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デザインスプリントをビジネスの中心とするドイツのデザインエージェンシーAJ&SmartのCEO Jonathan Courtneyのビデオポッドキャストより。
「本を出せば、仕事が増えるのでしょうか」
企業経営者やコンサルタントが本の出版を考えるとき、多くの人は、著者としての権威を高め、講演や取材の依頼を増やし、名前を広く知ってもらうことを想像する。企画を練り、原稿を書き、出版社を探し、刊行後には書店やメディアを回る。一般的なビジネス書であれば、構想から結果が出るまでに二年、三年とかかることも珍しくない。
しかし、AJ&Smartが実践している「ブックファネル」は、それとはまったく異なる発想に立っている。
ここでの本は、出版事業の最終商品ではない。見込み客を自社のサービスへ招き入れるための、最初の入口なのである。
AJ&Smartが制作した本は、書店に並ぶ数百ページの大著ではない。実態としては、特定の課題を解決するための小冊子や実践ガイドに近い。ある本は、企画を始めてから販売を開始するまで、わずか6週間で完成したという。
それでも「本」という形式には、通常のPDF資料にはない強さがある。
たとえば、高額なコンサルティングや研修サービスをFacebook広告で紹介するとしよう。広告を見た人は、その会社が何を提供しているのか、なぜ自分に必要なのかを一瞬で理解しなければならない。しかし、無形のサービスを短い広告で説明するのは難しい。
その点、本は分かりやすい。
広告の冒頭で、制作者が本を手に持ち、「これは私の新しい本です」と語ればよい。見る側は、それが何であり、自分が何を受け取るのかを即座に理解できる。サービスそのものを長々と説明する前に、具体的で手に取れる入口を提示できるのである。
ブックファネルにおける本は、いわば「有料のリードマグネット」だ。無料PDFよりも存在感があり、読者から真剣に扱われやすい。それでいて価格は低く、初めてその会社を知った人でも購入しやすい。
重要なのは、ブックファネルの目的が本の販売利益ではないという点だ。
AJ&Smartのファネルでは、Facebook広告からランディングページに誘導し、低価格のデジタル書籍を販売する。その後、音声版や追加教材、関連トレーニングなどをアップセルとして提案する。
これらの売上で広告費を回収できれば、広告から継続的に見込み客を獲得しても、実質的な集客コストはゼロに近づく。場合によっては、集客段階そのものが利益を生む。
この構造は「セルフ・リクイデーティング・ファネル」と呼ばれる。日本語にすれば、広告費を自ら回収する販売導線と考えればよい。
さらに、一定のアップセルを購入した人には、無料相談や診断、キャリア相談などの予約画面を案内する。そこで初めて、会社が本当に販売したい高額サービスにつなげていく。
AJ&Smartの場合、最終的な商品には、1人あたり約1万4,000ドルの対面型ファシリテーション研修や、複数の社員が参加する法人向けプログラムがある。つまり、数ドルの本から始まった接点が、数千ドル、数万ドル規模の契約へと育つ可能性がある。
小冊子『Strategy Signal』のキャンペーンでは、約1万9,000人が登録し、そのうち8,423人が本を購入した。
本とアップセルによって構成されるファネルの前半部分は、約40万ドルの売上を生み出した。顧客1人あたりの平均購入額は、50ドル近くになったという。
しかし、より重要なのはその後である。
本を購入した人が研修やサービスを追加購入したことで、約120万ドルの売上が発生した。前半と後半を合わせると、このブックファネルが生み出した売上は約160万ドルに達した。
もちろん、これは利益ではなく売上である。広告費、人件費、制作費、研修運営費などが差し引かれる。ただし、当時のAJ&Smart全体の利益率は、概算で47%前後だったと説明されている。
それでも本当に注目すべきなのは、数ドルで販売した小冊子そのものではない。本によって、それまで会社の存在を知らなかった人が顧客になり、その一部が高額サービスを購入したという構造である。
AJ&Smartでは、新しい本をいきなり不特定多数に広告するのではなく、最初に既存の読者やメール登録者へ案内する。
これをウォームローンチと呼ぶ。
既存のファンに向けたローンチでは、ウェビナーを開催し、数量限定の紙の本を販売する。本を布で隠して発表したり、発売そのものをイベントとして演出したりする。『Strategy Signal』のウォームローンチだけでも、約7万ドルの売上があったという。
紙の本を用意する理由は、販売利益だけではない。
購入者が本を手にした写真を集めれば、広告やランディングページで社会的証明として活用できる。実際の人が本を持っている写真は、デジタルデータだけを見せるよりも信頼感を生みやすい。
その後、一般の新規顧客に向けたコールドローンチへ移行する。こちらは派手な発表を行わず、Facebook広告を静かに稼働させ、デジタル版を販売する。
興味深いのは、広告を見た新規顧客が紙の本を受け取るわけではない場合でも、広告素材としては物理的な本が効果を発揮するという点だ。AIによって画像や文章を簡単につくれる時代だからこそ、現実に存在する物体を見せることが、かえって強い説得力を持つ。
では、何について書けばよいのだろうか。
出発点は「自分が書きたいテーマ」ではなく、「最終的に何を販売したいか」である。
AJ&Smartが最終的に販売したいのは、ファシリテーションの研修やサービスだ。しかし、まだファシリテーションという言葉を知らない人に、いきなりその価値を説明しても伝わりにくい。
そこで、顧客がその一歩手前で関心を持っているテーマを探す。
たとえば、ワークショップ、デザイン思考、戦略会議、ビジネスモデル・キャンバス、会議、コラボレーションといったテーマである。
ワークショップには関心があるが、優れたワークショップの根底にファシリテーションがあるとは知らない。そのような人に向けて本をつくり、読み進めるうちにファシリテーションの価値を理解してもらう。
本は、顧客が今いる場所と、企業が顧客を連れていきたい場所を結ぶ橋になる。
AIコンサルティング会社であれば、最終的に販売したいものはAI業務自動化かもしれない。しかし、顧客はまだ「AI自動化サービス」を探しているとは限らない。
その一歩手前で、「AIエージェントを試してみたい」「社内業務にAIを取り入れたい」「最初のAI社員をつくりたい」と考えている可能性がある。
そこで『Your First AI Employee――最初のAI社員』という小冊子をつくる。さまざまな業務でAIを使う方法を紹介し、自動化の価値を理解してもらい、最終的に相談予約へつなげる。
このように、テーマは顧客の現在地から逆算する。
ブックファネルは、一度つくれば永久に同じ成果を生み続けるわけではない。
広告を開始した直後は、高い反応を得られることがある。しかし、同じ広告を長く配信すれば、徐々に反応率が落ち、顧客獲得単価が上がっていく。
AJ&Smartの経験では、特に効果が高い期間はおおむね6カ月。その後さらに6カ月ほどは一定の成果を維持できるが、やがて限界効用が低下する。
ファネルを改善し続ければ寿命を延ばすことはできる。ただし、広告、ページ、動画、アップセル、メール配信を継続的に調整する必要があり、運用負荷も大きい。
そのため、1年ほど積極的に運用した後は、広告費を抑え、常設の集客経路として残すこともある。
多くの人は「本を書けない」という理由で、ブックファネルを諦める。
しかし、実践者によれば、本を書くことはプロジェクト全体の中で最も簡単な部分だという。
難しいのは、顧客が反応する切り口を見つけること、広告の冒頭で使うフックをつくること、適切なアップセルを設計すること、見込み客を選別すること、そして数ドルの本から数千ドルのサービスまでを違和感なくつなぐことである。
『Strategy Signal』も、まったく新しい内容をゼロから執筆したわけではない。既存の研修で話していた内容を文字起こしし、構成を整理し、導入のストーリーを書き加え、実践手順として編集した。
最初の本を制作した際にも、著者はまず内容を口頭で一気に話した。それを文字起こしし、外部スタッフが章立てを整え、編集担当者が文章を書き直し、最後に本人が確認した。
最初から原稿用紙に向かう必要はないのである。
現在であれば、制作工程の一部をAIで大幅に短縮できる。
ただし、AIに「このテーマで本を書いて」と丸投げする方法は推奨されていない。一般論を並べただけの、本人らしさのない文章になりやすいからだ。
有効なのは、まず専門家本人がテーマについて自由に話すことだ。まとまりがなくても構わない。自分の経験、失敗、具体例、考え方を口頭で出し切る。
次に、その音声を文字起こしし、ClaudeなどのAIを使って整理する。重複を削り、章を分け、論理の順序を整え、読みやすい文章に変換する。
その後、本人が導入を書き直し、内容を確認し、自分の声として違和感のない表現に修正する。
AIは著者の代わりになるのではなく、散らばった思考を編集可能な原稿へ変換する編集助手として使う。この方法であれば、文章の効率と本人らしさを両立できる。
ビジネスにおける本の価値は、長さや文学性、書店での販売部数だけでは決まらない。
50ページほどの小冊子でも、顧客が抱えている課題を的確に捉え、次の行動を示し、その会社の専門性を伝えることができれば、大きな役割を果たす。
本を読んだ人が、「この会社は信頼できそうだ」「もう少し詳しく話を聞きたい」と感じる。本を入口として、メールを読み、動画を見て、相談を予約し、研修やコンサルティングを購入する。
つまり、本当に設計すべきなのは一冊の本ではない。
本との出会いから始まり、理解、信頼、相談、契約へと進んでいく、一連の顧客体験なのである。
去る 8/2 に開催された Google Devs' Innovative Crosstalk で「UIの過去・現在・未来:AI時代のヴァイブデザインとは?」というセッションで、それこそUIの過去・現在・未来の話をしてきました!講演後に話しかけてくれた方も何人もいらっしゃったり、Xの投稿をみても好評だったようで、楽しく話せたし、他では聞けない面白い内容だったと思います! 機会をくださった運営の皆様、ありがとうございました!
GDG Greater Kwansai|10/18(日) DevFest Kansai@gdgkwansai
📢 Collab Stage! 『UIの過去・現在・未来:AI時代のヴァイブデザインとは?』 👤 安藤 幸央さん (@yukio_andoh) AIがUIを作る時代に人間が描く「意図」とは? 📺 Collab Stage 配信: gdgs.jp/collab-stage #Xtalk26
8:20 AM · Aug 2, 2026 · 385 Views
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