こんにちは、I&COです。このニュースレターでは、ブランドの視点でこれからの経営を考えるヒントとなるようなコラムや、I&COの最新情報を隔週でお届けしています。
今回は、7月13日に開催した「I&CO Foresight ‘26」より、株式会社LIXIL 常務役員 Design & Brand Japan の羽賀豊氏と、パナソニック コネクト株式会社 取締役 執行役員 シニア・ヴァイス・プレジデント CMOの山口有希子氏、I&CO Tokyoの近藤まり子によるトークセッションの内容をお届けします。
近藤:ここ数年、経営者の方々とお話しする中で、「社内からどうブランドを構築していくか」という課題をよく伺うようになりました。そこで今日は豊富な実践知をお持ちのお二人をお招きし、「ブランドのフライホイール」の起点となる組織の北極星を定め、それを社員の行動やプロダクトへと浸透させるプロセスに焦点を当てていきます。
近藤:羽賀さんは、LIXILで国内市場のブランド、デザイン、マーケティングを統括する一方、ハイエンドブランド「NODEA」の立ち上げをリードし、直近1年ほどはLIXILブランドの再定義と実行に取り組まれています。また、山口さんは、ブランド構築、デザイン、マーケティングをグローバルで統括するとともに、担当役員として社内のカルチャー&マインド改革を推進されています。
本日は会場に200名以上の方にお越しいただいていますので、まずは皆さんに「社内から始めるブランド構築のどこに難しさを感じていますか?」という質問を投げかけてみたいと思います。羽賀さんと山口さんのお二人は、この選択肢をご覧になってみていかがでしょうか。
山口:「目指すべき状態についての認識がすり合っていない」。これは、推進する側にとっては大変ですね。
羽賀:そうですね。ただ、ブランドを構築していくうえでは、その共通認識をどうつくるかというところが、まさに肝になると思います。
近藤:最も多い課題が「目指すべき状態についての認識がすり合っていない」、次いで「表面的な施策で終わってしまう」に票が集まりました。一方、「トップ自身が障壁になっている」は、10%を下回る結果となりましたね。
皆さんが感じている課題も見えてきたところで、ここからは、お二人が実際にどのように社内でブランドを動かしてきたのかを具体的に伺っていきたいと思います。
近藤:組織が目指していく北極星、つまり組織の拠り所となるパーパスやブランドの方向性を定めるところから、フライホイールは回り始めます。お二人はその北極星をどのように見つけ、形にしていったのでしょうか。まずは山口さんに伺います。
山口:2022年にパナソニックがホールディングス化し、事業会社としてパナソニック コネクトができたことを機にパーパスをつくりました。社内には8つの事業部があり、それぞれが違うビジネスを推進しています。パソコンのようなわかりやすい製品を扱う事業もあれば、専門的な産業用機械を扱うBtoB事業もある。そうした中でグローバル共通のパーパスやバリューをつくるのは、ものすごく大変な試みでした。アンケートや対話を重ねながら、組織の一番コアにあるものをカービング(彫刻)していくような感覚でしたね。
みんなが何にプライドを持って働いているのか、この会社のどこを本当に好きなのかを言語化し、腹落ちする言葉にしていく。そこが一番のチャレンジだと思います。そうして生まれたのが「現場から 社会を動かし 未来へつなぐ」というパーパスです。
近藤:さまざまな事業や会社を串刺しする言葉をつくろうとすると、どうしても表現が丸くなり、自分たちらしさを出すのが難しくなるように思います。一方で、パナソニック コネクトは「現場から 社会を動かし 未来へつなぐ」、LIXILは「Lifescape Design」と、それぞれ各社らしい言葉に行き着いています。自分たちらしさを前に出すために、どのようなことを意識されたのでしょうか。
山口:共通項は探しますが、お客様に提供している価値までが丸くなるわけではありません。利益を出し続けているということは、そこに必ず尖った価値があり、お客様から選ばれているということ。大切なのは丸くならないようにすることよりも、自分たちらしい価値を見つけることです。それはどの会社にも絶対にありますが、言語化するのが難しいんですよね。
羽賀:LIXILも本当に同じような状況です。15年前にTOSTEMやINAXなど異なる5社が集まってできた会社なので、もともとブランドを串刺しする共通の何かがあったわけではありません。
ただ、それぞれの会社が大切にしてきた価値観や創業者の言葉をたどると、「人の暮らしに貢献したい」「自然から学ぶ」「自然とともに暮らす」といった感覚が見えてきました。単に既存の共通項を探すのではなく、社員みんなが「これが自分たちの会社だ」と思える感覚を見つけることにこだわったことで、自分たちらしい言葉に行き着いたのだと思います。
こうして生まれたのが、空間と時間を掛け合わせた住体験のデザインを意味する「Lifescape Design」、そして「愛すべき日常を、つくろう。」というブランドスローガンでした。
羽賀:私たちは家そのものをつくっているわけではありませんが、ドアや窓、キッチンといった日々の小さな体験の積み重ねは人生に大きな影響を与えます。ブランドムービーでは、ある夫婦が結婚して家に住み、子どもが生まれ、成長して巣立ち、やがて家族を連れて戻ってくるまでを描きました。人生という時間軸でお客様と向き合っていく、私たちの思いを込めています。
近藤:このブランドムービーは、社内外からの反応も非常に良かったと伺っています。北極星を定めるうえで大切なのは、会社やそこで働く人の中にある「らしさ」の粒を見つけ、それを突き詰めていくこと。その積み重ねが、丸くならない、自分たちらしい言葉につながっていくんですね。
山口:社内から価値を「カービング」していくうえでは、さまざまな部門とどれだけ深く連携できるかが重要だと思っています。特にグローバルでは、例えば北米とヨーロッパで好まれる英語表現が異なるといったようなこともある中で、互いに歩み寄りながら、誰もが自分たちの北極星として使える言葉にしていく必要があります。そこに至るまでには、相当なパワーが必要でした。
近藤:北極星を決めるプロセスそのものが、すでに社内へ浸透させるプロセスそのものになっていたんですね。
羽賀:LIXILは今年の春に発信を始めたばかりで、社内への浸透もまさに進行中です。説明会やアンケートを行うと、すぐに共感する人もいれば、様子を見る人や、気持ちや態度がなかなか変わらない人もいる。マーケティングを展開する時のターゲットと同じように、社内にもセグメントが存在するんですよね。だからこそ、まずは共感してくれる人を見つけ、その輪をどう広げていくかに注力しています。各部署のキーパーソンに共感してもらえれば、その人の影響力を通じて、さまざまなレイヤーへアプローチしていくことができますから。
山口:新しいパーパスやブランドコンセプトは社員にとって初めて触れるものなので、まずは繰り返し言葉に触れてもらうことが重要だと思います。私たちの場合、ローンチ時には社長を一番のアンバサダーと位置づけ、継続的に発信してもらいました。
ただ、日々ものづくりに携わる社員が「現場から 社会を動かし 未来へつなぐ」という言葉を自分の仕事と結びつけるのは、簡単なことではありません。そこで、社員が体現すべき行動指針(コア・バリュー)もセットでつくり、人事部門や総務部門と連携して、評価制度やマネージャー研修にもその価値を組み込みました。さらに、社内コミュニケーションのトーン&マナーやオフィスの空間デザインまで一貫させることで、パーパスを言葉だけでなく、日々の仕事や体験の中でも感じられるようにしています。そういう意味では、デザインは浸透を支える大きな力になりました。
山口:ブランドは、マーケティング部門だけのものではなく、経営そのものの北極星です。だからこそ、人事、総務、事業部のトップとも連携し、全社で動かしていくことを大切にしています。
近藤:最後に、お二人が考える「ブランドを社内に実装するうえで大切なこと」を、一言ずつ伺いたいと思います。まず山口さん、いかがでしょうか。
山口:あえて社名とリンクさせて、「Connect(つながり、つなげる)」という言葉を選びました。パナソニックグループには事業領域を社名に掲げる会社が多いなか、パナソニック コネクトは事業領域ではなく、ある意味でパーパスそのものを社名に掲げています。
ブランドは、人と人、組織と組織、そして各事業部のコンセプトがつながってこそ浸透していくものだと思います。つながり続け、つなげ続ける。その地道な積み重ねが、社内への浸透には欠かせません。
近藤:今おっしゃった「各事業部のコンセプトがつながる」というのは、どういう状態なのでしょうか。
山口:「現場から 社会を動かし 未来へつなぐ」という全社のパーパスと、それぞれの事業部が目指すことや日々の活動が、きちんとつながっている状態です。言葉の表現を一律にそろえることよりも、その根底にある考え方が一貫していることが大切だと思っています。
近藤:ありがとうございます。羽賀さんはいかがですか。
羽賀:私の一言は「共感と継続」です。社内の人が共感しなければ、なかなか一人ひとりの行動にはつながりません。私の部門だけで社内すべての活動を見られるわけではないので、最終的には現場の一人ひとりが自分なりに理解し、咀嚼して、行動に移していく。そこまで広がって初めて、ブランドが組織に根づいていくのだと思います。表面に貼ったシールのようなものではなく、心の奥底にある価値観に触れ、「これだ」と思える瞬間がなければ、活動は続きません。
羽賀:その共感を生み出すうえでは、社外からの評価も大きな力になります。代理店向けの年次大会で「愛すべき日常を、つくろう。」というブランドスローガンを発表した際には、お取引先の社長が涙を流しながら「自分たちが会社としてやらなければならないことを、もう一度思い出させてくれた」と言ってくださったんです。そこで、共感が持つ力の大きさを実感しました。
近藤:共感があるからこそ、一人ひとりが自分なりに咀嚼して、行動に移していけるんですね。
羽賀:そこがとても大きいと思います。単なるメッセージや広告ではなく、「自分たちはこういうことをやっていくんだ」という意識が一人ひとりの中に根づき、行動に表れる。どこまで響くかを事前に計算することはできませんが、社内外を問わず、人の感情に触れ、共感を生むことは、本物のブランドになるために不可欠だと思います。
そして、もう一つ大切なのが継続です。うまくいくまでやり続ければ、成功率は100%になる。ブランドは何でも包み込むものではなく、「自分たちはここを大切にする」と範囲を定めるものでもあります。その核となるエッセンスを、ぶれずに言い続けられるかどうかが肝だと思います。
近藤:ブランドを社内に実装するうえで最も大切なこととして、山口さんからは「Connect(つながり、つなげる)」、羽賀さんからは「共感と継続」という言葉をいただきました。羽賀さん、山口さん、本日はありがとうございました。
近藤 まり子(こんどう まりこ)
I&CO Tokyo 代表。Publicis Groupe Japan / ビーコンコミュニケーションズ、博報堂アイ・スタジオを経て、2021年4月にI&CO Tokyoに参画。2024年7月より現職。企業のパーパス・ビジョン策定とその後の実行フェーズの支援、日本・アジアとグローバルの相互展開を強みとする。

Comments
Nothing yet. Say the first thing.
Sign in to join the conversation.