やらなきゃいけないと分かっているのに、なぜか手がつかない仕事。
あなたの人生にも、思い当たるものがありませんか?
提出しなければいけない書類…
決めなければいけない契約…
返さなければいけない連絡…
作らなければいけない企画…
わたしには、あります。
しかも、数日前からではありません。
けっこう前から、止まったままの仕事があります。
今日は、そんな話をさせてください。
わたしが止めてしまっているのは、スマホのアプリを公開するための登録手続きです。
アプリ自体は、もうあります。
作ったものもある。
あとは登録して、公開に向けて進めればいい。
言葉だけにすると、かなり簡単そうです。
でも、実際には進んでいません。
最初は、自分の名前で登録するのか、屋号で登録するのかを決める必要がありました。
どちらでもいいと言われると、逆に迷います。
自分の名前で出すのか。
活動名で出すのか。
今後のことまで考えると、どちらが自然なのか。
ここで、少し調べました。
すると、屋号で登録する場合は、住所を公開しなければいけないらしい。
では、公開する住所はどこなのか。
いま届け出ている住所は、自宅になっています。
ということは、先に、その届け出を直したほうがいいのかもしれない。
でも、届け出を直すなら、別の手続きも必要になるかもしれない。
そう考え始めたところで、手が止まりました。
やる気がなかったわけではありません。
面倒だから、後回しにしたわけでもありません。
もちろん、面倒ではあります。
でも、いちばん大きかったのは、どこから触ればいいのか、分からなくなったことでした。
こういう状態を、わたしは「紐がもつれている」と呼んでいます。
もつれた紐を、見たことがありますか?
イヤホンのコードでもいいです。
ポケットに入れていた充電ケーブルでもいい。
取り出したら、なぜか小さな結び目がいくつもできている。
そのとき、早く使いたいからといって、両端を力いっぱい引っぱるとどうなるでしょうか。
たいてい、もっと固くなります。
結び目が締まってしまう。
そして、最初よりもほどきにくくなる。
止まっている仕事も、これと同じです。
「早く進めなければ」と思って、気合で取りかかろうとする。
パソコンを開く。
関連するページを検索する。
資料を読み返す。
でも、どこに手をつけても別の問題にぶつかる。
すると、さらに焦ります。
焦るから、もっと大きな力で進めようとする。
結果として、仕事の全体が、さらに固まっていく。
ここで、いちばん避けたいのは、止まっている原因を自分の意志の弱さにしてしまうことです。
「なんで、こんな簡単なことができないんだろう」
「自分は行動力がないな」
「また先延ばししてしまった」
そんなふうに、自分を責めてしまう。
でも、実際には、怠けているのではないかもしれません。
判断のうしろに、別の判断がぶら下がっているだけです。
名前で出すか、屋号で出すか。
屋号で出すなら、住所をどうするか。
住所を変えるなら、先に何を届け出るか。
その届け出をするなら、必要な書類は何か。
1つの仕事に見えていたものが、いくつもの判断に分かれている。
しかも、その判断が順番に並んでいない。
あちこちから紐が伸びて、互いに絡まっている。
これでは、手が止まって当然です。
わたしは、ここをかなり反省しています。
止まっている仕事を見ると、つい「作業が足りない」と考えていました。
もっと時間を使おう。
もっと調べよう。
もっと集中しよう。
でも、必要だったのは、作業量を増やすことではありませんでした。
決まっていないことを見つけることでした。
止まっている仕事には、いくつか分かりやすいサインがあります。
1つ目は、締め切りを何度も先送りしていることです。
本当に時間が足りない仕事なら、忙しい時期が過ぎれば進みます。
一度、予定を変更すれば、次の予定を置けます。
それなのに、何度も先送りしている。
「今週は無理だった」
「来週こそやる」
「もう少し調べてから始める」
この状態が続いているなら、単純な時間不足ではない可能性があります。
2つ目は、その仕事の内容を、人に説明できないことです。
「何をすれば終わる仕事ですか?」と聞かれたときに、うまく答えられない。
「登録を進めます」
「企画をまとめます」
「確認しておきます」
そう言うことはできる。
でも、最初の作業は何か。
どこまで終われば完了なのか。
誰の判断が必要なのか。
そこまで説明できない。
これは、仕事が自分の中でも整理されていないサインです。
3つ目は、調べ物ばかりしていることです。
これは、わたしが一番よくやります。
検索しているあいだは、動いている感じがするんですよね。
関連する記事を読む。
公式ページを確認する。
他の人の事例を見る。
新しい情報を集める。
でも、調べたあとに何を決めるのかが、決まっていない。
そうなると、調べること自体が目的になってしまいます。
本当は、決めるために調べているはずなのに、調べ続けることで決めることから逃げている。
これも、紐がもつれている状態です。
こういうとき、わたしがやることは、とても地味です。
紙を1枚用意します。
パソコンのメモでもいいのですが、できれば紙にします。
画面の中だと、すぐに別のページを開いてしまうからです。
そして、止まっている仕事の中で、決めなければいけないことを、思いつくままに書き出します。
順番は考えません。
きれいな文章にも、しません。
「名前か屋号か」
「住所を公開するのか」
「届け出の住所はどうするか」
「登録に必要な書類は何か」
「そもそも、どのアプリストアに出すのか」
このように、頭の中にあるものを外へ出します。
ここで大事なのは、正しい答えを書くことではありません。
決まっていないことを、決まっていないまま書くことです。
わたしは、頭の中だけで考えていると、すべてが1つの大きな問題に見えてしまいます。
「アプリを公開する」という大きな塊です。
大きな塊は、重い。
重いから、持ち上げられない。
でも、紙に書くと、いくつかの小さな箱に分かれます。
名前を決める箱。
住所を確認する箱。
手続きを調べる箱。
必要書類を確認する箱。
それぞれの箱に名前がつくと、少しだけ扱いやすくなります。
次に、その項目を矢印でつないでいきます。
「これが決まらないと、次が決められない」という関係を見つけるのです。
たとえば、屋号で登録するかどうかが決まらないと、住所を公開するかどうかを判断できない。
住所をどうするか決まらないと、届け出を直す必要があるか分からない。
届け出を直す必要があるか分からないと、必要書類も確定しない。
このように、判断の前後をつないでいきます。
すると、たいてい、いちばん上流にある問題が見えてきます。
いちばん上流というのは、最初に決めないと、その下の判断が全部止まってしまうものです。
わたしの場合、いちばん上流にあったのは、住所でも、名前でもありませんでした。
そもそも、何を公開したいのか、でした。
アプリを出す。
アプリを出すこと自体は分かっているつもりでした。
でも、誰に向けて出したいのか。
どの活動の一部として出したいのか。
このアプリを、今後どの名前で育てたいのか。
そこが曖昧なまま、登録方法だけを決めようとしていた。
順番が、まるっきり逆だったんです。
先に登録方法を決めようとしていたから、名前や住所の判断も不安定になっていた。
「何をしたいのか」が決まれば、「どの名前で出すのか」は、かなり自然に絞られます。
すると、住所について調べる意味も変わってくる。
必要な手続きも、調べる範囲も小さくなる。
仕事が前に進んだわけではありません。
まだ登録は完了していません。
でも、どこを決めれば再スタートできるのかが、見えるようになりました。
これは、かなり大きな変化です。
なぜ、わたしたちは、ほどく作業を飛ばしてしまうのでしょうか。
たぶん、成果に見えないからです。
紙に項目を書き出しても、登録画面の入力は終わりません。
矢印を引いても、売上は増えません。
決まっていないことを3つ並べても、誰かに褒められるわけではありません。
外から見ると、何も進んでいない。
だから、すぐに作業へ入りたくなる。
資料を作る。
フォームに入力する。
メールを送る。
会議を設定する。
目に見える行動をしたほうが、「仕事をしている」感じがします。
でも、前提が決まっていないまま作業を進めると、あとで戻ることになります。
名前を仮で決めて資料を作ったのに、結局、別の名前に変更する。
住所を確認せずに申請を始めたのに、途中で必要な手続きが見つかる。
担当者に相談しないまま進めて、最後にやり直しになる。
この「あとで戻る時間」は、最初には見えません。
だから、最初の整理を省いたほうが早く感じます。
しかし、飛ばした分は、別の場所で請求されます。
しかも、やり直しになると、最初よりも気持ちが重くなります。
「また戻ってきた」と感じるからです。
わたしも、これまで何度も同じことをしてきました。
分からないところを残したまま、分かる作業だけを先に進める。
いったん形になったように見える。
でも、最後に決めていない部分が出てきて、全体が止まる。
そこで、また別の作業を始める。
こうして、未完了の仕事だけが増えていきます。
未完了の仕事は、頭の片隅に残り続けます。
作業をしていない時間にも、どこかで思い出す。
「あれもやらないといけない」
「まだ終わっていない」
「そろそろ進めないとまずい」
この小さな負担が、毎日積み重なる。
実際の作業時間より、抱えている時間のほうが長くなっていることもあります。
だから、止まっている仕事は、早く完成させるだけが解決ではありません。
まず、何が止めているのかを見えるようにする。
「自分が怠けている」のではなく、「この判断が未決定だから止まっている」と言葉にする。
それだけでも、こころの重さは変わります。
分からないまま抱えている状態が、一番しんどいのです。
分からないものは、どこまでも大きく見えます。
でも、分からない理由が分かると、問題は急に小さくなります。
この話は、個人の活動だけに限りません。
会社の仕事でも、まったく同じことが起きます。
「この案件、進めておいて」
そう言われたけれど、1週間たっても触れていない。
本人は、さぼっているつもりではありません。
やらなければいけないことも分かっている。
それなのに、資料を開けない。
こういう場合、前提が決まっていないことが多いです。
誰に確認すればいいのか。
どこまで自分で決めていいのか。
いつまでに、何を出せばいいのか。
誰が最終的に判断するのか。
前回の案件を参考にしていいのか。
この部分が空いたまま、「進めて」と言われている。
受け取った側からすると、どこへ進めばいいのか分かりません。
道がないのに、歩けと言われているようなものです。
それでも、真面目な人ほど、なんとか進めようとします。
自分で調べる。
過去の資料を探す。
似た案件を見つける。
仮の案を作る。
しかし、判断権限がないところまで進めてしまうと、あとで差し戻されます。
「そこは確認してから進めてください」
「この前提ではありません」
「想定していた相手と違います」
そう言われて、また最初に戻る。
このとき必要なのは、頑張ることではありません。
「いま決まっていないことは何ですか」と確認することです。
そして、「どれが決まれば、次へ進めますか」と聞く。
質問することは、仕事を止めることではありません。
むしろ、仕事を進めるために、必要な紐を1本ずつ分ける作業です。
自分で決めていいこと。
上司に確認すること。
相手に聞かなければいけないこと。
調べれば分かること。
この4つを分けるだけでも、かなり整理されます。
すべてを自分で抱え込もうとすると、仕事はもつれます。
自分の判断で進めていい範囲が分からないまま、責任だけを抱えるからです。
逆に、判断の境界線が見えると、手を動かせる部分が見つかります。
「ここまでは自分で決める」
「ここから先は確認する」
「この情報が揃えば、次の作業へ進む」
こうした線引きが、止まった仕事を再起動させます。
大きく前進する必要はありません。
いちばん上流の結び目を、少し緩めればいい。
ここまで話してきましたが、わたしのアプリ登録は、まだ完全には終わっていません。
正直に言うと、今日の時点でも、手続きそのものは止まったままです。
でも、前と同じではありません。
以前は、「アプリの登録をしなければいけない」という大きな塊を、そのまま頭の中に置いていました。
いまは、何を決めれば先へ進めるのかが見えています。
この差は、かなり大きい。
止まっている状態から、いきなり完了へ飛ぶ必要はありません。
再スタートできる状態に戻す。
そのために、まず紐をほどく。
この考え方を、今日は試してみてほしいと思います。
それではここで、今日のタスクです。
今週ずっと動いていない仕事を、1つだけ思い浮かべてください。
仕事でも、個人の活動でも、家の用事でも構いません。
そして、その仕事について、決まっていないことを3つだけ書き出します。
「何をすればいいか分からない」
「誰に聞けばいいか分からない」
「どこまでやれば終わりか分からない」
このような内容で大丈夫です。
きれいに整理しなくていい。
順番も、最初は考えなくていい。
まずは、頭の中から外へ出します。
書き出したら、その3つを見て、「これが決まらないと、他の2つも決められないものはどれか」を考えてください。
それが、いちばん上流の結び目です。
今日、仕事を完了させる必要はありません。
その1つについて、自分で決められるのか、誰かに確認するのか、調べれば分かるのかだけを決めてください。
もし誰かに確認する必要があるなら、質問文まで作ります。
「この仕事を進めるために、まずAとBのどちらを選ぶべきでしょうか」
「ここから先は、私の判断で進めてよいでしょうか」
「完了の条件は、どの状態でしょうか」
このように、曖昧な不安を質問へ変える。
それだけでも、紐は少し緩みます。
進められない自分を責める前に、何が絡まっているのかを見てみる。
仕事が止まっているとき、必要なのは、さらに強く引っぱることではありません。
もつれた部分を見つけて、1本ずつ分けることです。
止まっている仕事があったら、今日だけは「進める」ではなく、「ほどく」と考えてみてください。
それでは、次回のおおかみ通信もお楽しみに!
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