げ出して一人で遠くへ逃げたい」という思いが、風船で家ごと旅立つカールの姿に重ねられています。

一方、『ファインディング・ニモ』では、父親になったアンドリュー・スタントンが、息子を愛するあまり過保護になってしまった自身の経験が、ニモを心配しすぎる父・マーリンの姿に投影されています。創作とは空想だけで生まれるものではなく、自分自身の人生や葛藤と向き合うことから生まれる。。そんなピクサーのものづくりの姿勢が、作品に深い共感を与えています。

さらに、ピクサーのオフィスにも、その思想は息づいています。社員のデスクにはおもちゃや本、作品づくりのヒントになるものが並び、食堂やトイレのサインにまでキャラクターが登場するなど、遊び心があふれています。

まるで自室のようにリラックスできる空間でありながら、偶然の出会いや会話が生まれる場所でもある。そうした環境そのものが、人の想像力や試行錯誤を支えているのかもしれません。

人にしかできない創造性とは何か。そして、その創造性を育む環境とはどのようなものか。創造性の本質を考えるヒントに満ちた一冊です。

教育学者・ラーニングアーティストの上田信行さんは、『プレイフルラーニング』と『プレイフル・シンキング』を通して、「遊び」を子どものための活動ではなく、人が学び、働き、創造するための本質的な営みとして捉え直しています。

ここでいう「プレイフル」とは、「おもしろいこと」ではなく、何かに本気で取り組み、ワクワク・ドキドキしながら夢中になっている状態のこと。なぜ楽しさや興奮を感じるのかというと、それは本気だから。何かに熱中しているときの前向きな気持ちこそが、人を自発的な学びへと導きます。

上田さんは、「プレイフル」は「遊び心」というよりも「真剣勝負」だと語ります。本気で向き合うからこそ楽しく、夢中になれる。そして、「できるかどうか(Can)」ではなく、「どうしたらできるか(How)」と考え、自分の身の回りにある人やモノ、環境を活かしながら試行錯誤する姿勢こそが、新しい学びや創造を生み出す原動力になるといいます。

『プレイフルラーニング』では、正解を教わるのではなく、自ら問いを立て、試し、失敗しながら学ぶプロセスの大切さを説き、『プレイフル・シンキング』では、その考え方を仕事や組織づくりへと広げています。

効率よく正解を求めるのではなく、仲間と対話し、失敗も学びに変えながら、新しい価値を生み出していく。「遊ぶように学び、働く」という姿勢が、創造性を育んでいきます。

サウンドバム」は、サウンドデザイナーの川崎義博さんを代表に、働き方研究家の西村佳哲さんらによって1999年に始まった、「音の旅」をテーマにしたプロジェクトです。「bum(バム)」には英語で「何かを探しながら放浪する旅」という意味があり、その名の通り、ジャングルの奥地から都会の街角まで世界各地を訪れ、レコーダーとマイクを片手に、人々の暮らしや自然が奏でる音を採集してきました。

私たちは旅に出ると、美しい景色を見つけては写真を撮ります。しかし、写真を撮った瞬間に、その風景を「見た」と思い込み、本当の意味で世界を感じることを終えてしまっているのかもしれません。サウンドバムは、そんな旅のあり方を問い直します。カメラではなく耳を使うことで、普段は見過ごしてしまう暮らしの気配や自然の息づかいに気づき、世界ともう一度出会い直すのです。

これまでフィジーやアラスカ、ポルトガル、キューバ、台湾など世界各地を訪れ、カヤックの上から島の生活音に耳を澄ませたり、スコールが植物やトタン屋根を打ちながら近づいてくる音を録音したり、オーロラの音を探しに旅をしたりしてきました。目的地を「見る」のではなく、「聴く」ことで、その土地の風景はまったく違って見えてきます。

世界をゆっくり観察し、まだ気づいていない豊かさや違いを発見すること。立ち止まり、耳を澄ませ、世界を面白がること。その感覚こそが、創造力の源となるかもしれません。

こちらはイベント情報など、inquireからのお知らせを掲載するコーナーです。

7月23日(木)に、inquiring futures #3「いい会社、いいブランド、いい生活者の歩みと現在地。ライフスタンスのこれからを問う」を池尻大橋のHOME/WORK VILLAGEにて開催します。

企業やブランドのビジョン・思想と、個人のライフスタンスの重なりを探究してきた のが、「Lifestance EXPO」です。 今回は、PARaDEを率いてきた中川淳さんと佐々木康裕さんをお迎えし、改めてこれからのライフスタンスを考えます。

いい会社とは誰にとっていい会社なのか。
いいブランドとは何を社会にひらく存在なのか。
いい生活者とはどのような人なのか。

お二人の対話を起点に、参加者一人ひとりが自分の問いを持ち寄り、ともに考える時間にしたいと思います。

※予定していたゲストのお1人の出演が難しくなったため、登壇者が変更になりました。

詳細・お申し込み

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

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