お盆の最中ですが、いかがお過ごしでしょうか。
今回は数週前に少しだけ話題になった「デザイン業の倒産」に関する個人的見解を少しだけ。本当はニュース紹介で書こうとしたのですがあまりに長くなったのでカバーとして。
AIの広がりも影響、「デザイン業」倒産が14年ぶり高水準 ~ 2026年上半期は40件に急増 ~ | TSRデータインサイト | 東京商工リサーチ
東京商工リサーチ(TSR)が7月末に出したレポートに、「デザイン業の倒産」をトピックにしたものがありました。
見出しが強くSNSでの盛り上がりは勿論、対面で会った方からも「見ました?」と何度か聞かれたで、個人的な見解を書いてみようと思います。
まずこれは、AIの影響を測った分析ではありません。
本文でも、AIは影響要因のひとつとして触れられているだけで、40件のうち何件がAI起因なのかは書かれていません。数字の側も同じで、この40件という水準は、前年同期がわずか15件だったことにかなりの部分を支えられています。実際、2026年上半期の全国倒産は5,346件で5年連続の増加、上半期の5,000件超えは12年ぶりでした。そのなかでデザイン業40件が占める割合は0.75%で、比較対象になっている2012年上半期(45件/0.73%)の頃とほぼ変わりません。全体が2012年の水準に戻っていく過程で、デザイン業も同じ比率で戻ったと読むほうが素直だと思います。
そして、この「デザイン業」という枠組みにも疑問があります。
このカテゴリにはグラフィックとインテリアが含まれ、景気変動の位相がまったく異なる産業が束ねて評価されています。実際に本文でも、インテリア関係はハウスメーカーの倒産急増の影響によると書かれており、金利や資材高、人手不足といったAIとは全く別文脈が起点のものもあります。
またUI/UXやWebといったデジタル領域の多くは情報サービス業側に分類されており、伝統的な領域に偏った統計ともいえるでしょう。それをもって“デザイン”を主語にするのは偏りが強すぎると感じたのが正直なところです。
また、ここでいう倒産が「負債1千万円以上の法的・私的整理」であることも考えなければいけません。従業員5人未満が9割とはいえ、それでも1千万円規模の負債を作れる構造にいた会社——つまり人員と設備と立替を抱えられる“デザイン会社”は、本来の母集団のなかでは比較的限られます。
在庫も設備も持たない小規模のスタジオは、たとえ事業をたたんでもこの数字には出てきません。企業の退出は、そもそも倒産より休廃業・解散のほうが桁違いに多い。詰まるところ、このソースだけで業界全体の潮流を語るのは、論理展開の飛躍が大きすぎると個人的には思った次第です。
他方で、では何を見ればいいのかというと、ここも簡単ではありません。
デザイン業の事業所数や従業者数、売上高そのものは、5年ごとの経済センサスで今も取ることができます。ただし直近は2021年の調査で、2016年比で事業所数は8,557から9,821へ、従業者数も41,425名から42,376名へ増加しています。また国勢調査で職業を「デザイナー」とする人も、2005年の16.5万人から2020年には20.1万人へと増え続けてはいます。
また、先述した国勢調査による20.1万人のデザイナーのうち、産業分類上の「デザイン業」に属しているのは67,140人、全体の33%に過ぎません。残りは広告業、インターネット附随サービス業、情報サービス業、映像・音声・文字情報制作業、製造業などに分散しており、デザイナーの3人に2人は、TSRが集計した「デザイン業」の外にいると言える。加えて2割強はフリーランスで、そもそも倒産統計にも事業所統計にも現れません。
とはいえ、いずれも生成AIが普及する前のデータです。つまり、AIがこの産業にどう影響しているのかを測れる数字は、今のところ公的統計の側にも存在しません。TSRのレポートを責めても仕方がない、というのはこの意味においてです。
実際私自身、このAI起点の話ではないものの、デザイン業界やデザイナー全体を俯瞰したデータが無いことには不便を感じる機会も多く、近しいデータがあれば(例えそれが断片的であっても)、それを起点に考えを巡らすことも少なくありません。
幸い、今年6月には5年ぶりの経済センサス‐活動調査が実施され、2025年の売上高を含む全数データが2027年にかけて出てきます。ただ、それを待つだけでは、また5年後に同じ議論を繰り返すことになる。数字がないのではなく、あるはずの数字が我々の輪郭に合っていない。メディアという立場としては、この課題感こそ何らかの形で解かねばと強く感じる機会でした。
モノより、人をつくるほうが難しい。それでもインハウスデザイナーを育て続ける理由──パナソニック 臼井重雄 × 富士フイルム 堀切和久
そもそもデザインは、単独では完結しないものだと私は感じています。商品開発や広告、ブランド、経営などと結びついて初めて、新しいデザインが生まれていく。だからこそ、そうしたデザインの“差し込み口”をどれだけつくれるかが重要です。
これをデザインの話と言うかは少し悩ましいですが、冒頭で書いたAIの話を踏まえて考え方の参考になったものです。
丸の内で17日から開催されるシャープのデザイン展。その昔、各家電メーカーのWebサイトに掲載されていた開発背景やビハインドストーリーを穴が空くほど読んでいた人間なので、これは見に行きたいと思っています。
隔週配信予定

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